当コラムの筆者である大城太氏が、師と崇める中谷彰宏氏を招いての対談の2回目。今回は、いかに有益な情報を得るかについて語ってもらった。情報を得るためには、相手に警戒されたらダメ。そのためには、どんなことが必要になるのか。

中谷彰宏氏(左)と大城太氏(写真=深澤明、以下同)
中谷彰宏氏(左)と大城太氏(写真=深澤明、以下同)

中谷:情報を得るためには、知らないふりをしろという話がありましたね。

大城:はい、老子の言葉にある「知不知、尚矣(知りて知らずとするは、尚なり)」を取り上げ、「知っているコトやモノに遭遇しても知らないフリをするのが得策である」と解説しました(『相手を気持ちよくさせる華僑流話術のキモ』参照)。

中谷:情報というものの貴重さは、島のようにコンフォートゾーンにいると分かんないんですね。島で豊かだから。

 ところがその島が豊かでなく、さらに周りに強敵がいっぱいいるところだと、情報というのが一番必要になる。例えば、伊賀の忍者。伊賀は周りが強敵だらけに囲まれた山の中の村で、情報でいかに生き延びていくかが重要です。軍事力では勝てない、生産力では勝てない。そのときに情報という力でどうやって生き延びるかというところから、忍者という情報に特化した特殊部隊が生まれた。

 勝とうとすると、つい俺の方がよく知っているみたいなふりをするけど、本当にうまい人って知らないふりをするのがうまい。私はよく知らないですけどと言っている人を、本当に知らないと思うのではなくて、こいつは怪しいなと思えないとだめですね。

 よくうんちくを語っているおやじが、最も知らない。「ああ、そうなんですか」と横で言っている人の方がよっぽど詳しいんだぞということ。京都なんかはそれが多い。

大城:本当に知らないふりをして、相づちを打っておくことですね。

中谷:演技なんですよ。例えば、「この話、前にしたっけ?」って言われたときに、「え、聞いてない」と。これができないとだめでしょう。正直に「もうその話3回聞きました」と言っちゃうと、これでチャンスを逃すんです。2回目の話だって、1つは新たな情報が加わっているかもしれない。あるいは新しい解釈が乗っているかもしれないのに、ああ、もうそれは聞いたという姿勢だと、そこでチャンスを逃す。

 その人の鉄板ネタだと、その人は話したいわけだから、「それ聞きました」といった時点で、かわいくないやつ。かわいがられる人というのは、同じ話を何回も初めてのように感動して聞けるようになれるかどうか。これはサッカーで日本人が学んだマリーシア(ずる賢い)。ファウルをもらう演技。ファウルを上手にもらっていく演技という。これが必要ですね。プロだから。

大城:そこはプロ意識ですか。

<span class="fontBold">中谷彰宏(なかたに・あきひろ)</span><br />作家。大阪府出身。大学卒業後、博報堂に入社。8年間にわたりCMプランナーとしてTV・ラジオCMなどの企画演出・ナレーションを担当。1991年に同社を退社し、「株式会社中谷彰宏事務所」を設立。ビジネス書から恋愛エッセー、小説まで多岐にわたるジャンルで、数多くのロングセラー、ベストセラーを送り出す。著作は1000冊を超す。私塾【中谷塾】を主宰。全国で、セミナー・ワークショップ活動を行う。<br />【<a href="http://an-web.com/" target="_blank">中谷彰宏公式サイト</a>】
中谷彰宏(なかたに・あきひろ)
作家。大阪府出身。大学卒業後、博報堂に入社。8年間にわたりCMプランナーとしてTV・ラジオCMなどの企画演出・ナレーションを担当。1991年に同社を退社し、「株式会社中谷彰宏事務所」を設立。ビジネス書から恋愛エッセー、小説まで多岐にわたるジャンルで、数多くのロングセラー、ベストセラーを送り出す。著作は1000冊を超す。私塾【中谷塾】を主宰。全国で、セミナー・ワークショップ活動を行う。
中谷彰宏公式サイト

中谷:プロは演技がいるでしょう。例えば、テレビに出る人が何か質問されて、本当のことを言ったら普通の人になっちゃう。みんな大体、同じような答えになるんですよ。でもそれではテレビに出る人じゃなくなる。演技者でなければいけない。

