2011.06.08

対談 田原総一郎氏&古賀茂明氏(経産省内閣官房付)Vol.1
「経産省現職官僚が明かす『なぜ菅政権が道を誤るのか』」

古賀茂明氏と田原総一郎氏

田原: 古賀さんの書いた『日本中枢の崩壊』の「中枢」というのは、日本の権力中枢っていうこと。いちばんトップが崩壊しているっていうことね。この本についてお聞きしたいんですが、とにかく今日(6月1日)自民党と公明党が内閣不信任案、つまり菅内閣不信任案を出しちゃった。で、明日採決です。まず、どうしてもこの問題から入らざるを得ないんですが、古賀さん、率直に言って感想、どうですか。

古賀: この不信任騒ぎの大義が見えないというのが率直な感想です。普通であれば信任か不信任かというときに、菅政権のこういう政策がおかしいということについて一つか二つ争点がある。それについて議論してにっちもさっちもいかないということで不信任が出るのが普通だと思いますけども、今回はなぜ不信任が出るのかというところがわからない。

 自民党が民主党の中の動きを見ながら出している。それを民主党の内部で利用しようという動き気もある。政策じゃなくてまさに政局だけのための争いです。その政局も何を目指しているのかもよく見えないということです。

田原: 国民のほとんどがとんでもないと思っている。この東日本大震災で岩手、宮城、そして福島をはじめとして、地震と津波で多くの命が失われ、多くの人が家を失い、あるいは原発の目処が付かない、という状況です。「こんな最中に党利党略で国会議員は、なに政治をもて遊んでいるんだ、ふざけるな!」と国民の多くは思っていると思うんです。

古賀: そういう見方をしている人が多いでしょう。普通だったらこういうときは国民も盛り上がるんですね、「俺は民主党だ」「俺は自民党だ」とか、それが全然聞こえてこないというのは・・・。

田原: しらけている。

古賀: ただ、一方でいまの菅政権に対して国民が「やっぱり頼りないな」とか「動きが遅い」とか、そういう不満はある。震災だけでなくいろいろな経済面をずっと見てきたときに非常に行き詰まっているという手詰まり感、閉塞感は確実にあると思うんですね。ただその不満がこういう形でやる話なのかなという、そこがしっくりこない。

田原: 今日、党首討論があった。僕は不信任案を出す前提なんだから、当然この党首討論で谷垣さんは、なぜ菅はダメなのか、なぜ菅内閣はダメなのか、その根拠を示すと思った。なんにも示さなくて「あんたがダメだ」「あんたがいるから空白だ」と、訳の分からない抽象論ですよ。何ですか、これ。だいたい谷垣て、どういう人なんですか?

〔PHOTO〕gettyimages

古賀: 谷垣総裁とは個人的にそんなに親しいということはありません。産業再生機構を作るときに一緒に仕事をさせていただいて・・・。

田原: そうですね。

古賀: 非常にクリーンで真面目。だから産業再生機構を実際にわれわれが運営するときに、谷垣担当大臣だったからあまり歪められずに伸び伸びとできたという経験はしたことがあるんです。ただ、いまの総裁として動きを見ているとご自分がなにをされたいのか、われわれには見えてこない。

田原: 党首討論を見る限り、あるいは僕は何人か自民党の幹部にも取材しているんですが、谷垣さんは不信任案を出したいと思っていなかった。

 実は、もっと早く、東日本大震災で大変だから自民党も民主党も公明党も連立しろというのが、僕の意見なんですよ。一致団結して復旧復興に当たれと。何人かの自民党の幹部にそのことを言った。でも、「田原さん、いまは菅を潰すと言わないと自民党の中で孤立しちゃうんです」というのが反応でした。

 おそらく谷垣さんなんてね、自民党の誰かに「やれよ」と、言われてそれに反発できないでやったんじゃないですかね。

東電問題は国民に正直に説明せよ

古賀: 私は大連立的なことにはあまり賛成ではないです。

田原: ぼくはやるべきだと思う。

古賀: ただ、政策で連携するのも十分可能だと思うんですね。

田原: 僕が言ってるのは期間限定の連立で・・・。

古賀: 震災があるからっていうことですね。

田原: つまり東日本大震災の復興の目処が付くまでです。だから長くても1年と考えているんです。

古賀: それは一つの考え方かなと思います。

 地震対応をどうするのかというところでは、多分かなりの部分重なり合えるところがあると思うんですね、それも早くっていうことではね。いきなり政策の中身なしで大連立というとなかなか入れないと思う。だけど具体的な、例えば、原発被災者に対する補償。これは東電に払えと言っているんですけど東電はカネがないと・・・。

田原: 上限なしということですね。

古賀: 東電が払えても払えなくても、とにかく被災者に対しては全部払えというふうに、国民は一致していると思います。ですから、東電でも政府でもどちらに対しても、被災者へ払えと言えると思います。

田原: もちろん。

古賀: 要するに連帯債務にする法律にしたらいい。多分そういうのだと自民党も民主党も反対する人いないから、すぐ一致できると思うんです。そういう具体的なテーマをどんどん出して、一緒にやろうという動きを強めていったらいいんじゃないでしょうか。

田原: 政府は東電の無限責任なんて言っちゃった。無限責任と言っておいて中身はずいぶん甘い。なんか東電を救うのか救わないのかよく分からないですね。こういうところが菅内閣の問題点だと思いますね。

古賀: 東電の問題について言えば、東電を叩くことによってなんとなく自分たちの責任が薄まっている、そういう感覚があるんじゃないでしょうか。

 もちろん東電に責任をしっかり取ってもらうのは大事なんです。けれども、これから出てくるいろいろな廃炉問題、汚染水処理の問題とか諸々合わせたら、どう考えても普通の企業に払えるはずがないんですね。

 一方で政府は責任がないのかと言ったら、みんなあると思っているわけです。最後は政府あるいは国民に負担が来るのはやっぱり覚悟せざるを得ない。

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