東大発ベンチャーがスーツのAOKIと共同開発「スマートスーツ」の実力【CES2019】

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Xenomaブース。e-skinの応用デモも実施。要素技術を使って、リズムゲームのコントローラー代わりになるパンツをデモンストレーション。これそのものが商品になるわけではないが、見た目が普通のパンツとまったく代わりがないところがポイントだ。

東大発のスマートアパレルベンチャー、Xenoma(ゼノマ、東京都大田区)が、スーツのAOKIとの共同開発で、Xenomaのセンサー技術「e-skin」を組み込んだスマートスーツを開発中であることがわかった。CES2019に出展中のXenomaブースで、網盛一郎代表が明かした。

日常生活を送っているだけで、着用者の日々の活動のビッグデータが生み出せる。スーツを着用する人の疲労を軽減したり、働き方の質の向上に活かすことを目指しているという。

Xenomaブースでは、AOKIのスーツにXenomaのセンサー技術を組み込んだ開発中のプロトタイプを展示している。

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パンツの太もも部分にセンサーを仕込んである。ボディドラムのように早めに連打して叩いてもしっかりと認識する。

Xenomaのコア技術は、東京大学の染谷隆夫教授の研究成果である、Printed Circuit Fabric(PCF)と呼ばれる、変形・伸縮が可能な電子回路技術。Xenoma自体が、この染谷研からスピンオフして起業した、いわゆる東大ベンチャーの1つだ。

自身も染谷研の出身者である網盛一郎代表によると、AOKIとPCF技術の応用について話し始めたのは2年ほど前。アイデア出しの期間を経て、約1年前に、今の形のコンセプトにたどりつき、実装を始めたという。

見た目も着心地も「普通のスーツ」が生み出すビッグデータ

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Xenomaの網盛一郎代表。左はブースで展示しているe-skinを組み込んだAOKIのスーツだ。元になったスーツ自体はAOKIの既存のスーツ。見た目にも、スマートアパレル化されていそうな雰囲気はまったくない。

XenomaはCES2019をもって出展は4年目。初年度はCESにおけるスタートアップ村である「エウレカパーク」というエリアでの出展だったが、2年目以降はヘルスケアやスマートホーム系ベンチャーが集まるメイン会場のフロアに移動し、出展を続けてきた。

当初はタイツのような素材にPCFを仕込んで、比較的低コストにモーションキャプチャーができる技術として出展。その後、現在の「スマートアパレル」というコンセプトにたどりついた。

AOKIと共同開発を進めるスーツは、背中の肩甲骨の間あたりにコントロールユニットが入り、背中の上部にPCFのセンサーが仕込まれている。網盛氏によると「(スマートスーツの)着用感は一般のスーツとほとんど変わらない。(ユニットをさわらなければ)センサーが入っているとはわからない」という。

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背中側。肩甲骨の間あたりに突起がある。この部分がコントローラーユニットになっているが、装着したときの違和感はないとのこと。さわると、少し膨らんでいることが分かる。

PCFを使ったセンシングは、普通の衣服に仕込むことで、「装着感なしに体の動きを記録できる」ため、日常生活をごく普通に過ごしているだけで、着用者の活動状況のビッグデータが生み出せる。

AOKIとの共同開発のスーツでは上半身の姿勢のデータなどをとるだけで、全身の動きのログをとることは目的としていない。

イメージとしては、体の姿勢などのデータを取って分析することで、スーツを着用するビジネスパーソンの疲労を軽減したり、働き方の質の向上に活かせるような体験を目指しているようだ。

網盛氏によると、現時点は実装方法を固めている最中。データをどのように分析し、活用するかのソリューション部分は「まだ詳細を煮詰めて研ぎ澄ましていく段階」だと説明する。

現時点の課題は価格。e-skinは比較的低コストに生産できる技術だが、(出荷枚数によるため一概に言えないが)現時点の試算では、一般的なスーツの2倍程度の価格になる可能性があるという。商品化にあたっては、このハードルをどう克服するかもポイントになる。

いまアパレル業界は、高価な服が売れづらいと言われている。その一方で、行き過ぎた低価格競争がビジネス基盤そのものを傷めてしまうことは、ファストファッション大手の伸び悩みなどから明らかだ。AOKI側の狙いは、社会人の必需品であるビジネススーツをいかに差別化し、若者世代に納得してもらえる付加価値を与えるかにありそうだ。

長距離バス会社と「ドライバーのストレス分析」実証も

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長距離バス会社との取り組みで使うシャツ型のe-skin。よく見ると、腕の部分までe-skinのベルト状のセンサーがのびていることがわかる。

スマートアパレル技術を使った実証はもう1つある。2019年2月からは、ある長距離バスの会社の協力で、長距離バス運転手の運転中の活動状況を記録し、分析する。

これにはまた別の、シャツ型のe-skinを使う。

長距離バスのドライバーは、深夜に及ぶ運転などから独特のストレスがともなう職業の1つだ。ドライバーの心拍や心電のデータとともに分析することで、どういうシーンで、どのような緊張状態にあるのかをデータ化し分析する。安全運行や労働環境の改善に活かせる可能性がある試みだ。

CESに出展を続けてきた4年の間に技術とコンセプトの成熟を経て、2019年にさまざまな仕込みが実を結び始めた、という感触のブース展示だ。

(文、写真・伊藤有)

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