就活で採用抑える「女子フィルター」人事担当者が語る実態。医学部と同じ構図が企業にも

医学部の入試で女子や浪人生を不利に扱う不正入試問題が東京医科大学以外でも次々と明らかになり、批判を浴びている。

東京医科大学の入り口

東京医科大学が入試で女子や浪人生を不利に扱っていたことが発覚したが、他大学でも……。

撮影:今村拓馬

順天堂大学医学部の場合は2017~18年の1次と2次試験の合格ラインに達していた受験生165人(女子121人)を不合格にしていたことを公表した(順天堂第三者委員会「緊急第一次報告書」2018年12月3日)。

なぜ女子を差別するのか。

東京医科大学は、女性は結婚や出産で職場を離れるケースが多いこと、体力面や長時間労働に耐えられないことなどを理由に挙げていたが、順天堂大は別の新しい理由をひねり出してきた。

同大の新井一学長は記者会見(2018年12月10日)で、こう発言している。

「18歳ぐらいだと女性のほうがマチュリティ(精神的成熟度)が高いので入学試験で補正を行った」

「女性はコミュニケーション力が高いので将来の男性の伸びしろを意識して補正した」

つまり性差による差別の存在を認めている。

驚くのは順天堂大学内でも性差別が周知の事実だったことだ。報告書でも明らかにされた。

さらに医学部らしく、性差によるコミュニケーション力の違いを裏付ける医学的検証を記載した学術誌の記事を第三者委員会に提出している。性差による能力の違いを研究するのは勝手だが、個人の努力を平等に評価する入試の現場に持ち込むことは、科学的権威を利用して個々の人間の価値を貶める科学原理主義そのものでしかない。

こうした“入り口”での性差による差別は医学部入学に限らず、企業の採用でも男女比を調整する手法が横行している。「女子フィルター」と言われるもので、いわゆる学歴フィルターの一種だ。

説明会の予約時点で「女子フィルター」

就活説明会の様子。

説明会に参加するにも女子の割合は調整されているのだ。

撮影:今村拓馬

企業の選考プロセスは志望企業にエントリー後、会社説明会を経て筆記・面接試験の後に合否が決まる。企業によっては会社説明会への参加から事実上の選考が始まっているところもあるが、実は説明会への参加者を「予約システム」で絞っている企業も多い。予約スタートと同時に先着順に受け付けると思いがちであるが、そうではない。

会場の席数が限られているために、特にエントリー数が多い大企業や人気企業は絞らざるをえないのだが、偏差値上位校など特定の大学の学生を優先的に受け付けるのが「学歴フィルター」だ。それと同じ仕組みで女子の割合を調整するのが「女子フィルター」だ。

その仕組みについてサービス業の人事担当者はこう証言する。

「女子の割合を低く抑えるために会社説明会の参加者から母数をコントロールしています。当社は女子学生の人気企業なので先着順にすると、女子は就活に熱心なので、参加者のうち女子が9割、男子が1〜2割になりかねません。

そのため女子フィルターによってあらかじめ全体の男女の枠を設定し、当社の場合は男子6割、女子4割ぐらいにしています。ですから女性は4割の椅子を巡って競争することになります。これを男性7割、女子3割にすると、さすがにフィルターの存在がばれてしまうので気をつけています」

面接試験に進むための「女子フィルター」は確実に存在する。しかも同社だけではないと人事担当者は言う。

「女子フィルターをやっていない企業は本当に求人に困っている企業ぐらいでしょう。医学部の試験で男子にゲタを履かせて優秀な女子を落としていることとまったく同じことが、大企業の多くで行われていると思います」

だが、会社説明会の女子フィルターはあくまで本選考の面接試験のための母数を調整する手段にすぎない。男女の採用比率はどうやって決まるのか。前出のサービス業の人事担当者はこう語る。

「男女の採用比率は年によって違います。人事としては女性活躍推進が叫ばれているので女子を多めに採用したいという気持ちがありますが、部門長によっては営業は顧客が嫌がるから女子はいらないと言ってくる人もいる。逆に女子でもいいよと言ってくれる部門長もいます。ある部門では女子を入れたけど、やっぱり男子がいいよねとなる場合もあります。最終的には男子7割、女子3割ぐらいになります」

