【舌対音感】第7回:掟ポルシェ「俺が愛したローカルフードたち」

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「旅をしない音楽家は不幸だ」という言葉を残したのはモーツァルトだが、では、旅する音楽家の中でもっとも幸せなのは? それはやはり、その土地土地ならではの旨いものを味わい尽くしている音楽家ではないだろうか。そこで! ライブやツアーで各地を巡るミュージシャンたちに、オススメのローカルフードや、自分の足で見つけた美味しい店をうかがっていく連載企画。

第7回は、ニューウェイヴ・バンド「ロマンポルシェ。」のボーカル&説教担当であり、DJ、文筆業、司会など多岐にわたる活躍をみせる掟ポルシェさんが登場。食と音楽に共通する、強烈すぎるこだわりとは?

 

話す人:掟ポルシェ

掟ポルシェ

1968年北海道生まれ。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」のVo.&説教担当としてデビュー。これまで『盗んだバイクで天城越え』他、8枚のCDをリリース。音楽活動の他に男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも執筆し、雑誌連載も『TV Bros.』、『別冊少年チャンピオン』等多数。著書に『説教番長 どなりつけハンター』(文芸春秋社刊)、『男道コーチ屋稼業』(マガジン5刊)がある。その他、俳優、声優、DJなど、活動は多岐に渡るが、中でも独自の視点からのアイドル評論には定評があり、ここ数年はアイドル関連の仕事も多く、イベントの司会や楽曲のリミックスも手がける。

 

舌の天敵は“甘い味付け”

──掟さんは現在、東京福岡を行き来する生活を送られているそうですね。

嫁の実家がある関係で、基本は福岡で暮らしていて、月の半分ぐらいは東京の仕事場に来ている感じですね。福岡の自宅がある町は、博多の市街地から離れた工場しかないようなところなので、外食しようにもまともなお店があまりなくてね。だけど福岡でもスープカレーで美味しいお店を1軒見つけたんですよ。周船寺にあるニセコっていうお店なんだけど、「玉ねぎと豚ナンコツのプルプルカレー」っていうのが最高で。豚の軟骨を薄切りにしたものが入っていて、酸味がきいてて旨いんです。

そこは、福岡の郊外にある糸島市っていう、いま話題のおしゃれな田舎町で作られた〈糸島野菜〉と、お店の由来にもなってる北海道ニセコ町産の野菜を使っていて。ランチに出てくるサラダが、進化した現代的な農法の糸島野菜を使っていてこれが悔しいぐらい旨い(笑)。レモンの酸味がかかっただけみたいなシンプルなサラダだけど、質のいい野菜を厳選して使ってるから野菜本来の味だけで食えちゃうんですよね。

 

──インディーズ系の音楽やサブカル方面、アイドルファンの間では「掟さんは相当グルメ」っていう噂をよく耳にします。

自分は酸味が入ってる料理が好きなんだけど、逆に甘塩っぱい食べ物とか、甘い味付けの料理が苦手でね。九州って醤油が甘い文化圏じゃないですか。刺身醤油となるとさらに甘いでしょ。それがどうにも馴染めない。素材は最高なのに、甘い醤油をつけて食べさせるのは勘弁してほしいって思っちゃう。

だから昔は、魚が美味しい店に行く時にはバッグの中に“マイ醤油”を忍ばせて行くように心がけていたんだけど、最近はついつい忘れてしまって。一口食べてから「あ、ここ甘い醤油の地域だった!」って気付くんですよ……。

 

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──甘い味付けがとことん苦手なのはよく分かりました(笑)。

 それでいて郷土愛が強い地域って、自分たちの故郷に古くからある食べ物が一番おいしいと思ってるでしょ? 以前、ある地方で新鮮な鯖の刺身が出てきて「わーっ、美味しそう!」って思ったら「お召し上がりになる前に、これをかけさせていただきます」って甘い酢味噌をダーッてかけられて、愕然としたことがありました。焼肉店に行っても、わざと甘いタレにしているようなお店ってあるじゃないですか。甘いもん文化圏って知らない間にジワジワ広がってるんですよね。

 

