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2.ゼネコン化するIT業界 00/7/8

〜かつてタレパン屋もそうだったねえ〜

 いや〜、週末は完全に遊んじゃって、方々から「8日に書くって書いてあるじゃねえか!」と
お叱りのメールを頂きました。すいませんねえ、期待していた人。今後は期待しないで下さいね。

 で、先日書いた番外なんですけど、俺の文才はたいしたことがないので、一部分かりにくかっ
たところがあったですね。要するに、とある政府の御用学者が御用学者になる前から、たまたま
フォローしてたところ、誤用学者になってしまった、という世にも間抜けな内容でありまして。

 本当は裏VC事典にも載せようかと思ったんですが、大前研一と同列だとさすがに可哀想だと
思って番外にしてみました。先日も、値上がり確実な株をつかんで舞い上がっていたのか、こと
もあろうに週刊誌の対談で林真理子氏に「100万ほど株を分けてあげます」「それはすごいこ
とになりますよ」って話をしちゃってましたね。もちろん、周囲は大笑いなんですが、そんなの
お上が主導で予算つけてそこの会社のモノをつかむんですから、上場したりすると値上がり確実
なのは当たり前ですよね。

 そういうのを見ると、ビットバレーだインキュベータだと騒いでいる方が道化のように見える
わけですし、実際道化なわけですけど。

 未だにバカな人たちが「IT革命はエスタブリッシュには向かない」とか「旧来型産業と全く
異質な産業になのがIT業界」とかいう喧伝が巷を賑わす昨今ですが、商売の仕組みや商材とか
は確かに変わりつつあるのは事実ですね。

 よくビジネススクールなんかで出てくる時間の未来価値とか、石鹸と電話なんつー命題とかが
ありますけど、ああいうモチーフが考え出された1930年代と実は現代のIT革命って商売の
現実においては全く変わりがないんですよね。それこそ、泡沫会社の構造から、先端金融と世界
的金融飽和の問題もあったりしますしね。経済史の観点からの話はご質問も頂いていたのでこれ
は来週にでもちと書かせて頂くということにしまして。

 IT系新規企業の大半はローテクなウェブサイト立ち上げ屋やソフト屋だという話があって、
やっぱりこれは裏付けが取れちゃっている部分がある以上、まあそれを前提に話を進めますが、
一部の良く分からないビジネスモデル(というか、アイデア一発勝負)の会社を除き、今はそれ
なりの収益を見込めるところまで比較的容易に成長できるのが現実です。

 某金融会社の資料を読む限り、当該業種の業態変数は何と「0.45」。要するに、一般的な
業種の倒産リスクの半分以下であるということで、わからない人に説明すると、似たような財務
状態で片方が一般小売業種、もう片方がソフト開発会社だったら、ソフト開発会社は一般小売の
半分程度の倒産リスクで貸し出しができますね大将、ってそういう話です。

(しかもこの平均、全業種の単純平均なんで、土木なんて2.6なんですね。同じB/Sならば
原則として似たような倒産リスクのはずなのに、恒常的に粉飾をやってる建設業とかと比較する
と6倍近く倒産リスクが違ってくるんですな。)

 先日も某外様ソフト企業が某証券に乗せられて公開するんだ話を聞かされましたが、やっぱり
堅実に経営している請負ソフト屋は堅実に成長しているし、むしろ新規のビジネスに打って出る
にも人がいないという現実があったりする(一方で、人件費率過多で資金繰りが慢性的に厳しい
現実もある)。ネットビジネスを仕組みとして捉えていた方面のバブルが崩壊してみると、そこ
には堅実なIT産業のIPO化が進んでいるという現実があるんでしょう。

 技術系とビジネスモデル系と請負系という三形態に分けて分析する技法なんてのが最近実績を
あげてきた、なんつー話が先々月でしたか、某金融IT関係のMLで出ていましたけど、これ、
ピンと来た人いましたか?

 これ、ITソフトウェア産業の産業分類と全く同じですよねえ。ついでに、請負形態とか見て
みると、土建屋の産業分類と相似形ですよね??

 でも、もっと強烈に建設業界との連関を思うのは、巨大通信系利権産業を頂点とした産業構造
の徹底した請負化ですね。知っている人は知っていると思いますので軽くしか書きませんけど、
C&WのIDC買収や、NTT分割論議、IT技術開発公的支援スキーム、果ては産学提携事業
からOCNダイヤルアップによるパソコンの割賦まで、いたるところに利権が存在していまして、
しかもそれを是とする雰囲気があって。

 日本の産業史をまともに勉強した人なら、現在の商工族や建設族形成のメカニズムなんていう
もんも俎上に上がったかと思いますけど、なーんか全く同じ構造ですなあ。高度成長でたくさん
ビルが建って、そこにはエレベータを数基配置するので板金業も潤い、コンパネを作るタレパン
屋(タレット・パンチングマシーンを入れている部品加工業者)がけたたましく儲かり、そいつら
が利立てすることに政治家が介在し、またさらに利権化してタレパン屋が儲かるという構造です
けど、今回のITブーム、底辺がタレパン屋がホームページ製作業者になっただけの話で、他は
一切変わっていなかったりします。

