ほとんどの企業が、いまだに1日8時間労働を採用しているだろう。だが、労働時間で仕事の価値を問う慣習を踏襲することに意味はない。それどころか、「8時間」という基準があることで、不毛な会議への出席や事務的なメールの返信など、非生産的な行為に時間を費やすことが正当化されている可能性すらある。筆者は、1日6時間労働の導入を提唱する。本記事では、無駄を省き、高い集中力で仕事をこなすための方法論が示される。


 1日8時間労働制は、19世紀の社会主義を想起させる。当時、組織が工場労働者に課すことのできる労働時間に上限はなく、産業革命によってわずか6歳の児童まで炭鉱で働くようになっていた。その頃、米国の労働組合は、週40時間労働を普及させようと懸命に闘い、1938年にようやく公正労働基準法の一部に取り入れさせた。

 その後、世の中は大きく様変わりした。インターネットが、私たちの暮らし方や働き方、遊び方を根底から変えた。仕事のあり方自体も大半が、アルゴリズム的タスク(決まった手順を機械的にこなす作業)から、ヒューリスティック(探索的/発見的)タスク――クリティカル・シンキング、問題解決力、創造力が不可欠な作業――へと移行した。

 『ニューヨーク・タイムズ』紙のベストセラーリストに入った『ORIGINALS』の著者であり、組織心理学者のアダム・グラントはこう指摘する。「仕事が複雑かつクリエイティブであるほど、労働時間に注目するのはまったく理に適っていません」。とはいえ、1日8時間労働制はいまだに支配的だ。「大半の人と同じように、リーダーたちも、過去を踏襲することに驚くほど長けています。たとえそれが現在には見合っていなくても」とグラントは言う。

 ハンガリー系米国人の心理学者、ミハイ・チクセントミハイが1975年に提唱した用語を使うなら、ヒューリスティックな仕事においては、生理学的状態を「フロー」にすることが不可欠である。フローとは、その活動に完全に没頭している状態を言う。「ゾーン」と呼んだほうがピンとくる人もいるかもしれない。

 マッキンゼーが10年にわたって実施したフローに関する研究によると、経営幹部は、フロー状態に入ると生産性が最大500%上がるという。バイオテクノロジー企業のアドバンスト・ブレイン・モニタリングによる研究でも、ライフル射撃の初心者を熟練レベルにまで訓練する時間は、フロー状態にさせれば半分に短縮できることが示されている。