「共感文化」に共感できない

──たしかにグルメ番組のレポートなんかでも、美味しさを表現する時に「甘い」ってことを強調しがちだったりします。

 今って「甘い」がやたら褒め言葉になってきてるじゃないですか。たしかに「うまい」の語源は「あまい」から来たらしいんですけど、大昔にその言葉が生まれた時代から味覚が変わってないのか! っていうね。

 

──そろそろ太古からの味覚は卒業しようよ、と。

腹が立ったついでに言わせてもらえば、最近のグルメブームが、気の置けないお店ブームになってるのが嫌で。気の置けないお店ということが、ことさら重要視されがち。店が汚い方が落ち着く、みたいな価値観が優先されるのは鼻につきますね。それにフランス料理なんかより洋食とか揚げ物とか食ってるほうが好感持てるね、みたいな感じも気にくわない。洋食なんて、明治時代に「オエライさんの料理番」みたいな人がトンカツ食って感動したみたいな時代から根本はなんにも変わってない。昔からあるその味は、もう知ってるわ! みたいな。

 

──確かに「安くてうまい」は万人にウケやすいですもんね。

そういう記事が多いってことは、読者にも共感を呼ぶってことじゃないですか。その共感を呼んでいること自体がイライラしますね。たとえていうなら、音楽聞いたり音楽について話していても、みんながみんなビートルズ好きだって言ってるようなもんで。「ビートルズは聞いたことねえし、好きでもねえわ!」っていう。俺は、できるだけ複雑で変わったものが好きなんですよ。変拍子とか不協和音とかバシバシ入ってるけど、斬新で格好イイ! みたいな。食についてもそういう感覚はありますね。

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ラヲタは「迷ったら2杯」

──そんな掟さんが、地方のグルメで好んで食べるのは、どんなものなんでしょう?

名古屋に行くとウキウキしますね。いつも何を食べるか迷うくらい。名古屋って味噌かつとか海老フライとか名物がいろいろ有名だけど、それ以外を食べると旨いんです。で、何気に東京で話題になっているものとか意識していたりするから、流行の味が反映されやすい。基本的にきらびやかなものが好きで、ミーハー的な部分もあって、外者に対してエエカッコしたい! という街なんでしょうね。

 

──具体的なお気に入り店を教えていただければ。

名古屋ではとりあえず〈味仙(みせん)〉に行く。味仙は世間的に「台湾ラーメンのお店」って思われてますけど、それ以外の料理も美味しくて。特に「味仙ラーメン」っていう、アサリの炒め物が乗っているラーメンがすごく美味しい。で、台湾ラーメンもアサリのラーメンもどっちも食べたいじゃないですか? でも、両方食べたらお腹いっぱいになっちゃうから困るわけです。それをTwitterとかに書いてると、ラーメン大好きな田中貴さん(「舌対音感」第3回ゲスト)が「ラヲタの間には『迷ったら2杯』という言葉があります」ってリプライをくれて。しょうがないから2杯食べましたけど (笑)。

まあ、味仙の台湾ラーメンはちょっと小ぶりだし、ミニサイズもあるからね。で、それでもお腹が空いたところに、コブクロだったりとか、台湾料理のできるだけ下世話なものを次から次へと入れていく感じで。自分の場合、音楽も味覚も刺激がないとダメなんですよ。そういう意味では、味仙の台湾ラーメンは 「食べたことがない味」っていう点で刺激的でしたね。

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──未体験の感覚に出合うことが、食の上でも重要になってくる。

想像がつかないと食べてみたくなるんですね。俺、もともとはラーメン嫌いだったんだけど、2009年くらいに新宿〈ラーメン凪〉に行ったとき、煮干しのやり過ぎ感に衝撃を受けて以来、すっかりハマってしまって。

その後、凪では深夜0時から月替わりの限定ラーメンみたいなのを始めるんだけど、その時に食べたサバ節のラーメンとか、正月限定の鯛ラーメンも最高に旨かった。やっぱりあのお店は、開発者のバンタムさんがとにかく変わった味の旨いものを作りたいっていう気持ちが強いんですよね。

 

ふるさとの味、おふくろの味はもういい

──掟さんは北海道出身ということですが、たとえば北海道の名物なんかはいかがですか?

