検察はなぜ”常識外れの籠池夫妻逮捕”に至ったのか

昨日、籠池泰典氏夫妻が、大阪地検特捜部に、「詐欺」の容疑で逮捕された。

驚くべきことに、この「詐欺」の容疑は、今年3月下旬に大阪地検が告発を受理した「補助金適正化法違反」の事実と同じ、森友学園が受給していた国土交通省の「サスティナブル建築物先導事業に対する補助金」の不正受給であり、「補助金適正化法違反」を、「詐欺罪」の事実に構成して逮捕したということなのである。

詐欺罪と補助金適正化法違反の関係は、「一般法と特別法の関係」というのが常識的な理解だ。一つの事象に対して一般的に適用される法律があるのに、適用範囲が狭い特別の法律が定められている場合は、法の趣旨として、その特別法が適用され、一般法の適用が排除されるというのが「一般法と特別法」の関係だ。

補助金を騙し取る行為は、形式上は詐欺罪が成立する。しかし、国の補助金は本来、当局による十分な審査を経て支給されるものであり、不正な補助金交付を行ったとすると、国の側にも問題がなかったとは言えないこと、国からの補助金の不正は地方自治体等の公的な機関でも行われることなどから、補助金適正化法は、不正受給の法定刑を、詐欺罪の「10年以下の懲役」より軽い「5年以下の懲役・罰金」とし、「未遂罪」が設けられている詐欺罪と異なり、未遂を処罰の対象外としたものだ。つまり、あえて「詐欺罪」より罪が軽い「補助金適正化法違反」という犯罪を定めたものだといえる。

このような法律の趣旨からすると、国の補助金の不正受給である限り、詐欺罪が適用される余地はない。

しかし、それなのに、なぜ、大阪地検特捜部は、「小学生レベル」とも思える誤った逮捕を行ったのか。

3月29日に、NHKを始めとするマスコミが「大阪地検が、籠池氏に対する補助金適正化法違反での告発を受理した」と大々的に報じた。その経過からして、その報道が、明らかに検察サイドの情報を基に行われたこと、そしてその情報は、何らかの政治的な意図があって、東京の法務・検察の側が流したもので、それによって「籠池氏の告発受理」が大々的に報道されることになったとしか考えられないことを【籠池氏「告発」をめぐる“二つの重大な謎”】で指摘した。

しかも、私自身が、その補助金適正化法違反の告発に関して、3月中旬に、マスコミ関係者を通じて事前に相談を受け、告発状案にも目を通したうえで、その後の報道で「請負契約書が虚偽だったとしても、国の側で審査した結果、適正な補助金を交付した」と報じられており、偽りその他不正は行われたものの、それによって補助金が不正に交付されたのではないと考えられること、「森友学園は既に補助金を全額返還したこと」と報じられており、過去の事例を見ても、よほど多額の補助金不正受給でなければ、全額返還済みの事案で起訴された例はないことなどから、「籠池氏の補助金適正化法違反による起訴の可能性はゼロに等しい」と明言した。

そのような、起訴の可能性のほとんどない事件の「告発受理」が、法務・検察幹部のリークと思える経過で大々的に報道された時点で、「この件で、検察は、大変な事態に追い込まれることになるのではないか」という予感がしていた。

本来、詐欺罪が適用されるはずのない「国の補助金の不正受給」に対して、詐欺の被疑事実で逮捕したのは、余程の事情があるからであろう。上記のとおり、国交省側の審査の結果、適正な金額を算定したので、結果的には「不正な補助金支給」が認められず「未遂」にとどまっていて、補助金適正化法違反では不可罰であること、同法違反では不正受給額が「正規に受給できる金額と実際に受給した金額」の差額になるが、詐欺であれば支給された全額が形式上の被害額となるので、マスコミ向けに金額をアピールできること、の2つがその「事情」として考えられる。そこで、逮捕事実を「水増し」するために、敢えて詐欺罪を適用した可能性が指摘できる。