 多くの人が頭の中では普通のことが浮かんでいるのです。そこを、これを言っちゃったら番組的には使えない。ディレクターにカットされてしまう。テレビに出ている人間、プロフェッショナルとしては最低な答えだ。だから違う答をしなければいけないということを考えている。

 見ている人は、もともとこの人は面白い人だと思い込んじゃっている。それは間違いです。そんなことはないです。もともと面白い人が普通に話して面白かったら、それは天然で終わっていくんです。消費されて、もう飽きたとなるんです。そこは演技でなければいけないんです。

大城:先生は本当に頭の回転が速いからできるかもしれないですが、皆さんがそうとは限らないような気がします。

ゴルフ接待の達人は「ナイスショット」と言わない

中谷:そういうことができる人のみが稼げるんです。演技ができる人が稼げる、ということです。みんなと同じことをしていたんでは、みんなと同じ収入しか得られない。

 相手から情報を取るためには、とにかく相手を気持ちよくしなくちゃいけない。これは接待のゴルフで、さっきの接待の達人の話と通じるところがあります。達人に聞くと、ナイスショットの言い方が全然違うんですよ。普通は、「ナイスショット」と言う。これは、どこかの国がロケット打ち上げ成功のときの後ろにいるおじさんたちと同じ。あの人たちは接待に連れていったとしたらたぶん最低。だって見え見えでしょう。早いよね、拍手が。ロケット打ち上げと同時ぐらいに拍手している。本当に感動する人って、わあって見上げて、手をたたくのを忘れて涙ぐんでいる。それが本当だからね。

 その人は接待のゴルフでどうするかというと、「ナイスショット」と独り言を言う。続けて「あれは打てない」と小声の独り言を言うんです。「ナイスショット」と大声では言わない。

 相手に警戒されたらだめなんですよ。情報戦で一番大事なことは、情報を持っているということがばれてもだめ。これは暗号戦でもそう。第二次世界大戦のときにドイツ軍の暗号器「エニグマ」をイギリスのアラン・チューリングが解読するんですけど、解読したことをばれないために一回見送っているんですよ。それで船が撃沈されているんです。分かっていたんだけど、その船を逃がしたらエニグマを解読したことが分かるから、こんなところで使っちゃいけないと。これが情報戦なんです。

大城:『日経ビジネスオンライン』の読者は管理職の方が多くて、激しい大企業の競争の中にいると思います。

中谷:情報戦のレベルのけたが違うということですよ。上の方へ行けば行くほど。ずっとぼけているやつが一番危ないということですよ。「君は詳しいね」、みたいなことを言われたらもう危ないですね。

 もう本当に何もできないふりをしているおやじが怖い。みんなが知っているイギリスの秘密情報部、MI6のようなスパイって、普通のおやじだから。『007』は映画だからね。もしジェームス・ボンドみたいなスパイがいたら48時間生き延びれないって。かっこよ過ぎるんだもん。目立つわ、それは。

 だからスティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ブリッジ・オブ・スパイ』に出てくるソ連側のスパイのおっさん、あれはリアルですね。超普通のおやじ。捕まるときブリーフ1枚だから。あの映画は、あの人をキャスティングした時点で、これはリアルなんだなということがすごくよく分かる。スパイは普通のおっちゃんに見えなければアウトなんですよ。

 イスラエルの新聞には「モサド(イスラエルの情報機関)募集」って広告が出ているんです。

大城:そんなの出ているんですか。

中谷:新聞に「あなたもモサドになりませんか」という広告が出ているんですよ。テストは実技だけです。その実技は、「首相官邸裏に今晩12時に銃を持ってこい」、それだけ。

大城:命懸けですね。

中谷:首相官邸の裏は厳重警備で、そこへ銃なんか持っていったら大変なことになるからね。たとえ銃がなくたって大変だからね。そのテストに受かるためにある人は双眼鏡を持っていく。要は鳥の観察。つまり職務質問に対して何と答えるかを考えていく、これが作戦だよね。一方で言われた通りに銃を持って来ているやつ、これは終わりだよね。職務質問は当然あるでしょう。それに対して、いやいや、これテストだからですと。それじゃ通じないよね。