北海道の名物はだいたい嫌いなんです。じゃがいもとかウニとか、子どもの頃に食べ過ぎたからもういいんですよ。

──ウハハハハ。

北海道に限らず、名物という名物はあまり食べないですね。「名物にうまいもんなし」ってよく言われるのは、味がアップデートされてないから。だけど全国食べ歩いていると、嫌いなはずだった北海道の名物が、よその土地に行くことであらためてよく見えることもあるんですよね。

 

──具体的にそう実感できたお店などはありますか?

『申し訳ないと』っていうDJイベントで地方によく行っていた頃は、その土地土地で1万円ぐらいで食える美味しい寿司店を探して、食べ歩いていたんです。中でも印象に残っているのが、仙台〈江なみ〉っていう寿司店で6月から8月までの限定で出している殻付きのウニ。それも寿司店でよく使われるバフンウニじゃなくて、ムラサキウニなんですけど、殻の中にギッシリと身がきれいに詰まった状態で出てくる。これが最初は驚きで。俺も地元の北海道でウニを採ってそのまま食べたりしたこともあるけど、見たこともないほど殻にぎっしり身が詰まってる。

聞けば、江なみの御主人だけが行きつけの魚河岸でウニの中身を見てから買うことを許されているそうなんです。パッと見はそのまんまの料理なんだけど、ちゃんと不要物は取り除かれて、きちんと手が加わったものなんですよね。たとえるなら、普通の寿司店 で出されているバフンウニがシュガーコーティングされたドーナツのようなベタベタした甘さだとすると、江なみのムラサキウニはほんのりとした甘さで、上品な味。バフンウニ至上主義がひっくり返されるくらいの衝撃がありましたね。

 

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──それはめちゃめちゃ食べてみたいですね……。

あと、同じように自分の価値感がひっくり返されたような衝撃といえば、大阪・西心斎橋にある〈和洋遊膳 中村〉という割烹で食べた肉じゃが。普段、肉じゃがは俺一人じゃ絶対頼まないものだし、子どもの頃からじゃがいもの煮崩れしてドロっとなる感じが嫌でたまらなかったんですよ。だけどそのお店で食べたものは、おそらく他の具材とは別に調理したメークインに、牛肉を煮たものをかけてあるような感じで。あれが人生で食った肉じゃがの中で、ダントツで旨かったですね。

 

──甘い味付け嫌いな掟さんをうならせる肉じゃが。気になりますね。

うーん、それもやっぱり意外性なんでしょうね。ドロドロして甘い感じがなくて、さっぱりと食えてしまったという。いわゆる一般的な煮込みすぎた肉じゃがを食って 「母の味だね」とか「故郷の味だね」みたいなのが、俺は大嫌いなんで。どうせ金出して外食するなら、母の味より他人の味が食べたい。

 

うちの母親なんて戦前生まれなもんで、砂糖が高級だった時代の感覚が抜けないから、味付けが全部甘くなっちゃう(笑)。本来だったらそれに慣れるはずなんだけど、何故か慣れなかったんですよね。学生時代は金もないので自炊ばっかりしてました。だから上達したっていうのもあるかもしれない。料理とセックスと楽器の練習は似たようなところがあると思います。しばらくやらないとどんどん下手になる(笑)。

才能の問題ももちろんあるけど、毎日やっていれば、それなりに上手くなるもんじゃないかなと。家の料理は昔から全部自分が作ってるんですよ。自分好みの味にうまいこと作る能力はあるつもりなんですけど、うちの子供は甘じょっぱい味付けのものがやっぱり好きみたいで……。味覚って隔世遺伝するんですかね(笑)。

 

撮影:沼田学
撮影協力:麺匠竹虎新宿

 

書いた人:宮内健

宮内健

1971年東京都生まれ。ライター/エディター。『バッド・ニュース』『CDジャーナル』の編集部を経て、フリーランスに。以降『bounce』編集長、東京スカパラダイスオーケストラと制作した『JUSTA MAGAZINE』編集を歴任し、2009年にフリーマガジン『ramblin'』を創刊。現在は「TAP the POP」などの編集・執筆活動と並行してイベントのオーガナイズ、FM番組構成/出演など、様々な形で音楽とその周辺にあるカルチャーの楽しさを伝えている。

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