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安倍晋三・改憲メッセージの大嘘

2017年5月 9日 09:30

首相会見会見2.png 憲法記念日の3日、安倍晋三首相が改憲集会にビデオメッセージを送り「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と表明した。首相が示した改正項目は9条。「1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む」のだという。「国民的な議論に値する」と胸を張ったが、唐突に発せられたメッセージ自体が大嘘。首相は、自身の公式サイトの中で≪第9条では「自衛軍保持」を明記すべきです≫と述べていた。
 自民党や、憲法改正を目指す「日本会議」が目の敵にしてきたのが9条2項。改憲勢力は同項の撤廃を目指しており、安倍のメッセージが、本音を隠した国民の誘導策であるのは確かだ。嘘とごまかしで政権を維持してきた安倍が、進まぬ憲法論議に業を煮やし、本来の主張をかなぐり捨てた格好となっている。

■改憲勢力に媚びる安倍
 首相がビデオメッセージを寄せたのは、新憲法制定をめざす極右団体「日本会議」が主導する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」と「民間憲法臨調 」が主催した憲法フォーラム。同フォーラムには、国民の会共同代表の櫻井よしこ氏の他、衆院憲法審査会のメンバーになっている自民、公明、維新の議員が参加していた。問題のメッセージで首相は、以下の内容を語っている。

 ・憲法改正は、自由民主党の立党以来の党是。 ・国会議員は改憲について「具体的な議論」を始めなければならない時期に来ている。
 ・大規模な災害が発生したような緊急時のために、憲法の中に「緊急事態条項」を規定すべき
 ・自衛隊に対する国民の信頼は9割を超えているが、憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が存在しており、「自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ」というのは無責任。
 ・私たちの世代で、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置づけ、「自衛隊が違憲かもしれない」などといった議論が生まれる余地をなくすべき。
 ・9条の平和主義の理念については、同条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込むべきで、これは国民的な議論に値する。
 ・国の未来の姿を議論する際、教育は極めて重要なテーマ。「一億総活躍社会」を実現する上で、教育が果たすべき役割は極めて大きい。そのため、高等教育についても無償化すべき
 ・日本が生まれ変わる夏季オリンピック、パラリンピックが開催される2020年を新しい憲法が施行される年にしたい

 安倍は“緊急事態条項”、“高校教育の無償化”、“9条への自衛隊の明文化”、“2020の新憲法施行”を改憲の基本姿勢としているが、この方向性と安倍のこれまでの主張には整合性がまったくない。安倍晋三公式サイトの「政策」を開くと、憲法改正が必要と考える理由の一つとして、安倍は次のように記している。

 憲法が制定されて60年が経ち、新しい価値観、課題に対応できていないことです。例えば、当時は想定できなかった環境権個人のプライバシー保護の観点から生まれてきた権利などが盛り込まれていません。もちろん第9条では「自衛軍保持」を明記すべきです地方分権についても道州制を踏まえて、しっかりと書き込むべきです

1-安倍公式サイト.png

 安倍がビデオメッセージで示した改憲の基本姿勢の中には、環境権も、個人のプライバシー保護の観点から生まれてきた権利も、道州制を踏まえた地方分権も出てこない。さらに、9条に書き込むべきだと公式サイトで明言しているのは「自衛軍」であって「自衛隊」ではない。安倍が本当に目指しているのは「軍」なのだ。

 それを証明する発言が、2015年3月の参院予算委員会で安倍自身の口から発せられていた。安倍は自衛隊を「わが軍」と呼び、物議を醸す状況となったのである。前述した通り、自衛隊は戦争遂行を目的とした「軍」ではない。一斉に起こった野党各党の批判に対し、首相はその後の参院予算委で、発言について「共同訓練の相手である他国軍との対比をイメージし、自衛隊を『わが軍』と述べた。それ以上でもそれ以下でもない」と強弁。菅義偉官房長官も「問題ない。自衛隊も軍隊の一つだ」と開き直って首相を擁護し、政権ぐるみで自衛隊を「軍」と認めた形になっていた。「同条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込むべき」というビデオメッセージの一言は、本音を隠すためのごまかし、まやかしに過ぎない。