 むろん、産業空洞化とか何とか言われるはるか前から板金業は地盤沈下しているわけですけど、
要するに汎用加工品は海外に流れ、粗利の取れる非量産品に全てシフトしたりしてました。

 そこには、通産省の産業政策の失敗もあって、例えば中小企業高度化融資なんてのがあります
が、要するに大田区の町工場から地方に大きい工場を出すと低利融資が受けられるなんて制度を
作って、採算が合わないのに低利もへったくれもないことに気づく業者は少なく、結局おおくの
会社が採算割れの状態で苦しんでいたりします。

 どんな産業であれ、必ず黎明期があって、混乱期があって、成長期があって、成熟するという
観点からすればそれは自然なのでしょうが、産業革命に匹敵すると豪語していた一部論客の煽り
方からすれば、なにもIT業界まで利権構造に組み入れられなくてもいいだろうという気もする
んですがね。

 何と言っても、某雑誌に「お前がいうな!」とまで言われたプロバイダ業者も、アホの富士田
とまで酷評されたネット広告代理業も、選挙番組に出て政治的無学力ぶりを天下に知らしめてた
ホームページ製作会社も、どいつもネットは若い人の感性がなければ無理と言い切って、本まで
出しておきながら蓋を開けて見たら儲かっているのはドコモ本体とドコモ周辺に取り付いて利権
化している企業群だけだったりするわけで、ということは亀井静香の亀井静香による亀井静香の
ためのIT革命ってことなんでしょうか。
 日本にとって救いだったのは亀井は有能だったということですね。

 革命の途中で失脚でもされたら洒落にならん。そう思う関係者は、俺だけではないでしょ(笑)。

 他にも、ITレシオみたいな尺度など使わずともITによる利潤が業績にどのくらい反映した
かをアナリスト情報とか参考にして考えてみますと、いかにITはインフラとコンテンツ以外は
儲からないのかがよく分かるわけですよね。ビジネスモデル特許とか、ビジネススキームだとか
連発する会社が、別に本業があって、その本業のためのIT活用における特許やスキームである
なら光明はあるだろうし、つまりはITの本来価値は生産性の向上にあるのならば、既に利益を
確保しうる事業体が存在しているからこそ、本来価値が出てくるはずです。

 平たく言えば「利益を出そうと思ったら競争に勝つのではなく、競争をなるだけしないことだ」
という基本があって、競争をしないですむようにするために差別化するはずなのに、思いついた
ら実現より先にPRしてしまうネットビジネスにおいて、どうやったら類似のビジネスとの差別
化をはかっていくのでしょう。

 例を出すならば、まだ叩かれていないネットビジネス、DeNAっつー妙な女起業家が騒いで
いるだけのベンチャーがありますけど、オークショニアの仲介業としてビッター(買い手)課金を
前提とするビジネスモデルを提示してました。

 極々普通に考えて、DeNAは全く儲からないと思います。

 マーケットアウトの発想で多分ビッターに課金するというモデルを作り、そこに大企業を巻き
込んで、1200万ユーザーという幻想を見せ付けてIPO狙いをしているとしか思えないんで
すよね。

 ある種の霊感商法というか、1200万もユーザーがいて、儲からないオファー(売り手)企業
がいたら「あんたのところは全くeビジネスを理解していない。悔い改めよ」と脅した上でコン
サル名目で金を巻き上げる図が、まざまざと目に浮かびますな。

 要するに、eビジネスでの展開というのはあくまで撒き餌であって、本当の収益源はコンサル
なんでしょうよ。

 最初は古物商を扱って、社会問題な雰囲気のするリサイクル問題と女性参加を値ごろ感で接着
して、勢いが出たらコンサルで稼ぐという図がありあり。そのうち、消費財、一般材と広げてく
ということなんでしょうけど。

 売上が伸びない駄目オファー元を、有力企業とか、たくさんいるようにみせかけた水増し済み
会員数をバックに、福永法源状態で「あんたが今eビジネスで儲けられないのは金を出さないか
らだよ。頭取らないとeビジネスに勝てないぞ。日経を見てみろ。ダイヤモンドを読んでみろ。
見たまえ!我々の指導によってeビジネスで儲けている企業群を!みなさん、最高ですか?」と
やりゃ、うだつの上がらない二部上場クラスの会社を騙すのはカンタンですやね。

 なぜ儲からないかもそうですけど、儲かると今度は取引数に比例する「ならずビッター」とか
「ろくでなしオファー元」に対する監視業務が必要になるし、そもそもこんな商売はデパートみ
たいなもんだから、特殊な品々を専門に扱う偽サイトや、果ては自分のところでやりますよ的な
大手企業(例えば松下とか松下とか松下など)はでるわ、ナップスターで迂回されるわ、家庭教師
のマージン中抜きのようなことをビッターにやられるわで、ろくなことはねえでしょうな。

 話を戻すと、所詮はインターネット関連も昔の鉄道熱と完全に一緒であって、騙されてババを
つかまされた個人投資家が泣くシステムに変わりはない訳ですけど、その一方でしっかりと利権
という形でつまみ食いしていくというシステムもやっぱりあるんで、歴史はしっかり勉強した方
がいいと思います。

 つーことで次回は鉄道株バブルとインターネット株バブルのあまりにもあまりな相似形につき
簡単に書くことにします。