現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

吉川英治「新・水滸伝」

2020-12-10 17:45:45 | 参考文献

 水滸伝といえば、言わずと知れた中国四大奇書(他は三国志(その記事を参照してください)、西遊記、金瓶梅)の一つですが、それを大衆小説の第一人者の吉川英治が日本人向け(残酷すぎる部分(黒旋風の李逵に関する部分など)や色っぽすぎたりする部分(金瓶梅のもとになる所など)や日本人には分かりにくい部分(人肉食など))に書き直した作品で、作者の死による未完(いわゆる100回本のうちの74回あたりまで)ながら日本では一番読まれている水滸伝の本です(最近の読者は、横山光輝の漫画やコーエーのゲームや北方謙三の水滸伝の方がなじみがあるかもしれません)。
 お馴染みの求時雨の宋江(いわゆる「男の中の男」の原型ですね。背が低く色黒で女にはまったく持てません(役人時代にやり手婆に無理やり押し付けられた愛人に裏切られて、はずみで彼女を殺して囚人になります)が、庶民(特に男たち)には神様のように崇め奉られています(何しろ字名が、「求める時にふる雨」ですからね。しびれます)を初めとした百八人の豪傑たちが大暴れする大河娯楽小説です。
 子どものころに初めて読んでからずっと未完だったのが不満だったのですが、その後岩波文庫の「完訳 水滸伝」(100回本です。水滸伝には後日談も含めた120回本もあるそうです)を読んでも、108人が勢ぞろいする71回までは面白いのですが、それ以降は付けたしの感が否めません。
 実際、中国では71回を最終回に書き直し、初回を前置きにして回数をひとつずつずらしたいわゆる70回本(回数をずらさない71回本もあるそうです)が、水滸伝としては一般的だそうです。
 そういった意味では、吉川英治の「新・水滸伝」は70回本の完訳とは言えるので、この本を読めば完訳を読まなくても十分でしょう。

新・水滸伝 全6巻合本版
クリエーター情報なし
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