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中村 喜久夫(明海大学不動産学部教授・不動産鑑定士)
2017年4月3日 (月)

おとり広告の排除へ。借りられない物件はなぜ広告される? 3つのワケとその対策

おとり広告の排除へ。借りられない物件はなぜ広告される? 3つのワケとその対策
写真/PIXTA
社会問題として非難を浴びる不動産のおとり広告。2017年1月より(公社)首都圏不動産公正取引協議会(公取協)と不動産ポータルサイト5社が協力しておとり広告を撲滅する施策がスタートした。その効果、今後の課題について関係者に話を聞いた。

社会問題化するおとり広告

賃料の安い物件が広告されていたので不動産事業者を訪問すると「昨日、申し込みが入ってしまいました」などと言われ、別の物件を勧められる。実は広告に出ていた物件はとっくの昔に入居済であったり、架空の物件だったりする。これがいわゆるおとり広告だ。昨年来、TV、新聞、雑誌などでさかんに取り上げられている。今回の施策により悪質な業者を業界から締め出すことができるのか。まずは公取協の齊藤卓事務局長に話を伺った。

【画像1】公取協 齊藤卓事務局長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

【画像1】公取協 齊藤卓事務局長(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)

悪質な業者は広告が掲載できなくなる

―― 改めて今回の施策についてお聞かせください。
公取協から違約金の措置を受けた不動産事業者は、at home、CHINTAI、HOME’S、マイナビ賃貸、SUUMOに広告掲載ができなくなるというものです。停止期間は原則として1カ月以上です。

―― 5つのポータルサイトのすべてに広告掲載ができなくなる、というのがポイントですね。
従来から各ポータルサイトは、おとり広告をする事業者を掲載停止とするなど対応策を取ってきました。しかし各社がバラバラに対応していたのでは、効果が半減します。おとり広告によりSUUMOを掲載停止となった事業者は、HOME’Sにおとり広告を掲載する。HOME’Sも掲載停止になれば今度はat homeに掲載する、ということが可能になってしまうからです。

―― 悪質な事業者の排除が期待できそうですね。
不動産事業者の集客は、不動産ポータルサイトによるところが大きいです。この5つのサイトを全て利用できないということは、悪質な事業者にとって大打撃になると思います。

今後は、首都圏以外にも取り組みが広がる

―― 業界は今回の施策をどのように評価しているのでしょうか。
齊藤:おおむね好意的に受け止めていただいています。5社とは別のポータルサイトからも取り組みに参加したいという要望も頂戴しました。停止期間をもっと長くすべきだという意見もいただいております。

―― とはいえ措置対象となったのは、1月は6社、2月は4社です。少ない!というのが消費者の率直な感想だと思うのですが。
齊藤:この施策は、まだ始まったばかりです。不動産事業者の間に浸透していくことで、おとり広告は減っていくと考えています。いわゆる抑止効果も期待できると思っています。

―― 今回の施策は首都圏のみで実施されていますが、今後この取り組みは広がっていくのでしょうか。
齊藤:不動産ポータルサイトからは全国で実施したいという要望を受けています。当協議会は、全国9地区の不動産公取協で組織する不動産公正取協議会連合会の事務局も担っておりますので、2月14日付で同連合会の会長名で各地区の公取協に対し、首都圏と同様の施策をとるよう要望文書を出しました。

「借りられない物件」が広告される3つのワケ

実際に広告を掲載する不動産ポータルサイトではどのような取り組みをしているのか。SUUMOの物件調査グループの担当者にも話を聞いた。

―― SUUMOはおとり広告に対して、どのような対応を取っているのでしょうか。
SUUMO担当者:おとり広告に限らないのですが、広告内容に誤りがあった事業者へは罰則ポイントをつけています。一定ポイントを超えたものについては掲載停止などの措置を取っています。

―― 全部が掲載停止になるわけではないのですね。
SUUMO担当者:「契約済だ」というご指摘の大部分は不動産事業者間の指摘によるものです。また、その多くは契約してから2週間以内の物件ですから、故意に契約済物件を載せているというよりも、大半は削除忘れやタイムラグによる掲載が原因だと考えられます。

―― タイムラグですか?
SUUMO担当者:賃貸住宅の場合、貸主・管理会社から依頼を受けた複数の不動産事業者が、広告を含めた募集活動をするということが多いです。貸主・管理会社が自ら広告するのであれば、成約状況をリアルタイムで把握することができますが、入居者募集に複数の事業者が関与している場合、A社が申し込みを受けても、B社、C社がそれを知るまでにタイムラグが生じる、ということも起こりえます。

―― 集客のために故意に契約済み物件を載せるのとは違う、ということですか。
SUUMO担当者:そうです。そういった事業者を掲載停止にして、物件を一切掲載しないことは消費者の選択肢を狭めることにもなりかねないという面もあると思います。

