日本共産党

2004年7月27日(火)「しんぶん赤旗」

侵略美化

「つくる会」の歴史教科書

採択めぐり攻防


 東京都が来春開校予定の初の都立中高一貫校に、日本の侵略戦争を美化し、歴史をゆがめる、「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史教科書(発行扶桑社)を採択しようという動きが強まり、緊迫しています。東京総局・室伏敦記者


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都立白鴎高校付属中学の開校が予定されている旧台東中学=東京・台東区

8月、都立一貫校を突破口に

 問題となっているのは東京都教育委員会が八月に行う、白鴎高校付属中学校(東京・台東区)の教科書採択。同校は、都教委が「リーダーとなる人材の育成」を掲げて十校開設する中高一貫校の一つ。「日本の伝統文化を理解」することを学校の特色に掲げています。

 同校は校長への提言機関として「日本の伝統文化に関する教育推進会議」を設置(設置期間は二〇〇五年度末まで)。「つくる会」教科書を推進する「教科書改善連絡協議会」の三浦朱門会長を座長に据え、三年前の教科書採択で「つくる会」教科書の都立養護学校での採択を強硬に主張した、棋士の米長邦雄・都教育委員もメンバーに入っています。

警察との連携まで口にして

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「つくる会」教科書の採択阻止をめざして300人を超す人が参加した緊急集会=20日、東京・新宿区

 「つくる会」は〇一年度の教科書採択の際、大量採択を狙って大キャンペーンを繰り広げましたが、同教科書の歴史の事実をねじまげた内容に批判が集中。公立校では全国でわずか五百冊余の採択に終わりました。

 しかし、〇二年に愛媛県立中高一貫校での採択に成功。「つくる会」は、〇三年に中高一貫校対策委員会を設置し、「つくる会」発足当初の賛同人である石原慎太郎氏が知事の東京の中高一貫校で採択を、〇五年度の教科書採択での10%達成に向けた突破口と位置付けています。

 「つくる会」教科書を推進する勢力は〇一年の失敗から、市民や教職員の運動を敵視し、権力も使って、密室で採択を広げようとしています。

 自民党の国会議員がつくる「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」が主催して六月十四日に憲政記念館で開いたシンポジウムにパネリストとして出席した横山洋吉都教育長は、〇一年の採択時に都教委に対する「妨害行動」があったなどと発言。同じくパネリストの藤岡信勝「つくる会」副会長は、「前回の採択の反省をもとに文部科学省は警察と連携して他団体の圧力を阻止していく必要がある」と、あけすけに主張しました。

 来賓として出席した安倍晋三自民党幹事長は、「歴史教育の問題は憲法改正、教育基本法改正の問題と表裏一体の重要問題」とのべ、河村建夫文部科学相も激励のあいさつ。「つくる会」教科書採択を国や都教委も推進する姿勢をあらわにしました。

 「つくる会」は七月二十日に、来年のいっせい採択にむけて「採択対策本部」を発足させ、全国的に運動を進める動きを強めています。

歴史改ざんに国内外の批判

 こうした動きに対する批判も広がっています。

 五月に結成された「都立中高一貫校での『つくる会』教科書採択を阻止する東京ネットワーク」と「子どもと教科書全国ネットワーク21」は二十三日、白鴎高校付属中に扶桑社の教科書を採択しないことを求める署名五千二百三十人分(第一次分)を都教委に提出。「特定の教科書の採択を推進する集会に、公正であるべき都教育長が参加することは問題だ」と追及しました。

 東京ネットが二十日開いた緊急集会は、教育や平和、女性など七十六団体が賛同し三百人を超す人が参加。「『つくる会』教科書の採択は、戦争をする人づくりにつながる」「広島の中高一貫校での採択を阻止したと聞き、採択反対署名を始めた」などの声が相次ぎ、在日本大韓民国青年会中央本部の金宗洙さんは、「日本の学校には在日の子弟も多く通っています。歴史的事実を改ざんし、侵略戦争を肯定し、民族的コンプレックスを助長する教科書の使用は許し難い」と訴えました。

 批判は国外にも広がっています。韓国の「アジアの平和と歴史教育連帯」は、緊急集会にメッセージを送り、「(「つくる会」教科書の採択は)痛ましい過去を乗り越えようと努力するアジアの民衆を再び傷つける」と警告しています。


石原慎太郎都知事

 「東京都はやりましたぞ。もう徹底して元の線に戻した。だから幾つかの学校は扶桑社の教科書の採択もした。これはやはり一点突破になるでしょう」(2003年4月20日、日本会議総会での記念講演)

藤岡信勝「つくる会」副会長

 「白鴎中学校で扶桑社が採択されれば、その与える影響はきわめて大きなものになる。それに加えて、平成15(2003)年と平成16(2004)年の教科書採択で1カ所でも成功すれば、2年後のいっせい採択での勝利の展望が開けるだろう」(「つくる会」機関誌『史』03年5月号)


採択は子々孫々まで禍根を残す

吉田好一東京ネット代表

 侵略戦争という過去をきちんと清算するどころか、その逆を子どもたちに教えるというのは、子々孫々まで禍根を残します。実際に教科書を使って教育する教員が意見を言う機会を奪い、教育委員のみで判断するというのは、教科書の選択について教員に「不可欠な役割を与えるべき」としたILOユネスコの「教員の地位に関する勧告」など、世界の流れに反します。短期間のたたかいです。都教委への要請や地域での行動、採択反対の署名を緊急に大きく広げ、採択を阻止したい。

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「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書 「新しい歴史教科書をつくる会」は、「戦後の歴史教育は自虐的」として、日本の侵略戦争を美化する「自由主義史観」グループなどの学者、文化人、財界人、マスコミ、右翼が一九九七年に設立した団体。

 同会がつくった中学校用歴史教科書は、「神武天皇が即位したといわれている日を太陽暦になおしたもの」が「二月十一日の建国記念の日」とするなど、学問的検証にたえない部分や、重大な偏りがみられます。

 明治以降の一連の日本の侵略戦争を肯定的に描き、一九四一年の日米英開戦以後は「大東亜戦争(太平洋戦争)」と表記、「日本の戦争目的は、自存自衛とアジアを欧米の支配から解放し」と、当時の日本政府の言い分をそのまま紹介しています。

 〇二年には、扶桑社版と基本的に同じ立場でつくられた明成社『最新日本史B』が文科省の検定を合格しています。



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