いったいアイアン表札がどんなものなのか、神奈川県鎌倉市でアイアン表札や看板を制作する、ニュー鍛冶屋小宮製作所の小宮あいさんに話を伺ってきた。
小宮さんによると、アイアン表札は厚さ6mmの鋼材を使用し、一つひとつ手作業でつくる表札のようだ。1枚の鉄板をガス溶断『斬鉄(ザンテツ)』というオリジナル手法でカットするそう。そうすることで、鉄の断面には手切りならではのノッチ(縦の筋)ができ、独特の風合いに仕上がるとのこと。その後、鉄職人独自の仕上げの手が加わり完成する。
これだけでも鉄職人のこだわりの強さが伺えるのだが、そもそもどうして鉄で表札をつくろうと思ったのだろうか?
「夫で鉄職人の小宮賢人は、17歳のころから鉄工所勤務をしていました。20歳くらいのころに、友人が営業しているバーに、鉄製の看板をプレゼントしたところ、友人がとても喜んでくれたことがつくり始めたキッカケです」(妻の小宮あいさん)
自分だけにしかつくれないもので相手に喜んでもらいたい。そんな気持ちが芽生え、オーダーメイド品の受注や、溶接教室を開きながら地道に歩んできたそう。ちなみに小宮賢人さんは、鉄歴32年の大ベテラン。アート作品も数多く手掛けており、さまざまな展示会にも出展し、受賞経歴もあるのだが、実はデザインに関しては完全な独学。型にはまらないデザインは、長年鉄だけにこだわり触れあってきたからこそ出せるものなのだろう。
鉄職人のこだわり&温もりが詰め込まれたアイアン表札。どうせなら自分だけのオリジナルデザインでつくってほしい。小宮さんに確認したところ、もちろんオリジナルデザインもOKだそう。手書きのデザインやイメージ画像、仕上がりの雰囲気を言葉で伝えるだけでも制作できるとのこと。これなら、デザインが苦手な人でも気軽にオリジナル表札をつくれそうだ。
しかし、手づくりのオーダーメイド品となると、気になるのはお値段……。とても高そうだと勘ぐってしまうのだが、実は意外と安く(?)大体の表札は3万円~4万円ほどで制作できるそう。もちろんケースバイケースなので、前述の金額は目安程度に留めておくといいだろう。また、納期までには3週間ほど時間がかかるようなので、購入の際は早めのオーダーがいいかもしれない。
知れば知るほど欲しくなるアイアン表札だが、鉄製だけにサビが心配。メンテナンスで気をつけるべきポイントはあるのだろうか?
「いずれサビても構わない場合は蜜蝋(みつろう)仕上げ。サビがイヤな場合はサビ止め塗装・黒塗装仕上げになります。ただし、後者の場合であっても絶対にサビないということではありません」(小宮あいさん)
やはりサビてしまうのか……。と、落胆しそうになるが、小宮さんいわくサビは鉄の醍醐味のひとつだそう。蜜蝋仕上げの場合は、サビが出てきたら、柔らかい布で蜜蝋ワックスや椿油をサビの上から塗り込んでメンテナンス。そうすることで、徐々に鉄の質感が増して独特の鉄の風合いを楽しめる。また、サビ止め塗装・黒塗装仕上げでサビてしまった場合は塗料を上塗りするのだが、こちらも長い年月の間に塗料が重なり、少しずつ表情が変化するのを楽しんでほしいとのことだ。ちなみに、もとの鉄板が厚さ6mmもあるため、朽ち果てるという心配は無用。
また、取り付けに関しては、壁面にドリルで穴を開け、強力接着剤を注入。表札の裏についているピンを差し込むだけ。日ごろから日曜大工をしている人なら簡単に取り付けができるそう。もし取り付けに不安があるようなら、工務店などに依頼をするとよいだろう。
木やガラス、機械切りの鉄など。表札の種類は数多くあるが、どれも似たり寄ったりでピンとこない。そんなときには、鉄職人が丹精込めてつくる世界にたったひとつだけのオリジナルアイアン表札はいかが?