女子大生社長・伊藤祐奈さんインタビュー 『元アイドルとしてじゃなく一人の女子大生としてバイトすることに意味があった』

伊藤祐奈さん

2006年~2015年に活動していた女性アイドルグループ“アイドリング!!!”の4期生で、派生ユニット“NEO fromアイドリング!!!”ではリーダーも務めていた伊藤祐奈さん。

グループ卒業後は芸能界を引退し、2016年には現役の女子大生でありながら、イベント運営やプロデュース業などを事業とする株式会社TKMK(トキメキ)を設立しました。そんな伊藤さんのアルバイト歴や、仕事上のポリシーに迫ります。

 

アルバイトは、一人の人間として自立する第一歩だった

伊藤祐奈さん

――アイドル卒業してからアルバイトをされていたそうですね。

卒業の日程は決まっていたので「いいアルバイトないかなー」と探していて、卒業ライヴの2日後にはバイトの面接を受けてました。

――2日後!? 芸能界卒業の余韻に浸る間もないじゃないですか。

卒業ライヴの翌日だけはゆっくり休んで余韻に浸りましたよ(笑)。でも、長いこと休んでいても何も起きないな、と思っていたので。

――つまり、まだ現役アイドル期間中に、普通にアルバイトの求人募集に応募して、普通に面接の日程まで決めていたということですよね。自分がアイドルだったということは、面接のときに伝えたのですか?

伝えてないです。伝えちゃったら私がアルバイトをする意味が全くなくなっちゃうので。むしろ働き始めた後も、バレないようにバレないように…って。当時のアルバイト先の人たちは、今でも私がアイドルだったことを知らないんじゃないかな。だからバイト先の店長さんには「芸能界に入りなよ、芸能界の知り合いがいるから」みたいに勧められたりもしました(笑)。

――しかし、そんな状況でよく隠し通せましたね?

あっ、でも1店だけ途中でバレてしまって、そのお店は泣く泣くですが、店長さんと相談して辞めさせていただきました(苦笑)。私にとってアルバイトは、お店の人に“一大学生”として扱ってもらうことが第一だったんです。私が元アイドルだとバレてしまって、見られ方が変わってしまうのは嫌だったので。

――アイドル時代からの切り替えがお見事ですが、何がそこまで伊藤さんをアルバイトへ駆り立てたのでしょう。

14歳でアイドルになってから、たくさん大人に守られて生きてきましたが、卒業したら自分一人で立っていくしかないので、事前にいろいろ準備はしていたんです。その一環がアルバイトだったんですけど、いざ私がアルバイトをしてみて実感したのは、「1時間これだけ働いて、やっと外でランチが食べられるだけのお金がもらえるんだ」ということ。そういう一般常識をちゃんと身につけたいなと思い、アイドル卒業後はすぐにアルバイトを始めると決めていましたね。

 

「人は怒られているうちが華」、本心からそう思う

伊藤祐奈さん

――アルバイトは、全部でいくつ経験されたのでしょうか?

飲食店のスタッフを3つと、歯科医院の歯科助手です。飲食は寿司割烹、焼肉、イタリアンと、完全に私が好きな食べ物のジャンルのお店を選んでました。イタリアンは個人店だったので、料理を教えてもらって一緒に作ったりもしましたね。

――具体的にアルバイト先を決めるときのポイントは?

え~と…ひとつは美味しそうな“まかない”があるかどうか。アルバイト検索するときは、「まかない付き」を条件にしてたぐらいなんで(笑)。寿司割烹ではまさに“まかない丼”という感じで、海鮮丼を作っていただいたりして。どこのお店もおいしかったです。

――まかない以外だと、何をアルバイト選びの決め手にしていましたか?

働きやすさと、居心地です。私は接客が好きで、全然飽きなかったですね。アイドルも握手会やライヴでファンのかたとの交流を大切にする職業でしたが、接客でコミュニケーションを取るというのは、また新しくて。一つ一つの料理を持っていくときの言葉遣いや些細な気遣いは、アイドルのとき以上に勉強しましたね。

――その一方、歯科助手は飲食とは毛色の違うアルバイトだったのでは?

