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 日韓両政府は25日、岸田文雄外相が28日にソウルを訪れ、韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相と会談すると正式に発表した。日韓は慰安婦問題での妥結を目指しており、日本政府予算で医療・福祉支援を実施することで最終調整。日本側が新たな基金を創設する方向で検討している。安倍晋三首相が元慰安婦に伝える言葉などをめぐり、立場の違いが残っている模様だ。

 交渉の内情を知る複数の関係者によると、日韓は外務省局長協議や、国家安全保障局と韓国大統領府の協議などを通じ、①安倍首相が手紙などで元慰安婦へ伝える言葉②駐韓日本大使による元慰安婦の慰問③元慰安婦への日本政府予算での医療・福祉事業の実施――を軸に交渉を続けてきた。

 このうち、医療・福祉事業については、2007年に解散した「アジア女性基金」のフォローアップ事業を拡充し、元慰安婦に医薬品などを届けてきた医療・福祉支援を手厚くする方向で一致。同事業は来年度当初予算案に約1300万円を計上する予定で、拡充して新たな基金とする案について外務省が財務省などと調整している模様だ。

 韓国側が受け入れ可能な支援額として、李明博(イミョンバク)、野田両政権時代に協議した一人あたり300万円程度を基礎としているという。存命の元慰安婦は46人。

 ただ、民間資金を充てたアジア女性基金で「償い金」とした名称について、韓国側は、日本政府が責任を認めたと解釈できるような名称を希望しており、日本側の見解と食い違いが残る。

 安倍首相が元慰安婦に伝える言葉をめぐり、韓国側は、慰安婦制度への軍の関与を認めておわびを表明した河野談話の継承を要請。元慰安婦を納得させるために日本政府の責任に言及するよう求めているという。

 ただ、日本側は、慰安婦問題は法的に解決済みとの立場を変えず、「責任」という言葉に難色を示してきた。安倍首相が過去に使った「首相として心から同情し、申し訳ないという気持ちでいっぱいだ」という表現を基礎に、「自責の念」といった言葉を使う案も協議してきたという。

 11月の日韓首脳会談で日本側は、ソウルの旧日本大使館前に設置された慰安婦少女像の問題について懸念を伝えた。日本側関係者の一人は「民間団体の事業だから、韓国政府が撤去できないのはわかるが、少女像が日韓関係に悪影響を与えていることを認める必要がある」と指摘。韓国政府に対し、何らかの意思表示をするよう求めている模様だ。

 韓国側は「慰安婦問題が解決されれば、自然に少女像もなくなるはずで、議論の順序がおかしい」(政府関係者)と反発している。

 日本側は今回の合意で慰安婦問題の最終決着としたい意向。日韓双方が、岸田氏の訪韓時に合意に持ち込みたい考えだが、難航した場合は、安倍首相と朴槿恵(パククネ)韓国大統領の政治決断に委ねる可能性もある。岸田氏は25日、記者団に「慰安婦問題は非常に難しい問題だが、自分としてもぎりぎりの調整を行いたい」と述べた。(牧野愛博=ソウル、安倍龍太郎)