しかも、籠池氏夫妻に逮捕の要件である「逃亡のおそれ」「罪証隠滅のおそれ」が認められるのか。前者がないことは明らかだし、この国交省の補助金受給をめぐる事実関係については主要な物証は大部分が押収され、関係者の取調べも実質的に終わっているはずだ。敢えて罪証隠滅の可能性があるとすれば、籠池氏の「夫婦間の口裏合わせ」だが、それなら、先週木曜日(7月27日)に初めて任意聴取した段階で逮捕すればよかったはずだ。その時点で「罪証隠滅のおそれ」がないと判断して帰宅させたのに、なぜ、その4日後に「逮捕」ということになるのか。

法務・検察の幹部が関わっているとしか考えられない「告発受理」の大々的な報道の後始末として、何らかの形で事件を立件して籠池夫妻を逮捕せざるを得なくなったとすると、「検察が追い込まれた末」の籠池夫妻逮捕だということになる。それは、法務検察幹部が政治的意図で告発受理を大々的に報じさせたことが発端となって、自ら招いた事態だと言わざるを得ない。

それは、検察の常識として凡そあり得ない逮捕であり、過去に繰り返してきた数々の検察不祥事にも匹敵する「暴挙」だと言わざるを得ない。このような無茶苦茶な捜査からは直ちに撤退すべきである。

 

 

 

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検察はなぜ”常識外れの籠池夫妻逮捕”に至ったのか への12件のフィードバック

  1. 岩山 良己 より:

    一回目の任意聴取のあと、私は「逮捕はない」と確信しました。
    その理由は、①逃亡の恐れはない、②証拠隠滅の恐れもない。
    これが、判断した理由です。
    そもそも、マスコミを自宅に招き入れて、いろいろ話しをしたり、すでに家宅捜索されていて証拠となる資料など、ほとんど残っていない。
    にも拘わらず、逮捕だなんて、素人の私でさえ「あり得ね~~」と、のけぞってしまいました。

  2. 橋本信彦 より:

    世間に対する検察のアピールでしょう。
    どんな状況でも、検察に敵対(意に反する行動を)すれば、法律の範囲(恣意的な裁量で)を最大限悪用し逮捕・起訴できるんだぞと。
    人として、人間として恥ずかしくないのかなぁ。

  3. ナゴヤシミン より:

    昨日のいろいろなワイドショーでこの問題が取り上げられ、籠池夫妻が黙秘しているので逮捕もありうるようなニュアンスの報道が多かった。なるほど黙秘しているといつまで経っても真実が明らかにできないので逮捕するのかと漠然と思っていたが、黙秘は証拠隠滅につながると市民に思わせる情報リークだったんですかね。
    検察に都合のいい供述をさせられてしまうのかな。大阪地検も同じ間違いはしないと思うが。

  4. イチロウ より:

    郷原先生の御指摘どおり、籠池夫妻の逮捕は、一般法と特別法の関係を無視した暴挙でしょう。

    「国からの補助金の不正」は、バブル時代には、地方自治体で広範に行われていました。 
    既に、時効でしょうが、実際に、私も関係したことがあります。 

    当時は、地方からの補助金申請額よりも、遥かに巨額が交付されて、地方の現場では、その消化に困ったものでした。 

    年度内に予算を消化出来ずに、事業年度を「繰越」する事務が何処の現場でも見られましたし、会計検査院の検査時には、担当官の接待を入念にして、問題のある事務や現場が発見されないようにしたものでした。

    これ等を全て刑法上の犯罪として検挙するのであれば、相当数の公務員が犯罪者になった処でしょう。 国も地方も。

    幸いにも、当時の検察は、法令の適用に厳正であり、今回のような事例は無かったように思います。 

    因みに、当時の検察の捜査で、今も記憶しています出来事では、早朝に私が勤務しておりました官庁に入札参加していたある業者について捜査されていた担当官が、特定年月日の入札に関わる公文書を出して欲しい、と言われて来庁されたことでした。

    何と、当時の担当者と事務経過も御承知で、ただ、関連公文書の所在を確認に来られたのでしたが、どういう経過でその事務と経過を御承知であったのかが不明でした。 上司とともに、検察の捜査能力は恐ろしいものがある、と驚いたものでした。

    今の検察は、当時とは何かが違うのでしょうか。

  5. 中枝博美 より:

