2014年11月21日 text by たろ a.k.a. TAROMETAL
2014年11月4日、ニューヨークにおいてBABYMETALのメタルレジスタンス第2章が終わりを見た。そして同8日、ヘヴィ・メタル発祥の地イギリスはロンドンで、新曲の初披露とともにメタルレジスタンス第3章が幕を開けた。第2章はBABYMETAL初のワールド・ツアーであり、その過程でBABYMETALは様々な点で飛躍的に成長を遂げた。その中でも今回はSU-METALの声質の変化、ヴォーカル・スタイルの進化について、改めてまとめてみたい。
①力強さが増した声
2014年の夏、ワールド・ツアーで欧米のメタル・ファンの前にその特異な姿を初めて披露したBABYMETAL。ヴォーカルを務めるSU-METALの声質は、その4ヶ月前の日本武道館公演の時とは明らかに違っていた。
ひと言で言うと、力強くなっていた。低域がしっかりと出るようになり、芯が太くなった印象だ。
YouTubeに次々とアップされるFan Cam映像を見ながら、SU-METALは(もちろんYUIMETALとMOAMETALも)初のワールド・ツアーのために相当トレーニングをしたんだろうなと感じたことを思い出す。
ワールド・ツアー中にもSU-METALの成長と進化は止まることがなかったようで、ワールド・ツアーが終わる頃になるとその歌声にはある種の迫力のようなものも備わるようになる。ファンの間で使われていた"Queen"という称号が、ステージ上でのSU-METALの凜としたたたずまいのみならず、その歌声にも当てはまるようになったと思う。
武道館公演と言わず、YouTubeで公開されている公式MVや既発のライブDVDで2012~2013年頃のパフォーマンスと比較してみると、その変化,あるいは進化の度合いの大きさがハッキリと分かる。
以前のSU-METALの歌声は、声量こそあるものの線が細く、清らかな合唱ヴォイスといった感じだった。年齢が幼かったせいもあるだろう。今のようなストロングな印象は一切ない。唯一変わらないのは、ファルセットやビブラートを使わずに全音域を地声で歌い上げるスタイルと、伸びやかな高音だけだ。
非常に細かい(あるいはマニアックな)話になるが、その違いがはっきりと分かる曲が3曲ある。
1)ヘドバンギャー!!
イントロの部分でSU-METALが「伝説の~」と歌い出す部分に注目。演奏が始まるまでのすべてフレーズで力強さを感じることができるが、特に「伝説の黒髪を」と「狂い咲くこの花は」のフレーズでよく分かる。
2)イジメ、ダメ、ゼッタイ
「イジメ(ダメ!)、イジメ(ダメ!」と歌うサビの部分。「イジメ」のひと言の語尾がパワフル。
3)ギミチョコ!!
最後のフレーズ「ちょっとだけ食べちゃお!」の「お」。よく聴くとSU-METALにしては珍しくビブラートがかかっているようにも感じる。それくらい力強く歌い切っている。
力強さを手に入れた一方で、その弊害と思われる懸念事項も1つある。高音が出にくくなった印象を受けるのだ。特に"メギツネ"でそのことが顕著であると思う。この曲はキーが高く、最初から最後までハイトーンで歌い切ることを迫られる難曲だが、ワールド・ツアーのステージでは高音を出し切れていないように聞こえることが多かった。もっとも、コンディションの問題だった可能性は否定できないが・・・。
いずれにしても、このことはさほど問題にはならないだろう。なぜなら、トレーニングで克服できるからだ。また、今後経験を積むことで、よりしっかりと自分の声をコントロールできるようにもなるだろう。
②エモーショナルになったヴォーカル・スタイル
ワールド・ツアーを経て変化したのは声質だけではない。SU-METALの歌い方、つまりヴォーカル・スタイルも大きく変わった。
自分の声をしっかりとコントロールしながら、より一層感情を込めてエモーショナルに歌うようになったと思うのだ。その歌い方からは以前とは比べ物にならないほど巨大な熱量を感じる。
「清らかな合唱ヴォイス」だった以前のSU-METALは、その清廉な声質のせいもあってまるでヴォーカロイドのように「無機質」あるいは「機械的」な歌い方をしているように感じられることが多かった(あくまでも個人的な印象)。1stアルバム「BABYMETAL」を聴けばそのことがよくわかる。特に”イジメ、ダメ、ゼッタイ”でそれが顕著であると思う。もっとも「LEGEND “1997”」のアカペラ版”紅月ーアカツキー”での絶唱は例外かもしれないが・・・。
SU-METALのヴォーカル・スタイルがよりエモーショナルになった理由は何だろう。
ワールドツアーの日程には、巨大なメタル・フェスも2会場含まれていた。そこにはBABYMETALのことなどほとんど知らない筋金入りのメタル・ヘッズが数万人の規模で集結している。いわば完全アウェーの状態だ。そのような状況の中、空前絶後の音楽を、しかも日本語で歌うという究極の逆境。数万人のオーディエンスの魂を揺さぶるには、歌い手が魂を込めなければ始まらない。そのことを事前に想定しつつ、力強い声を手に入れ,その声を活かして熱く思いを込めて歌うことを相当トレーニングしたのではないか。そんなふうに思うのだ。
でも、これはあくまでも個人的な憶測に過ぎない。
だから、できることならSU-METAL自身に語ってほしい。
6万人の大観衆を前にしたSonisphereのステージで、いったい何を思い、何を伝えるべく歌ったのか、ということを。
③目指すはAmy Leeのようなスタイルか?
力強さを増した声質という新たな武器を手に入れたSU-METALは、より表現力を高めながら進化を続けている。
以前Twitterでつぶやいたことがあるが、いずれはあのEvanescenceのヴォーカルAmy Leeのようなヴォーカリストになるのではないか。AmyはSU-METALと同じく基本的にビブラートやファルセットを使わず、地声で歌い切る。スタイルは似ているのだ。
ステージ上での存在感の大きさや会場の空気を支配するカリスマ性という点でも2人は似ていると思う。
しかし2人の声質はまったく異なっており、力強さという点ではSU-METALはAmyの足元にも及ばない。Amy Leeの方がはるかにパワフルに歌うし、そもそもの声質からしてAmyの方がSU-METALよりも数倍太い。ステージ上での絶唱っぷりもAmyの方がまだまだ上だろう。
声質が異なるとはいえスタイルは同じベクトルを向いていると思うので、SU-METALにはぜひともAmy Leeのようなヴォーカリストになってほしいと思う。
“Queen”と称されるSU-METALだが、まだ高校2年生。12月にようやく17歳になる少女にすぎない。その年齢を考慮すればステージ上での存在感は圧倒的だし、会場を支配するカリスマ性には驚くばかりだ。神々しさと凛とした美しい姿はとても高校生には見えない。とはいえ、そんな”Queen”もまだまだ成長過程にある。恐るべきことに今の姿は完成形ではないのだ。
SU-METALのこれからの進化がとても楽しみだ。