バレンタインチョコ、3割の男性は食べない —— 食品ロスをオフィスでなくす取り組み

クリスマスケーキ、恵方巻き、バレンタインのチョコレート......。イベントの当日までは重宝される品々も、翌日以降は途端に色褪せる。民間の調査によると、バレンタインのチョコは、約3割の男性がもらっても食べていないという。

イベントに限らず、日常的に発生する食品ロスを減らすには?オフィスの社食、置き菓子が徐々に解決の手段になっている。

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イベント直後に関心を集める食品ロスは、日常的にも起きている。

REUTERS/Fayaz Aziz

チョコをもらっても捨てる人

バレンタインを前に店頭に並んだ、数々のチョコレート。どれくらいの量が売れ、実際に消費されているのか。

サービス業「ジーユーエヌ」の調査によると、バレンタインのチョコをもらったことのある男性300人(2015年調査、10〜50代)のうち、約6割が1〜2個、約3割が3〜4個をもらっていた。

うち、「自分でチョコを食べるか」の質問に対し、29.7%が食べていない(自分で食べてないものがある、全て食べていない)と回答した。食べない理由は、「家族が欲しがる」「量が多くて食べきれない」「甘いものが苦手」「健康に気を遣っている」が上位に入った。同社の分析によると、「30代以上は、健康意識の高さに加え、ヘルシーなチョコを求めるヘルシー志向を持つことが明らかになった」という。

調査の中で注目するのは、チョコを食べていないという人のうち、子ども、妻、彼女にあげる人が大半だったが、12.4%は「捨てる」という回答を選んだことだ。

チョコレートをどうするか

出典:ジーユーエヌ

チョコは賞味期限が長く、製菓店店主は「ほかの食品に比べて、(食品メーカーや流通業者)は廃棄は少ないのでは」と話す。食品の寄付を受けるフードバンクの担当者によると、バレンタインの後にチョコの寄付は「少し増えるような気がするが、正確にはわからない」という程度の実感だ。

恵方巻きをはじめ、イベントがある度に問題視される食品ロスだが、日常的に食品ロスは発生し、全体の食品ロスのうち、半分弱が家庭から、半分強が業者から発生する。

国の統計によると、食品ロスの年間の量は、632万トンに上る。1人あたりに換算すると、「お茶碗1杯分の食べ物を毎日捨てている」ことになる(農林水産省と環境省の調査)。大量に業者から発生する食品ロスを、オフィスで解決しようとする取り組みが広がっている。

オフィスで食品ロスを循環

ヘルシースナッキングステーション

シェアオフィスで廃棄前のヘルシーなスナックを販売する。

廃棄前のオーガニックな食品を販売する「ヘルシースナッキングスタンド」。オーガニックなココナッツオイルを世に広めた「ブラウンシュガーファースト」の荻野みどり社長(35)が、2017年12月から始めた。

オフィスの置き菓子の代わりに、プロジェクトに賛同した業者のオーガニックな食品を集め、定価の3割引などで卸す。賞味期限は十分に残っているが、通常の流通には乗らない商品が集まる。販売先は、都内のシェアオフィス。高カロリーな置き菓子よりも、ヘルシーな間食を提供することで、「生産性を上げるオフィスの付加価値に」と、2018年1月の導入が決まった。今後は20拠点に広げていく。

社員食堂も循環の場に

食べ物を棄てない日本計画

オフィスで食品ロスの循環を生む、荻野みどりさん。

荻野さんは2017年10月から、ツイッター上で「#食べ物を棄てない日本計画」として、アイデアを募った。ヘルシースナッキングスタンドのほか、企業の社員食堂や飲食店に安価に卸したり、スーパーで廃棄される前の食材を組み合わせた商品開発もしたりしている。

大手IT企業の社員食堂が導入し、賞味期限が残り1カ月になった食材を6割引で販売した。安定供給が課題だが、オーガニックな食材を手頃な価格でレシピに加えられるため、社員の健康管理に生かすことができるという。「サプライチェーンではネガティブな食品も、場所を変えるだけで(廃棄前の食品を)使ってもらえる」と荻野さん。

ヒット商品も一瞬で1万本がパーに

荻野さんがプロジェクトを始めたのは、自社の廃棄がきっかけ。月に1万本も売れるヒット商品だが、賞味期限、納品ミスの瞬間に「価値がゼロになる」(荻野さん)。多い時で出荷のコンテナ1個、1万本が「パーになる」。

「食品の納入期限は、製造日から賞味期限の3分の1時点まで」(通称・3分の1ルール)とする業界の慣習がよく知られているが、人為的なミスで流通から排除される場合も多く、食品メーカーの廃棄原因になっている。賞味期限が「day,month,year」の順で海外の表記になっていたり、ブランドのロゴシールがなかったり、納期の日付を1日間違えただけだったり、という理由でも廃棄につながる。

荻野さんのプロジェクトに賛同する業者の中には、海外のベストセラー商品で、ロゴシールがないだけで物流に乗せられない事例があった。

「食品ロス」はタブー、寄付より売る努力

食べ物を棄てない日本計画

荻野さんが始めた「#食べ物を棄てない日本計画」。

プロジェクトを進める中で荻野さんが感じたのは、業界の「食品ロス」に対するタブー。

賛同業者は20〜30社集まったが、別の業者にヒアリングをしても、「食品ロスはない」と次々と口をつぐまれた。

食品業界にとって、食品ロスはNGワードなんです、すごく繊細で、話を振った途端、(業者は)貝になる」と話す。「食品廃棄物を出してしまうのは、経営努力が足りないと見られると思っているからでは」と荻野さんはみる。

中には「フードバンクに寄付している」と胸を張る業者もいたというが、荻野さんは「最後の1日まで売る努力」にこだわる。

「商品の利益が出ないと次のサイクルにつながらないから」

さらに、有機栽培に苦労する生産者を思うと、帳簿上で“廃棄”の手続きをするのが精一杯で、在庫を管理する物流の拠点で“廃棄物”を直視する気になかなかなれないとも。

生産者から家庭に届くまでの各行程が分業化し、無機質に廃棄が進む。632万トンの食品ロスは、もとを辿れば、どれだけの生産者、資源が関係しているのだろうか。オフィスでの地道な取り組みが、少し立ち返ってみる機会になれば、と願う

(文、撮影・木許はるみ)

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