院長先生がすごく厳しかったです。研修もないままメモ帳だけ持って現場に入って、「これが○×」「これが△□」と教えられて、それを全部覚えなくてはいけなかったので大変でしたよ。

――医療系の仕事は、特にミスが許されない職種ですものね。

はい、最初の頃はかなり怒られました。でもアイドル時代は人に怒られる機会が少なくて、それはそれで嫌だったんですよ。私は「怒ってください」と、自分からお願いしていたくらいだったので。怒られたからこそ「じゃあもっと頑張ろう!」と奮起できますし、それで仕事をこなせるようになれば、相手に信頼してもらえるじゃないですか? 人は怒られているうちが華だと思うので、厳しい大人がまわりにいた方がいいですよね。

 

好きな職種で働いた経験値は、お給料以上の価値がある

伊藤祐奈さん

――アルバイトをする際は、誰しも“時給のよさ”と“やりがい”のどちらを重視するかの葛藤があると思いますが、伊藤さんはどのようにお考えですか?

留学資金を貯めていたので、効率よく稼げるよう時給は気にしていましたね。メチャメチャ頑張った分、時給1500円まで上がったお店もありますし、飲食は3つ全部掛け持ちしていました。駆け持ったバイトのお給料を合計すると、社会人の初任給くらいは毎月稼いでいたので、バイト代の貯金だけで100万円ちょっと貯まりました。ただ、私は“時給のよさ”より“やりがい”を重視した方がいいと思います。

――え~と…ここまでの話と矛盾しているような…。

もちろん時給は高いにこしたことはないです。でも私の場合、やりがいがある仕事、やってみたい仕事、いい経験になりそうな仕事っていうのを前提でピックアップして、その中から時給がいいところを選んだってことなんです。だって本当にお金のことだけを考えたら、時給1200円よりも高いところもあるわけだし。例えばですけど、コールセンターのお仕事は時給がいいですし、もちろんやりがいや楽しさを感じる人もいると思うんです。だけど、私は電話だけのコミュニケーションの仕事には惹かれなかったから、いくら時給がよくても最初から選択肢にはなかったんですよね。

―――つまり、時給1500円で興味のない職種と、時給1200円で興味のある職種を検討したとき、伊藤さんは後者を選んだっていうことですね。

そうですね、私は「好きな仕事をしていたら、そこにお金がついてくる」という考えなんです。好きなアルバイトならやっぱり没頭して続けられるでしょうし、お金では買えない経験も得られるので。だから絶対に好きな職種を第一に選んだ方がいいと思いますよ。それに私の場合、時給の高さに飛びついただけだと、途中で嫌になってすぐ辞めちゃうような気がするから。

 

いたってシンプル。トキメくかどうかが私の行動の基準

伊藤祐奈さん

――続いて、伊藤さんが立ち上げた会社の事業内容を教えてください。

アイドルのプロデュースや、イベントの企画・制作です。ずっとエンタメ業界にいた自分の経験を活かし、他の企業さんと一緒になって仕事をしていますね。

――そもそも、起業を決意したキッカケとは?

アルバイトの貯金で2か月間カナダに短期留学したんですけど、その前に自分がやりたいことを紙にばーっと書き出してみたら、いっぱいあったんですよ。アイドルを作りたいとか、イベントをやりたいとか、個室だけのカフェを作りたいとか。でも、これらの全部を実現するのは普通の会社に勤めても無理だと明らかにわかっていたので、「もう自分でやるしかないな、起業しよ」と思ったんです。

――社長になってみて、仕事にはどんなスタンスで臨んでいますか?

会社名の“TKMK(トキメキ)”というのが、私の人生のテーマなんですね。トキメかないものは買わないし、トキメかないことはしないし。トキメキは恋に限らず、生活の中にありふれていると思っています。だから私は自分のトキメキセンサーが鳴って、面白いと感じたことをやっていきたいんですよ。

――身近なトキメキを見つけるには、物事をポジティブに捉えた方がよさそうですね。

もちろん私も落ち込んだり悩んだりしますが、ネガティブでいても前に進めませんからね。学校や仕事で辛い経験や悔しい経験をたくさんしましたが、今ではホントにいい経験だったなと思うんです。何かをされる側の気持ちがわかるというのは、すごく大事ですし。

――伊藤さんみたいに起業を目指している学生に対し、アドバイスをするなら?

