バカチョン

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バカチョンとは、主にオートフォーカス機能付きコンパクトカメラの俗称として1980年代ぐらいまで使われた日本語「バカチョンカメラ[注 1]の前半部。後述の経緯により現在は放送禁止用語となっている。

意味・用法[編集]

「バカチョンカメラ」の意味については諸説ある。

  1. 「バカでもチョンでも使えるカメラ」の略語という説。
  2. 「バカでも(シャッターを)チョンと押せば撮影出来るカメラ」の略語という説。
  3. 「vacation camera」(バケーション カメラ)のローマ字読みという説。

1.の説について、「ちょん」が江戸時代から「『半人前』や『取るに足らない人』のことを、芝居の終わりに打つ拍子木の音になぞらえた言葉」として存在する事から、「バカチョン」にも差別的意図は無いとする説が一部で見られるが、「バカチョン」ひとまとまりの用例が見られるのは戦後であり、朝鮮人差別の意図が無かったかどうかは定かではない。

「バカチョンカメラ」という言葉は日本語としても語呂がよくインパクトの強い表現であったため、口語のみならず活字表現としても広く使用され、コンパクトカメラ全体を指す代名詞となった[1]

バカチョンカメラは従来、カメラと縁遠かった女性や子供を販売の対象としており、かつて高嶺の花であったカメラを安い値段でいつでも何処でも誰でも簡単に撮影できるものとした商品であった。こうした事情から、単に見下した侮蔑語ではなく、コンパクトカメラに対する親しみも込められていたと考えられる。

差別表現とされた経緯[編集]

「チョン」が朝鮮人を指す蔑称として使われるようになると、「バカチョンカメラ」も「バカでも朝鮮人でもできる」という差別用語として捉えられ、抗議が相次いだことで、マスコミが使用を自粛するようになった。「バカチョン」という言葉がマスコミ各社で、いつから自粛されるようになったのかははっきりしていないが、「バカチョンカメラ」という語に対し差別表現であるとマスメディア等が抗議を受けた例としては、1975年2月にエジプトから帰国した三笠宮崇仁親王NHKにて「バカチョンカメラをもってゆくべきだった」と語った際のものが古い[2]。NHKによって発表された「NHKの考える放送可能用語」に民放各社が追従するようになった2008年以降の日本では、特に放送業界において反射的に放送禁止用語となり、廃語になっている。

1992年には、西村京太郎作品に「バカチョンカメラ」という表現があると、全国在日朝鮮人教育研究協議会(現:全国在日外国人教育研究協議会)広島が抗議したことにより光文社講談社発行の書籍が回収され、改訂版で謝罪文を掲載した[3][4]

八巻正治も自著「羊の国から学んだこと」の中で「全自動カメラのことを『バカチョンカメラ』などと言う人もいますが、これは『バカ=知的ハンディキャップを有した人や、チョン=チョソン(韓国・朝鮮の人々)でも写せるカメラ』を意味する差別表現であることを、どれほどの人が理解しているのでしょうか?」と記している[5]

三省堂が発行する新明解国語辞典では、1981年2月1日に発行された第3版では見出し語として「ばかちょんカメラ」が存在したが、2011年に発行された第7版では既に見出し語からなくなっている。

また、高度な技能及び知識を必要とせず、簡単便利に使えることを意味する語として、「バカチョン」の利用例を見つけることができる[6][7]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 三省堂新明解国語辞典 第三版』では「ばかちょんカメラ」と表記されている。

出典[編集]

  1. ^ 木村伊兵衛「バカチョン・カメラの可能性 (《写真についての写真》展に向けて)」『美術手帖』第382号、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、1974年6月、154-155頁、doi:10.11501/7923937ISSN 0287-2218NAID 40003237766NDLJP:7923937 
  2. ^ "「バカチョン」は江戸時代からあった、なぜ放送禁止用語となったのか". ダイヤモンド・オンライン. ダイヤモンド社. 2017年12月23日. 2024年3月23日閲覧
  3. ^ 趙凌梅『日本語における差別語概念の変遷 ―1960年代以降の差別語問題から考える―』〈東北大学 博士(国際文化), 甲第17237号〉2016年、108頁。hdl:10097/00096915NAID 500001052001 
  4. ^ 堀田貢得『実例・差別表現 : あらゆる情報発信者のためのケーススタディ』(改訂版)ソフトバンククリエイティブ、2008年5月19日。ISBN 978-4-7973-4661-9NCID BA86056115全国書誌番号:21513524 
  5. ^ 八巻正治『羊の国で学んだこと』学苑社、東京、1995年、38頁。ISBN 4-7614-9504-9OCLC 222468961 
  6. ^ 野寺隆「数値解析の道具箱(数値解析と科学計算)」『数理解析研究所講究録』第717号、京都大学数理解析研究所、1990年3月、178-187頁、CRID 1050001202299606912hdl:2433/101763ISSN 1880-2818NAID 110006277956 
  7. ^ 中川利三郎「「バカチョン」農政に決着つける (各党政策と反共的逆流の批判<総選挙特集>) -- (冷害の地・東北から)」『前衛』第403号、日本共産党中央委員会、1976年12月、214-218頁、doi:10.11501/2755836ISSN 13425013NAID 40002191541NDLJP:2755836 

関連項目[編集]