女性の比率が3割ということは説明会の女子フィルターで選別されたうえに本選考でさらに絞り込まれるために極めて狭き門となる。ちなみに不正入試を実施した順天堂大学医学部の2018年度の合格者の男女比率は68.0%:32.0%、昭和大学医学部は70.0%:30.0%とほぼ7対3の割合になっている。

「女性は仕事のハードさに耐えられない」

電話しながら歩く女性

女性採用抑制は差別ではなく、配慮と企業側は言うが……。

撮影:今村拓馬

それにしても企業はなぜ女性の採用を抑制しているのか。前出の人事担当者はこう語る。

「他社の人事の仲間ともよく話すのですが、気持ちとしては男女に関係なく社風に合っている人、優秀な人を採りたいし、会社の将来を担っていけると思える人を採りたい。

しかし、女性は仕事のハードさに耐えられないという肉体的、体力的なハンディがあるのは確かです。実際に長時間労働はなくなっていないし、徹夜することもあるのです。実際に女性に徹夜しろと言っても難しいし、夜遅くまで働かせて終電で帰らせるのは危ないし、会社としても安全配慮義務もあります。これを差別しているのではなく、女性に対する配慮として捉えてもらえればと思います」

ちなみにこの企業は、働きやすい環境や女性が活躍できる仕組みを積極的に整備している。経営者や人事部が積極的に女子の採用比率を向上すべきではないかと言っても現実はまた難しいと語る。

「部門長の中にはお客さんの受けがよいかどうかを気にしている人もいます。お客さんの中には『どうして女性を寄越すのか』と言う偏見を持っている人もいますし、部門内の女性は2割程度でいいと広言する部門長もいます。

少なくなったとはいえ、実際に結婚退職する人もいます。産休・育休後に戻ってくる女性は多いですが、戻っても時短勤務です。朝10時から午後4時勤務だと、お客さんから夜に来いと言われても対応できないし、時短中に終わる仕事ばかりではありません。そうしたことを見込んでどれだけ女性を採用するかを考えているのが現実です」

もちろん業種・業態によって男女の採用比率は異なる。女性を顧客とする消費財メーカーなどのように女性採用比率が7割を超えるところもある。しかし、日本企業の長時間労働に起因する体力面や女性に対する会社内外の偏見などによって女性の採用比率が抑制されている実態もある。その構図は医学部の女性差別と同じである。

本気の経営者はどれだけいるのか

話し合う社員たち。

評価を受けている企業=本当に女性の活躍を期待している企業ではない(写真はイメージです)。

shutterstock / Daisuke Morita

女性の採用数や活躍を促すには経営トップのリーダーシップが重要だとよく指摘される。だが、本気で女性の管理職や役員を増やそうとしている経営者がどれだけいるのだろうか。

ちなみに順天堂大学は平成29年度(2017年度)「東京都女性活躍推進大賞」優秀賞を受賞している。2018年1月18日に行われた贈呈式では小池百合子東京都知事と男女共同参画推進室副室長が並んだ写真が同大のホームページに掲載されている。ホームページには「順天堂大学では、平成23年に学長の指示のもと男女共同参画推進室が設置され、学長の強いリーダーシップのもと文部科学省の支援を受けながら、女性の活躍推進のための様々な取り組みを行ってきました」と書いている。

女性活躍とは単に女性が就業を継続するだけではなく、仕事でも活躍し、管理職をはじめ意思決定層に女性を増やすことだ。当然だが、女性管理職を増やすには女性の母数を増やさなければならない。

国や自治体は女性活躍に関する多くの表彰制度を設けている。だが、受賞企業の全てが本当に女性の活躍を期待しているのか。仮に採用段階で女性を抑制しているのであれば、受賞はあくまで対外的PRのためだけの“受賞狙い”としか思えない。

編集部より:初出時、小池百合子東京都知事と学長が並んだ写真が順天堂大学のホームページに掲載されているとしておりましたが、正しくは男女共同参画推進室副室長でした。訂正致します。 2019年1月8日 14:40

溝上憲文:人事ジャーナリスト。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て独立。人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマに執筆。『非情の常時リストラ』で2013年度日本労働ペンクラブ賞受賞。主な著書に『隣りの成果主義』『超・学歴社会』『「いらない社員」はこう決まる』『マタニティハラスメント』『人事部はここを見ている!』『人事評価の裏ルール』など。

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