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物足りない「数の力」活用 政権安定より政策強化を 論説委員長・石井聡

 国会召集前、政府が組織犯罪処罰法の改正案を提出するというニュースを聞いたとき、多少の意外感があった。

 いわゆる「共謀罪」を盛り込んだ法案は過去に3回、廃案となっており、昨年秋の臨時国会では提出自体が見送られた。

 今年は夏に東京都議選が控えている。テロ対策より選挙対策が優先とばかり、与野党が激しくぶつかる法案として回避されてきたのに、対応を改めたのは前進とも思える。

 安倍晋三政権は数次の国政選挙を経て、国会では圧倒的な数の力を占めている。選挙の目的や成果も「政権の安定」について強調されてきた。

 物足りないのは、法案処理や改革の断行に「数の力」がどれだけ有効に活用されているかという側面である。

 代表例は、憲法改正の項目の絞り込みなどが遅々として進まないことである。憲法審査会の運営は「民主的」に行うという慣例があだとなり、改正に抵抗する政党のサボタージュに付き合っている印象が拭えない。

 高齢化社会に対応し、社会保障制度を維持するのに必要な改革についても、有権者の「痛み」を伴うものには、まだまだ腰が引けがちではないか。

 必要なものであれば、たとえ「人気のない政策」であっても国民や国の利益のため果敢に取り組む。そのために「数の力」が与えられた。国民の負託に応える責務があるという気概を、もっと示せるはずだ。

 「政治とカネ」の問題をめぐり、政治家の財布を厳しく監視する改革にも、自民党は不熱心と言わざるを得ない。定数是正や選挙制度改革について、野党以上に腰が重いと見受けられる場面も少なくない。

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の承認では、野党の反対を押し切った。競争力の強化に向け、農業分野などの規制に切り込むことも、安定勢力だからこそ進めるべき課題だ。

 大所帯が腰を上げなければ、政策は遅滞する。方向を間違えば、改革を妨げる「岩盤」勢力に陥りかねないとの自戒は、責任政党に不可欠である。

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