【画像2】「借りられない物件」には、(1)タイムラグや(2)削除忘れもある。(1)や(2)を行った事業者まで制裁措置の対象とすることは、物件選択の幅を狭めることになりかねない(図作成/不動産アカデミー)

【画像2】「借りられない物件」には、(1)タイムラグや(2)削除忘れもある。(1)や(2)を行った事業者まで制裁措置の対象とすることは、物件選択の幅を狭めることになりかねない(図作成/不動産アカデミー)

「借りられない物件」の広告を減らしていく

―― うーん、悪質ではないとしても、「借りられない物件」の広告は困るのですけど……。
SUUMO担当者:もちろんです。不動産事業者に対しては、1週間に1回は情報更新していただくとともに、契約済みであることが分かった場合には速やかに物件情報を削除することをお願いしています。また4月からは、クレームが入る前にSUUMOから進んで調査をすることを検討しています。これにより、タイムラグや削除忘れによる「借りられない物件」の掲載をかなり減らせることができるのではと考えています。

【画像3】ポータルサイトの物件ページには「次回更新日」が記載されている。この日より前であっても契約済であることが分かった場合には掲載を削除する。これが徹底すれば「借りられない物件」の広告は大きく減るはずだ(図作成/不動産アカデミー 出典/SUUMO物件詳細ページ)

【画像3】ポータルサイトの物件ページには「次回更新日」が記載されている。この日より前であっても契約済であることが分かった場合には掲載を削除する。これが徹底すれば「借りられない物件」の広告は大きく減るはずだ(図作成/不動産アカデミー 出典/SUUMO物件詳細ページ)

正確な情報提供のためには管理会社の役割も大きい

SUUMO担当者:また、管理会社との連携を強化することにも力を入れています。
―― と言いますと?
SUUMO担当者:契約済み物件が掲載される理由として、管理会社から広告を掲載する不動産事業者に対し提供される情報が遅い、間違っているということも少なくないのです。極端な場合には、申し込みが入っていても「2番手、3番手を募集するために、広告を続けてください」と回答することもあると聞いています。

―― 2番手募集ですか?
SUUMO担当者:そうです。申し込み後のキャンセルを恐れたり、年収等によっては入居審査で落ちたり、ということもあるためです。

―― 正しい情報提供のためには管理会社の協力も不可欠ということですね。
SUUMO担当者:そのとおりです。管理業者の団体である(公財)日本賃貸住宅管理協会さん、全国賃貸管理ビジネス協会さんなども、おとり広告による業界の信用低下に強い危機感を抱いています。SUUMOとしてはこれら業界団体と連携を取って、管理会社への指導、情報提供を強化しています。

【画像4】管理会社からの正確な情報提供がなければ、不動産ポータルサイトに正しい情報が掲載されない(図作成/不動産アカデミー)

【画像4】管理会社からの正確な情報提供がなければ、不動産ポータルサイトに正しい情報が掲載されない(図作成/不動産アカデミー)

賃貸住宅は資産運用。理由もないのに安い物件があるわけがない

―― なるほど。最後に物件を探す際のアドバイスがあればお願いします。
SUUMO担当者:やはり極端に安い物件には注意するということだと思います。賃貸住宅は貸主の立場から言えば資産運用です。理由もなく安く提供するはずはありません。安いなりの理由があるはずです。事故物件であるとか、定期借家で契約期間が短いとか。これらは広告に表示するのがルールです。

―― 広告をよく見よ、ということでしょうか。
SUUMO担当者:日当たりや周辺環境が劣るなど必ずしも広告に表示されない事項もあります。極端に安い物件については、何か理由があるのか不動産事業者を訪問する前に確認したほうがよいと思います。

当たり前の世界の実現を

「借りられない物件」には、(1)タイムラグ、(2)削除忘れ、(3)故意の3つがある。今回の公取協による施策(ポータルサイト一斉掲載停止)は、(3)を行う悪質な業者を排除するものだ。今後はポータルサイト側からの調査も行われる。短期間に多くの問い合わせを集めている物件を集中的に調査するなどネット広告ならではの調査手法も考えられる。(1)、(2)を含めた「借りられない物件」の広告は、どんどん減っていくはずだ。

とはいえ、「借りられない物件」がすぐに0になることは難しいだろう。理由もなく安い物件は、「もしかしたら、おとり広告かも」と用心することも当面は必要かもしれない。

言うまでもないことだが、「借りられない物件」をなくす責任は情報を提供する側にある。不動産事業者、管理会社、不動産ポータルサイト、それぞれがこの問題に本気で取り組むことが必要だ。借りられる物件だから広告されている、という当たり前の世界が1日も早く実現することを期待したい。

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