自然災害大国の避難が「体育館生活」であることへの大きな違和感

避難者支援の貧困を考える
大前 治 プロフィール

災害援助を「権利」として捉え直す

なぜ日本の避難所は劣悪な環境なのか。そこには、災害対策や復興支援についての日本と諸外国との考え方の違いが表れている。

実は、前述の国際赤十字の基準(スフィア基準)は、単なる避難所施設の建築基準ではない。

正式な題名は「人道憲章と人道対応に関する最低基準」であり、避難者はどう扱われるべきであるかを個人の尊厳と人権保障の観点から示している。

国際赤十字「人道憲章と人道対応に関する最低基準」(スフィア基準)
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日本語版で360ページ超の冊子は、冒頭に「人道憲章」を掲げており、次のように宣言している。

*災害や紛争の避難者には尊厳ある生活を営む権利があり、援助を受ける権利がある。
*避難者への支援については、第一にその国の国家に役割と責任がある。
(国際赤十字・スフィア基準「人道憲章」より)

つまり、避難者は援助の対象者(客体)ではなく、援助を受ける権利者(主体)として扱われるべきであり、その尊厳が保障されなければならない。

これは避難者支援の根本原則とされており、人道憲章に続く個別の基準にも貫かれている。

 

たとえば、避難所の運営や援助の方法については、可能な限り避難者が決定プロセスに参加し、情報を知らされることが重要とされる。避難者の自己決定権が尊重され、その意向が反映されてこそ有益な支援が実現できるからである。

避難者の意向が把握されず、供給する側と受け取る側とにギャップが生じた例は数多い。

衛生状態の悪い中古の下着が善意で寄付されたり、逆に、生理用品が必要だという声が行政に反映されない事態も過去に起きた。こうした事態も、自己決定権の尊重と意向聴取によって解消しやすくなる。

そしてまた、援助を受けることは避難者の「権利」であると位置付けることによって、それに応じることは国家の「義務」であると捉えることが可能になる。

避難所を設置して心身の健康を確保することは、国家が履行するべき義務である。劣悪な避難所をあてがうことは義務の不履行として批判されなければならない。

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