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海外に学ぶ大学無償化のあり方(下)大学の一部は「就職予備校」に 雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生

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憲法改正や全世代型社会保障の議論の中で、高等教育の無償化もテーマの一つとなされている。ただ、話題となるのは、その財源をどうすべきかという話であり、「無償化するなら、そのために、大学や社会をどう変えるか」については突っ込んだ議論がされていない。

法律も経済も文学も民間企業では生かせないという現実的問題

そこで、欧州を範として、無償化する前に何をやるべきか、を2回にわたってお送りしている(※今回が2回目。1回目の前回記事はこちらから)。

前回記事では、今でも「金さえあれば誰でも行ける」という状態の大学を、「相応しい人しかいけない」ように初等教育から変えていかねばならないという話を書いた。

今回は、「大学とは何のためにあるのか」を考え、現実的な解を出すことをテーマにする。

日本の大学、それも文系の場合、学部名称こそ工夫はされているが、基本は法律・政治・経済・経営(商)・文学からなる。それは100年以上も昔、まだ日本に大学が10校もなかった時から変わらない。そして、その学部構成は、産業界との接続に適していない。会社での仕事は、営業や総務や人事であり、その実務では、大学で学んだ法律や政治やマクロ経済や文学などあまり生かせないからだ。

今の大学生が勉強しない理由もそこにあるのではないか。

大学で総務・経理・人事・営業…を学び、企業にて実習する

日本より一足先に進学率が高まった欧州では、こうした問題が1980年代から叫ばれるようになった。そこで、職業系の大学(ドイツなら職業大学、フランスなら大学内の職業課程)が拡充され、学生を受け入れるようになる。現在、独仏では大学生の3割程度がこうしたコースに在籍している(図表7)。

ここで勘違いしないでほしいのだが、従来から日本の専門学校や高専に当たるような職業教育を行う教育機関が欧州にもあった。フランスでいえば、IUPやSTSがそれに当たる。そうした学校は、デザインやITや経理、保守メンテナンス、CADなど、俗にいう「手に職ワーク」の教育を行っていた。

対して、近年拡充されている職業系の大学は「普通の会社員」になるためにあるのだ。たとえば、ドイツの職業大学ではどのように「会社員」教育されるかを見ていこう(図表8)。

まず、1・2年目は会社人になるために必要な共通知識(挨拶や電話取りなども)と、4~6職務についての仕事内容を座学で学ぶ。たとえば、人事・経理・物流・購買・マーケティング(営業はここに入る)・国民経済(金融職)・総務(プロパティ・マネジメントなど)といった分類で、それぞれに、企業実務経験者がみっちり細かく教えていく、という。企業内の部署構成とほぼ同じ。

そして3年次にはその前半に、長期の企業実習を行う。1・2年で学んだ多職務の中から3つを選び、企業にて実習を行う。この際の実習先企業は、大学側が候補リストに応募して、面接や書類で選考され、なかば「採用」に近い形で受け入れを行う。ここでは、経済原理による選別が行われるため、企業も彼らを「採用者」に近しく考えるため、職業訓練にも熱が入るという。

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