「中古注文」とはどんなものなのか。
まずは、この新しいタイプの住宅の試行販売を始めた旭化成リフォーム流通リフォーム準備室の添野一浩さんに話を聞いた。
「中古のヘーベルハウスの鉄骨や床、壁など、まだ長く使える頑強な構造軀体を残し、内装や設備などを取り払った状態で販売する住宅です。必要に応じて販売時には外壁塗装と屋根防水に最新仕様を施します。軀体は中古ですが、それ以外は全て新築注文と同じようにオーダーメイドできます。旭化成では、“ロングライフ住宅”と称し、60年耐久の住宅『ヘーベルハウス』を販売しています。その耐久性を活かし『フレーム・ヘーベルハウス』と名付けて試行販売をスタートさせました」
次に、この夏「フレーム・ヘーベルハウス」を購入したSさん宅を訪れるべく、神戸市に向かった。S邸は神戸市東灘区の住宅街に建つ35坪の3階建て、築20年の中古住宅。現在、夫(61歳)と妻(59歳)の2人暮らしだという。
S邸の外観は、まさに真新しい新築住宅。ご夫婦に出迎えられ玄関から1階の浴室、和室、2階のリビング、3階の個室……とくまなく見学させていただく。ワンフロア全部を使った広いリビング、最新設備を備えたキッチン、将来の親との同居を見据えた間取り、たっぷりの収納など、Sさんのライフスタイルにぴったりの住まいは新築注文住宅そのもの。築20年の形跡はとりあえず見当たらない。
Sさんは同じ神戸市東灘区の約80 m2の分譲マンションに住んでいたが、将来の両親との同居を見据えて新居を購入した。当初探していたのは広めのマンションだったが、ある日、新聞の折り込み広告に目がとまった。
「神戸市東灘区 オープンハウス開催! 土地+建物+リノベーション フレーム・ヘーベルハウス」
そこには外観写真と共に鉄骨の骨組みと壁だけの内観写真が掲載されていた。興味をもち、足を運んだオープンハウスで目にしたのは、まさにスケルトン状態の一戸建て。
「『おお、すごい』と思いました(笑)。骨組みがしっかりしているのを目で見て確認できたので、まずは安心でした。普通の中古住宅だと、床下が腐っているんじゃないかとか見えない部分の不具合が気になりますが、そこはクリアできた」(夫)
内部に壁や仕切りが一切無い状態だったのも「広々したLDKとか、新しい間取りをイメージしやすかったですね」(妻)とも。
とはいえ不安もあった。「もし20年後に売ることになった場合、表記上は築40年の住宅。せっかく内装を一新しても、その価値がなくなってしまうのでは」
それに対して担当の添野さんからこんな答えが返ってきた。
「ヘーベルハウスは建物オーナーが変わっても引き継がれる“邸別カルテ”があり、建物の維持管理状況が記録されています。
築40年となっても今回のリフォーム履歴はきちんと残っており、定期点検などの管理をきちんと行っていれば同じ築年数の中古住宅より資産価値がきちんと評価できます。その経緯も含めた上で丁寧に販売のフォローをさせていただきます」
その言葉でSさんの不安は払拭。購入を決断する大きな決め手となったという。
S邸には、標準リフォーム設備、Sさんがオーダーしたもの、既存のものを利用したものがある。それらの一部を紹介しよう。
<標準リフォーム設備>
●「ドライヤー機能付き暖房機」や広い浴槽
<Sさんがオーダーしたもの>
●自動洗浄機能付きの換気扇
●180度開くパントリー
●二列型のキッチン
●押入れサイズのクローゼット
<既存の設備をそのままにした箇所>
●玄関ドア・窓サッシ
さて、Sさんが購入した中古注文。実際のところ、安かったのか高かったのか。
建物にかかった費用と同じ土地に新築一戸建てを建てた場合を比較検証してみた。
・新築ヘーベルハウス:35坪
建物(35坪×80万円)2800万円+安全対策・別当工事費400万円+申請管理費100万円+税
=3556万円
差額:3556万円−2181万6000円=1374万4000円
差額は約1400万円。ヘーベルハウスの新築より約4割安い価格で建物を購入できたわけだ。
「実は買ってからも、結局安い買い物だったのか高い買い物だったのか分からなかったんです。周辺の新築にはここより安い物件もあるし……。でも、同じヘーベルハウスの新築より1400万円安かったと聞いて納得しました。住んでみると、窓枠は古いままなので開け閉めするときに『新築とは違うな』と感じることがありますが、それだけで約1400万円安いのだから、大満足です」とSさん。
添野さんは「現在、年間500件を超えるヘーベルハウスが売却されており、今後は築20年を超えるヘーベルハウスが急増するため、売却が一層増えると予想されます。60年を超える耐久性の特性をいかし、購入者に新築さながらの住まいを楽しんでいただきたいと思っています。来年度は年間50件をフレーム・ヘーベルハウスとしてリフォームしていきたい」と語っている。
「中古リフォームと何が違うんだろう?」と疑問を抱きつつ取材を始めた筆者。
実際にS邸を見て、中古とはいえスケルトン状態にして販売されるので、オーダーメイド感が高いと感じた。また、計算してみると新築より1400万円安かったことが分かり、マンション住まいの筆者にとって夢の一戸建てがぐっと身近に感じられた取材だった。
「中古注文」は従来の中古住宅とは一線を画す新しいタイプの住宅だ。今後、販売数も増えてきそうなので、住宅購入の選択肢が広がりそうだ。