広告代理店はできない人にも得をさせる

<span class="fontBold">大城太</span><br />1975年2月8日生まれ。大学卒業後、外資系金融機関、医療機器メーカーで営業スキルを磨き、起業を志す。起業にあたり、華僑社会では知らない者はいないと言われる大物華僑に師事。厳しい修行を積みながら、日本人唯一の弟子として「門外不出」の成功術を伝授される。独立後、医療機器販売会社を設立。アルバイトと 2人で初年度年商 1億円を達成。現在は医療機器メーカーをはじめアジアでビジネスを展開する6社の代表および医療法人理事を務める傍ら、ビジネス投資、不動産投資なども手掛ける。2016年3月より日経ビジネスオンラインにて『<a href="/atcl/opinion/16/022500005/">華僑直伝ずるゆる処世術</a>』を連載。
大城太
1975年2月8日生まれ。大学卒業後、外資系金融機関、医療機器メーカーで営業スキルを磨き、起業を志す。起業にあたり、華僑社会では知らない者はいないと言われる大物華僑に師事。厳しい修行を積みながら、日本人唯一の弟子として「門外不出」の成功術を伝授される。独立後、医療機器販売会社を設立。アルバイトと 2人で初年度年商 1億円を達成。現在は医療機器メーカーをはじめアジアでビジネスを展開する6社の代表および医療法人理事を務める傍ら、ビジネス投資、不動産投資なども手掛ける。2016年3月より日経ビジネスオンラインにて『華僑直伝ずるゆる処世術』を連載。

中谷:次は、華僑は「できない人」を大事にするという話です。

大城:はい。その回ではできない人を大切にするメリットを、三つの観点から説明しました(『「できない人」を大切にする3つのメリット』参照)。

中谷:この話、広告代理店としてコマーシャルを作るときの話と一緒だと思いました。広告代理店でコマーシャルを作るとき、見積もりのやりとりを散々やらなくちゃいけないんですよ。見積もりを無限にやらないといけないんです。通常であれば納品された後は、見積もりはもうないわけです。

大城:そりゃそうですよね。

中谷:ところが、コマーシャルの場合、本格的な見積もりは納品の後から始まるんです。見積もりをいくら安くさせたかが担当者の手柄になる。そして広告代理店の仕事は、関係したすべての人にいかに手柄をつくるかということにあるんです。たとえできない人でも、全員に手柄をつくらないといけない。そこにかかわっている全員にどうやって手柄をつくっていくかだから、10人いたら10段階の見積もりがいる。

 慣れてない人が担当になると、「え、事後で見積もりってどういうこと?」というふうになる。事後は請求書を発行するだけになりますがと。

大城:それって当たり前なんでしょうか。

中谷:当たり前です。それだけ厳しい世界なんです。

 その点、華僑は、時間も場所も超越して間接的に計算をするでしょう。だから、その時々のポイントで考えるんじゃなくて、どこまで範囲を広げて考えられるか。その範囲の広さがまずけた外れになりますね。時には世代をまたぎますから。例えば、これは孫の代で返してもらうから、ここではどれだけ損をするかとか。

 焦ると、ワンポイント、ワンポイントで得をしようとする。立ち飲みみたいに1杯、1杯で得をしようとしていく。それは小さい利益にしかならないし、長く付き合うことができなくなる。どれだけ損をしていくか。どこまで損を延ばせるかということを考えていく。

大城:損を延ばしても、結局、最後には得をするんですよね。

損は得をするための貯金

中谷:はい。だから得をしたらその関係は終わりですから。

 得をできる貯金をまだ持っている。このことを信用といいます。回収したら終わりです。これは帳簿上に残らないし、税務署も来ないです。だって計上のしようがないから。あなたにはこんなに信用があるから、そのうち50%を納めてくださいということは言わないから。ところが回収には税務署は来ます。それは当たり前です。

大城:経営者ではなくサラリーマンも、それを意識した方がいいんですか。

中谷:意識しないとだめです。一番サラリーマンがこの点が下手です。経営者はできます。それから下町のおっちゃんはやります。下町のおっちゃんは、どれだけ自分が損をするかを考えています。だからサラリーマンが一番、今日1日の清算で生きています。

