今日の映画 – ドリーム(Hidden Figures)

Hidden Figures

映画レビュー

アメリカ映画らしいアメリカ映画。人種差別、女性差別、ソ連との宇宙開発競争と50~60年代の世相を取り込みながら、主人公は障害を乗り越えてハッピーエンド。と言ってしまうと身も蓋もないが、登場人物の分かりやすいプロット、印象的なエピソードを交えながら不要な部分を切り詰めたシナリオが思った以上によく出来ており、オーソドックスな演出と相まってすんなりと入り込める。

NASAを影で支えた3人の女性という売りでポスターも、ジャネール・モネイ、タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサーの3人が大きくフィーチャーされているが、実質的な主人公は、並外れた数学の才能を持つキャサリン・ジョンソン役のタラジ・P・ヘンソン。後の2人も生涯で立派な業績を残した人であるが、この映画でメインのマーキュリー計画への貢献はは限定的。映画では2人がやり遂げることにも触れるが、踏み込まずにサラッと流しているところは上手いやり方。

そういうわけで、タラジ・P・ヘンソンが創造的な仕事をしていても「計算係」としてしか扱われないことや、女性だからという理由で重要な会議に招かれないとか、有色人種用トイレの問題や、同僚からのいやがらせに負けずに奮闘するところが見どころ。それを既成勢力とのガチガチの戦いではなく、ユーモアを交えてソフトに演出しているところは監督セオドア・メルフィの手腕か。

あと、俳優としては盛りを過ぎてしまった感のあったケビン・コスナーが、気難しいが仕事ができてリーダシップのあるボス役で久々に会心の演技。メランコリアの好演で期待したが、その後が続かなかったキルステン・ダンストが意地悪な上司というちょっと気の毒な役。ドラマ、「ハウス・オブ・カード」のロビイスト役から「ムーンライト」でオスカー獲得と大出世のマハーシャラ・アリがチョイ役で出演。

観ていて面白かったのは衣装。NASAの男性職員が全員白いシャツに細身のネクタイという中で、黒人女性のカラフルな衣装が対照的。音楽も、ハンス・ジマー、ファレル・ウィリアムス、ベンジャミン・ウォルフィッシュの3人が参画して力が入っている。

最後に映画タイトルに関して。原題は「Hidden Figures」の「Figures」の「数字」と「人物」の意味から、他の誰もが出来なかった軌道計算をキャサリンがやってのけたことと、マーキューリー計画を人知れず影で支えた黒人女性たちの両方の意味に掛けてあると思う。

ところが、聞くところによると、日本の配給会社の当初の放題案は「ドリーム 私たちのアポロ計画」。これを知った映画ファンが事実と違うと猛抗議した結果「ドリーム」になったという。「アポロ計画」はマーキュリー計画に続く人を月へ送り込む計画で映画と全く無関係で、これがタイトルに入ればかなり恥ずかしかった。しかし「ドリーム」というのも殆ど意味をなさないタイトル。20世紀フォックス、大丈夫か?

予告編

2017年に観た映画

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