    私ものけぞりました!ありえないです。国策捜査?なんのために。安倍夫妻の意向??
    菅野氏によると、もう押収する書類もないので、夫人のアクセサリーとか没収しているらしい。狂気の沙汰です。検察どうした。弱いものばかり捕まえて恥ずかしい。
    そもそもこんな、みみっちい仕事(学校法人の補助金詐欺がどうしたとか)は大阪府警レベルの仕事で地検特捜部は、あくまで国レベルの巨悪を取り扱う(はず)と聞いていますが。
    どうした特捜部、巨悪(財務省の値引き)はどうなったのか。背任罪は??
    ありえない値引き。ありえない価格、事前の値引きの交渉と経過のテープ録音。どうした地検特捜部!!

  6. matsumoto より:

    近畿財務局の職員も取り調べして、不正に国有地を値引きしたのなら、財務局の職員を逮捕すべきと思います。
    東京の霞ヶ関の財務省幹部からの指示があれば、財務省幹部も逮捕すべきと思います。
    安倍内閣の指示も確認出来たら、証拠隠滅しないよう、家宅捜査して、逮捕して頂きたいと思います。

  7. 小木田順子 より:

    ブログでいつも勉強させていただいております。
    籠池ご夫妻が独居房で接見禁止と知り、あまりの酷さに言葉もありません。
    一市民として声をあげねばと思っておりますし、ぜひ、郷原先生ほか社会的影響力のある方に、さらなる問題提起をしていただければと思っております。
    どうぞよろしくお願い申し上げます。

  8. ひろひろこ より:

    先日、年配の男性が「籠池が一番悪いんや」と言っているのを聞いて、政府による籠池を悪者にするシナリオが国民に浸透させる動きに寒気を感じました。
    籠池夫妻に「嘘つき」「詐欺師」「悪人」というレッテルを貼り、逮捕して葬り去るという暴挙。国に楯突くと怖い、モノ申せぬ世の中が怖い。

  9. 詐欺被害研究者 より:

    詐欺被害経験者から一言。
    詐欺にも色々あります。
    補助金ゴロ、助成金ゴロ、おれおれ、寄付金、募金、学術論文捏造、振り込め、取り込み、、、
    何故か騙された人が悪く言われることもあります。
    サイコパスは存在します。

  10. 志田糺 より:

    「「検察が追い込まれた末」の籠池夫妻逮捕だということになる」で「追い込まれる」というのは「自ら招いた事態だ」というよりは政治的圧力があったのではと勘繰りでしょうか。

  11. yamazaki1988 より:

    全くヒドい有様です。
    ネット世界を見ても多くの方が異常な検察の振る舞いをひはんしています。今では長期拘留している警察の異常性にも批判が集まっています。
    このような異常な事態に対して、個人としての検察官や警察官として正義を主張する者もでてきません。まあ彼らにも家庭生活もありモノも言えない状態は理解でできますが、これでは警察国家へと進むことを食い止めることはできないでしょう。
    また、社会的分業システム(制度・体制)において、司法分野及び警察権力に対する抑止責任は、弁護士界(広くは司法界)にあるはずです。
    だか個々の弁護士の方のブログを見てもこの異常事態に対する批判はしているのでっすが、では「司法と弁護士界としての社会的専門責任をどう果たすのか」という問題にたいしては、その自己批判的(社会的責任を自覚していない問題)はしていないように見えます。

    このような警察国家への入り口に立っている異常事態に対しては、日本弁護士会が先頭を切って、弁護士会会長が法務省から検察(大阪地検も)・軽視庁・警察(特に当該署)に申し入れをするべきではないでしょうか。
    これを今現在の時点で実現できなければ、警察国家化がいま以上に進むだけではないでしょうか。 労働者には労働者としての専門職業と社会的分業責任というものがあるでしょう。
    教員には教育者としての専門的社会的分業責任があるでしょう。
    これと同じように法曹関係者にも、そのうちここでは弁護士としての社会的分業責任があるはずでしょう。
    このような意味でも、籠池問題の準則的な解決と、以上に述べさせてもらいました問題解決にたいしても、ご活躍をきたいします。

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