 海外で上流階級と下層階級、富裕層と貧民層でも分かれます。貧しい層は、給料をあと10%あげるからうちに来ないかといったら、もうすぐ来ます。ところが上の方は動きません。損をしても動かないです。日本はその中間ぐらいなんだね。

大城:交渉相手がいれば損をしても、いいということでしょうか

中谷:さっきお話ししたピザで言えば、ナポリの店が大勢のスタッフにごちそうするというのは損じゃないですか。その分、テレビで放送されて、それで日本のお客さんがどかっと押し寄せてきたら、それで回収はできるわけですよ。ところが、これ損だからちゃんと料金を取れと店長が言ったら、その時点で別のお店がサービスしたら、テレビの尺はそっちの方にいっちゃいます。

大城:ピザのお代としてもらったら、もうそこで回収は終わっちゃう。

中谷:終わりです。ましてや島のお店のように、前の店でごちそうになったからここでもごちそうになるかと思っていたら、お代を取ったもんだから、そういう印象が残ってしまう。本当はケチじゃないんですよ。普通に取っただけなんですよ。

 ところが、ごちそうするというお店が出てきた時点で、それと比較すると相対的にケチということになってしまう。だから、ケチという評判が残る。

 個人でもそうで、例えばタクシーのチップ。けちくさいことはやっちゃいけない。10円のおつりをきっちりもらうとか、そこで止めてくれと言って、止まる寸前にメーターがカチッと回って、チッと言っちゃうみたいなのとか。100回に1回ぐらい、「あ、本を書いている大城さんだ」と思う運転手がいるかもしれない。そのときに、お釣り全部取っていたみたいなことをすると、結局損をする。

 今は、タクシーの中で例えば携帯で電話をかけているじゃないですか。名前を名乗るじゃないですか、大城太ですと。名乗った後はもうばれているからね、そしたらけちくさいことはやっちゃいけないんですね。

大城:中谷先生は有名だから大変ですね。

中谷:これは何かというと、例えば金メダリストは取るまでが大事じゃないんですよ。取るまでは技術の勝負。取った後は人間性の勝負なんですよ。金メダルを取ったからあの人はと、注目が集まってくる。ここからの勝負になる。だから、取るまでと取った後では精神修行のポイントが違う。

大城:ポイントが変わるということですね。

銀行強盗はなぜ捕まるのか?

中谷:取るまでは技術、取ってからは精神性、この精進が求められる。それからとにかく人と交流することで誰も損をしない状況をつくること。その場にいる人で損な人が1人も生まれないような状況をつくってあげるということが大事。

 広告代理店の話で言うと担当の人だけが得をしてもだめなんですよ、その上の人、その上の上の人、そしてその横の人、その横の横の人、それぞれにいる人が全員何かの得をする形をこの場でつくっておかなければバランスが取れない。それをやっておくと最終的に自分のところに回ってくる。

 もし銀行強盗をするとき、リーダーだったら「俺の取り前をよこせ」と言ったら終わりなんですよ。銀行強盗は何で捕まるかといったら仲間割れです。警察の捕まえる方法は簡単なんです。どうやって仲間割れをさせるかです、これだけ。仲間割れをしないためには、リーダーが全員を潤わせていること、そうすると裏切らない。

大城:そうですね。

中谷:ところがリーダーが先においしい思いをしていると終わりなんです。よくニュースなどで、銀行で3億円強奪と伝えられるけど、数字のキリがよ過ぎるよね。よく考えたらおかしいんですよ。また3億円かみたいな。実は、実際の数字より大きめに報道を出しています。そうすると、おや、2億円で山分けだったのに、どういうことだという仲間割れが起きるんです。リーダーがだましたなということで、仲間割れをし始める。そうすると足並みが乱れて、使っちゃいけないお金を使うやつが出てくる。11人捕まったら、お前は助けてやるから全部吐けと言って、もうぼろぼろ吐く。これが強盗事件で一番捕まるパターンです。

(土曜日公開の第3回に続きます)

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