名捕手・里崎智也氏が語る、超ポジティブ自己管理術【男の野球メシ特別編】

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14年シーズンの現役引退以降、野球評論のみならず、タレントとしても多方面で活躍する元千葉ロッテマリーンズ・里崎智也さん。

先頃出版された最新書籍『捕手異論 一流と二流をわける、プロの野球『眼』』の刊行にあわせ、『メシ通』では、WBCのベストナインにも選ばれた名捕手がもつ「食」へのこだわりを聞いてきた。

 

食事は自己責任で好きなだけ

──プロのアスリートにとって体調のコントロールは、重要な要素だと思うのですが、里崎さんご自身は現役当時、「食」に関してなにか特別なことはされていました?

 

里崎:基本的には、好きなものを好きなぶんだけ食べていました。そもそも、世間では「栄養管理は大事」みたいなことがよく言われますけど、自分に足りていない栄養素がなにかなんて、ちゃんとした血液検査をしてみないことにはわからない。月イチで部員に検査を課している帝京大のラグビー部みたいなことをきっちりやるなら別ですけど、そうでもしないかぎりは結局、自己満足でしかないですから。いくら「疲れているときは豚肉がいい」と言っても、僕からしたら「疲れているかどうか、ホンマにわかってんのか?」って、ことなんです。

 

──科学的根拠が明らかでないものに安易に乗っかる必要はないと。

 

里崎:「長生きしたい」とか健康上の理由であれば、話はまた変わってくるでしょうけど、アスリートとしての「身体づくり」ということで言うなら、なんでもおなか一杯食べることが一番だと、僕は思います。実際、僕自身も引退間際には、半月に1回ぐらいの割合で血液検査をして、そこで出てきた数値をもとに不足している栄養素をサプリで補う……って感じの生活を1年ほど続けたことがありますけど、やるんだったらそこまで徹底してやらないことには正当性が出てこない。あれもこれも、と手当たり次第に栄養素を取ってみたところで、それがその人に足りているものなら、そのまま排出されてしまうだけですしね。

 

──とはいえ、食事面でのサポートを得やすいという部分で「スポーツ選手は早く結婚したほうがいい」なんて言い方もされますよね。選手の側からの「奥さんのおかげ」といった発言もよく耳にしますし。

 

里崎:そこは関係ないんじゃないですかね。もし仮に、結果が出なかったときにも「今年成績が悪かったのは、ヨメのサポートが足りひんかったせいや」って堂々と言える選手がいるなら、それは本物だと思いますけど、そんなコメント、これまで聞いたことがない(笑)。だから、僕はいつも言っていたんです。「調子がいいのはおれのおかげ。調子が悪いのもおれの責任。それ以上でも以下でもない」って。調子がいいときにだけ、そうやって「家族のおかげ」とか言うから、ダメになったときに、いろいろ書かれたりするわけですしね。

 

──たしかに世間は「あげまん」「さげまん」といった話題が好きですからね。

 

里崎:これは野球にかぎったことではないですけど、本当に家族を守りたいのであれば、仕事と家庭は無関係って姿勢をまず示すことじゃないですかね。ネタとしてキャッチーだから何回も聞かれるってだけで、最初に「関係ないっしょ」って言ってしまえば、相手も面白くないから、そのうち聞かなくなりますしね。

 

逆境すら楽しむ心の余裕を

──ちなみに、独身生活が長かった里崎さんですが、たとえば不調のときやけがをされたりしたときに「精神的なサポートが欲しい」と思うような瞬間はありました?

 

里崎:まったく感じなかったですね。そういうときは、基本的に寝てるか、部屋でテレビ見てるかぐらいのものなんで、仮に2人だったとしてもそこまで劇的には変わらない。逆に自由に好き勝手できるぶん、ひとりのほうが楽ですよ。そもそも、僕の場合はメンタルが落ちるってことがないですしね(笑)。

 

──そうでした。超ポジティブ人間の里崎さんには愚問でしたね(笑)。

 

里崎:たとえば、もし1〜2週間ヒットが出なくても、僕の場合は「今日あたり、そろそろ打てんちゃうか」、「このまま打たれへんかったらギャグやな」って、逆に楽しくなってくるんですよね。落ち込んだところで、目の前にある現実は変えられないわけだし、だとしたら、そのときを楽しんだほうが絶対いい。けがで(登録を)抹消されたときなんかは、とくにすることもないから、たまたま「ひかりTV」で無料放送をしていた『ふしぎな島のフローネ』をめちゃめちゃ見まくってましたしね(笑)。

 

──なんでまた「世界名作劇場」を(笑)。

 

里崎:単純に子どもの頃に好きだったんですよ。『小公女セーラ』とか、ああいうのが。で、けがをしているとリハビリとかをやっても昼すぎには終わるから、「今日もフローネ見よ」って、速攻で帰って、「懐かしいなぁ」とか思いながら、ひたすら見るっていう毎日(笑)。通常のシーズン中にはそんなまとまった時間は取れないですし、もともとテレビ好きな僕にとっては、かなり有意義な時間でしたね。