 それでは安倍はなぜ、これまでの持論と違った方向性を打ち出したのか――。彼がビデオメッセージで掲げた改憲事項を見れば、狙いは明らかだ。緊急事態条項は、近年日本会議が特に強めている主張。高校教育の無償化は、日本維新の会が掲げるテーマである。つまり、衆参両院で改憲発議に必要な3分の2を確保するため、改憲勢力に媚びた結果なのである。

■国民誘い出しのエサ
 安倍がビデオメッセージで語った“9条への自衛隊の明文化”は、“同条1項、2項を残しつつ”できる話ではない。9条2項は、≪正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する≫という目的を達成するため≪陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない≫と規定しており、この2項の条文がある限り、戦力としての自衛隊を明文化することはできないからだ。「戦争ができる美しい国」を目指す安倍にとって、戦力ではない自衛隊など何の意味のない。前述した安倍晋三公式サイトの記述でも明らかなように、自衛隊を「自衛軍」にしたいというのが安倍の真意。ならば、ビデオメッセージの内容は、国民を憲法論議に誘い出すためのエサでもある。

■イメージ先行に騙されるな
 衣の下に鎧が見える状況だが、そもそも、現在の右寄り自民党には9条2項の撤廃を主張する物騒な議員ばかり。党内で改憲への議論をリードしてきた高村正彦副総裁は、あるゆる場面で「9条の2項は、削除する必要がある」と明言しており、「2項を残しつつ」では、党内の賛同さえ覚束ない。進まぬ憲法論議に焦った安倍の一手を喜んでいるのは、日本会議や日本維新など極右の連中だけ。唐突な提案に共感を抱く国民は少ないだろう。そもそも、憲法改正の期限を切ったことを含め、安倍の発言内容は意味不明だ。

 ビデオメッセージは相変わらずのイメージ先行。2020年オリンピック、パラリンピックの年に日本が生まれ変わるというが、何がいけなくて、どう生まれ変わるというのか、さっぱり分からない。安倍の十八番である「美しい国」同様、中味のないごまかしなのである。高等教育を無償化するとしているが、民主党政権が行った高校の授業料無償化に、ばら撒きだとして猛反対したのは自民党だったはず。事あるごとに民主党(現・民進党)を批判してきた安倍が、偉そうに言える政策ではあるまい。高等教育の無償化は、法律を作りさえすれば可能なのであって、憲法を変える必要などない。そもそも、安倍が“国民ために”何かをやるとは思えない。

■国民軽視-「読売新聞を読め」の傲慢
 この戦争好きの首相が、国民や国会を軽視しているのは確かだろう。8日に始まった衆議院予算委員会の集中審議で安倍は、改憲メッセージについて追及した民進党の長妻昭議員に対し、「自民党総裁としての考え方は読売新聞に相当詳しく書いてあるから、ぜひ熟読していただきたい」と答弁。一国の宰相が、特定メディアの記事を「読め」という、前代未聞の展開となった。読売は、周知の通り安倍政権の御用新聞。独自に憲法改正試案を世に問うほどの右翼的な新聞社だ。その読売新聞に自身のインタビュー記事が掲載されているから「読め」というのだから、開いた口が塞がらない。国権の最高機関である国会を侮辱する発言であり、国民軽視の実相をさらけ出した場面だったと言えよう。安倍晋三が、憲政史上最低の総理大臣であることは間違いない。

 憲法99条は、「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」として、公人の憲法擁護義務を規定している。憲法改正に前のめりとなる安倍は、明らかに憲法違反の政治家だ。憲法も、国会も、国民も軽視する安倍が、平和国家日本を根底から覆そうとしている。



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