火を起こす、熱を冷ますなど手であおいで風を起こす「うちわ」。
竹で骨を作り、和紙を張り付けたこの手作りうちわは、昔から私たちの身近な生活道具としてさまざまなシーンで使われてきた。
今も全国各地で作られているが、なかでも芸術性が高い品として注目されているのが、岐阜の「水うちわ」(ひめこうぼね・7560円)だ。これは竹の骨に非常に薄い和紙を張り、専用のニスを塗って仕上げる。
「ニスを塗ることで透明感が生まれ、見た目も涼しいうちわに仕上がります。名前の由来は、水につけてあおぎ、気化熱で涼をとったからという説と、透明な水のようだからという説があるんです」 と、製造元である家田紙工の家田学さんは説明する。
「いずれにしても、美濃の手漉き和紙、豊富な竹林、長良川の鵜飼いをはじめとした、岐阜ならではの川文化から生まれたものなんですよ」(家田さん・以下同)
水うちわに使うのは、美濃手漉き和紙の雁皮紙。一般的な手漉き和紙の材料・楮よりも細く繊細な雁皮を使って漉いたものだ。
「良質な和紙を漉くために、いちばん大切なのは、下準備です。雁皮の細い繊維についた塵を冷水の中でひとつひとつ丁寧に取り除き、時間をかけて原料の純度を高めます。こうした作業を経ることではじめて、強く、均一で、フィルムと間違えるほど透明感のある和紙に漉きあがるのです」
手間がかかることから、ほとんど作られることのない貴重な紙・雁皮紙なくして「水うちわ」はできないという。
上に塗るニスも天然素材を使用し、岐阜を代表する夏菓子「水饅頭」のようにツルンとした透明感に仕上げているのだとか。時間とともに天然ニスが深いあめ色に変化していく様子も楽しめる。
「水に浸け、濡れたうちわをあおいでみると、水しぶきが飛ぶ様子がまた風流ですよ」
今年の夏は、ぜひ浴衣を着て、この水うちわで涼んでみてはいかがだろう。
※女性セブン2015年7月9・16日号