 

──ただやはり、そこで悩んでドツボにハマってしまう人も多いように思います。

 

里崎:いるとは思いますけど、その人の気持ちはわかんないですね。悩んだぶんだけ回復や復調が早まるなら、僕もそうしますけど、できないことを延々考えたって意味がない。仮に「打てない」現実があったとしても、それを打開するためのアイデアが枯れてしまうほど追い込まれるってことが、僕自身にはないんです。どんなときでも、だいたい「おっ、ひらめいた!! これがイケるかどうか、明日試してみよ。早く練習行きたいな」って感じになりますしね。

 

──うまくいかなければ、すぐに切りかえて次のアイデアを試せばいい、と。

 

里崎:そうですね。ひとつの方法に固執するから「もう打つ手がない」って思いつめてしまうだけで、ダメならさっさと次に行けばいいだけのこと。ほかに僕がすることと言ったら、「どんな球でも打つなぁ」とか自画自賛しながら、家に帰って自分の好プレー集のビデオを見まくるぐらいのものなんで(笑)。答えがないことをクヨクヨ悩んだって、しょうがないですよ。

 

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独身男子にも自炊のススメ

──ところで、独身時代は外食、自炊のどちらが多かったですか?

 

里崎:僕は断然、自炊派ですね。外で食べるものにお金を使うぐらいなら、自分で作ったほうが安いし、うまいって、その発想。他の選手は知らないですけど、たかが1人分なんて30分もあればすぐ作れますからね。

 

 ──世の独身男性にはそれを「面倒くさい」と感じる人も多いわけですが。

 

里崎:ふだんやらなくて要領がわからないから、そう感じるだけじゃないですかね。いまはスーパーに行けば、なんでも“素”が売ってますし、大げさに言ったら、お湯を沸かして、そこに鶏肉と野菜を入れて、ぽん酢で食べれば、それだけでもう十分おいしい水炊きでしょ? いまや材料そのものもクリックひとつですぐに持ってきてくれるご時世ですしね。

 

──得意料理なんかはあったりします?

 

里崎:自分が食べたことのあるものなら、なんでも作りますよ。いまはスマホですぐ調べられるから、そんなこともしなくなりましたけど、昔は「こんな感じやろ」ってひとまず想像で作ってみて、「なんか足りひんな」と思ったら、料理本買ってきてレシピを確認したり……ってことはよくしてました。最近は仕事も忙しいですし、作ってくれる人もいるので、料理する機会もめっきり少なくはなりましたけどね。

 

──料理をするうえでも、やはり信じるのはまず「自分」なんですね!

 

里崎:何事もまわりに左右される必要なんてないですからね。しょせんは人対人。いいものはどんどん取り入れて、よくないと思えば排除していけばいいんです。あとは、とにかく自分でやってみて、それをどうやってオリジナリティーに変えていくか。血液検査にしたって、最初のきっかけは、「面白そう」、「どうなるんやろ」っていう好奇心。それを自分の身体で実験してみただけのことですしね。

 

──そうした「まずやってみる」アグレッシブな精神が、プロ野球選手・里崎智也を形づくってきたわけですね。

 

里崎:まぁ、引退して以降は身体のケアとかは一切やってないんで、あんまりエラそうなことは言えないですけどね。なんて言うか、「疲れた」と感じるボーダーラインがこれまで人より高かったせいもあって、「肩張ってるなぁ」ぐらいではケアの必要性を感じないんですよね。だから、一番すぐ死ぬパターンだな、とは思っています(笑)。

 

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【里崎智也】

1976年5月20日、徳島県生まれ。鳴門工(現・鳴門渦潮高)から帝京大を経て、98年のドラフト2位でロッテを逆指名。04年に就任した第2次ボビー・バレンタイン政権下で強肩・強打の捕手として台頭し、“ボビー・マジック”を象徴するチームの顔としてファンからも熱烈に支持された。ロッテ一筋を貫いた16年間のプロ生活で、05年、10年と2度の日本一を経験。世界一に輝いた06年の第1回WBCでは“JAPAN”の正捕手として打率4割超えの活躍をみせ、松坂大輔、イチローとともにベストナインにも選ばれた。

 

【作品情報】

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捕手異論 一流と二流をわける、プロの野球『眼』

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  • 作者: 里崎智也
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※この記事は2017年5月の情報です。

 

書いた人:鈴木長月

鈴木長月

1979年、大阪府生まれ。関西学院大学卒。実話誌の編集を経て、ライターとして独立。現在は、スポーツや映画をはじめ、サブカルチャー的なあらゆる分野で雑文・駄文を書き散らす日々。野球は大の千葉ロッテファン。

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