「これだけは負けないし、自信があります」と言える自分の武器を見つけることですかね。例えば「私は笑顔が得意です」とか、そういうちょっとしたことでも何でもいいと思うんです。学生のうちにたくさん遊んだ人なら、「こんなに人脈が広がったからイベンターになれる」みたいな繋げかたもできそうですよね。

――あとはやはり、若さも武器になるでしょうか。

武器になると思いますよ。私が30歳で起業していたら多分、誰も手を差し伸べてくれていないんじゃないかな(笑)。でも“武器になる”というよりは、若いときしかできないことがある…みたいな感覚の方が近いかもしれないですね。私は19歳でアイドル卒業を決めたんですけど、それってリスタートを切るなら20歳からだろうと思っていたからなんですよ。20歳なら、その時点から一から普通の女子大生としてアルバイトを始めて、一から社会を勉強していくこともできるじゃないですか。

――伊藤さんは元アイドルだけあり、TKMKではアイドルのセカンドキャリアについての取り組みも行っていますよね。

アイドルのセカンドキャリアについては誰も教えてくれないし、現役の間は先のことを考えるのが難しく、未来がぼやっとしてしまいがちなんです。私が19歳で「卒業は今しかない」と思っていた大きな理由は、仮に22歳でアイドル卒業しても、遅いかなって感じていたからなんです。23歳から、一から普通のアルバイトをして次のキャリアを築き始めるんじゃ遅いんじゃないかと。

――伊藤さんって、年齢の割に達観していますよね。

それは、父がいつも「5年後、10年後を描きながら今を生きなさい」と話していたのが大きいです。自分が将来どうなりたいか、何歳までに何をしていたいかというところから逆算すると、今、何をすべきかがわかりますよね?

――ただ、“人生を逆算して考えるといい”というのはよく言われることですが、それって簡単そうでなかなか実践できていない人が多くないですか?

そうなんですかね。でも、ぼんやりとでも逆算して考えてみると、現状に焦りを感じたりするじゃないですか。私はそうだったんで、アイドルを辞めてアルバイトをして、起業するということに迷いがなかったんですよ。

――なるほど、その逆算から生まれた“焦り”はネガティブなものではないと。その“焦り”を感じたくないから人生を逆算して考えることを避けている人は多そうですが、伊藤さんにとってはその“焦り”こそがバイタリティーの原動力になっているのかもしれませんね。

 

一周回って辿り着く、失敗や怒られることを恐れない大切さ

伊藤祐奈さん

――最後に、伊藤さんの目には同年代の若者がどう映っているのかお聞かせてください。

う~ん、これはもったいないなと思う部分なんですけど…心が折れてしまいやすい子が多いかなって思います。私も昔はメンタルが激ヨワで、人の意見や目線を気にしちゃうあまり、中学に行かなくなった時期があるんですよ。でもアイドル活動を始めたことで鍛えられて、人として成長できました。例え嫌味を言ってくる人がいても、それは私のことを少しでも羨ましいと思っているから…そういう考えかたに変わったので、今はアンチがいても平気ですし、アイドリング!!!に感謝です。

――アンチとは違うかもしれませんが、大きな目標に向かって頑張っている人の足を引っ張るような発言をする人もいますよね。

いるいるいるいる! 「アイツ、なんかメッチャイケイケじゃーん」みたいにバカにした感じで言ったり(笑)。だけど私は、何かを新しく始めようとしている人に相談されたとき、「やめなよ」と言ったことはないですね。「まず1回やってみたら?」って背中を押しちゃいます。もし失敗したとしても、それがきっと経験になるので。だからみなさんも若いうちにいっぱい怒られて、いっぱい失敗してください! 私もこの先、まだまだ失敗します(笑)。何事も恐れずにまずはチャレンジして、一緒に頑張りましょう!

撮影:貴田茂和
取材・文:森井隆二郎、昌谷大介(A4studio)

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■Profile
伊藤祐奈さん
伊藤祐奈

1995年8月15日生まれ(22歳)。アイドルグループ・アイドリング!!!へ2010年4月に4期生として加入し、バラエティに強いメンバーとして人気を博す。2013年8月からは派生ユニット・NEO fromアイドリング!!!も兼任した。2015年4月にアイドリング!!!を卒業し、同年8月のファンイベントにて芸能活動を終了。卒業直後から飲食店などのアルバイトを複数経験し、カナダへの短期留学も経験。その後、一念発起し2016年12月、イベントマーケティング企業、株式会社TKMK(トキメキ)を設立し脚光を集めている。現在はアイドルグループ・TOY SMILEYのプロデュースも行っており、同グループは10月31日に1stシングル「Magical Toy Box」をリリースした。

◆伊藤祐奈OFFICIAL BLOG:https://ameblo.jp/ito-yuna/
◆伊藤祐奈Official Twitter:https://twitter.com/yu_na_ito

■リリース情報■
伊藤祐奈さんがプロデュースするTOY SMILEYの1stシングル「Magical Toy Box」Now On Sale!!

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