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ポンペイオ第4回訪朝問題(中国側反応)

2018.08.26.

アメリカのポンペイオ国務長官は8月23日、記者会見を行って「私たちの目標(北朝鮮非核化)に向かうより多くの外交的進展を成し遂げるため、来週北朝鮮を訪問する」(8月25日付ハンギョレ日本語版WS)と発表しました。ところが翌日(8月24日)にトランプ大統領はツイッターで、「私はポンペイオ氏に訪朝しないように要請した。なぜなら現段階では、朝鮮半島の非核化に重要な進展が見られないからだ」として、その訪朝中止を明らかにしました。またトランプは、「アメリカが貿易問題で中国に強硬な姿勢を示しているため、中国は(北朝鮮の)非核化プロセスを支援しないだろう」と指摘し、ポンペイオの訪朝は、「貿易問題が解決した後が、きわめて可能性が高い」と記しました(トランプ発言は8月26日付朝日新聞に基づく)。
 ポンペイオが訪朝計画を発表した翌日にトランプがそれを打ち消すという前代未聞(?)の出来事は、トランプ政権内部の意思疎通メカニズムが如何に機能していないかをさらけ出すもので、政権の危うさを浮き彫りにしています。また、ポンペイオ・国務省とボルトン・ホワイトハウスとの間の主導権争いの存在を垣間のぞかせるものでもあります。
 それにも増して私が唖然としたのは、トランプが米朝交渉停滞の原因を中国の不協力のせいという認識を示したことです。商売人的発想でしか物事を見られないトランプは、米中貿易戦争で対立している今、中国は朝鮮半島問題でアメリカの足を引っ張ろうとしており、そのために米朝交渉の進展は見込めないとしているのです。このことは図らずも、これまでの米朝交渉の進展に中国が大きな役割を果たしてきたことをトランプ自身が認めたことと同義であり、それはそれとして意味のあることです。
しかし、私がコラムで紹介してきたように、中国の「米中貿易戦争」に臨む基本姿勢は、①中国としては決してこの戦争を望んでいない、しかし②アメリカが仕掛けてくる理不尽な闘いにはとことんお付き合いする、ただし③この問題を米中関係の他の分野に波及させることは中国側からは絶対にしない、という3点に尽きます。ましてや、朝鮮半島の平和と安定の実現は中国の安全保障上の根本的利益に合致するものであり、中国が米朝交渉の進展を妨害するという発想は出てきようがないことは、ほんの少しの基本的知識を弁えているものであれば、直ちに分かることです。トランプが上記の認識を明らかにしたことは、彼(及びボルトン・ホワイトハウス)が如何に外交問題、中国問題の素人であるかということをさらけ出すもの以外の何ものでもありません。
 中国が直ちに厳しい批判を行ったことは当然です。以下に、8月25日の中国外交部の定例記者会見における陸慷報道官の発言と翌8月26日付の環球時報社説「アメリカ 荒唐無稽な理由を探して半島責任を言い逃れ」を紹介しておきます。

<陸慷報道官発言>
(問)アメリカ側は、朝鮮半島核問題に関する中国の態度が変わってきて、米朝が交渉を通じて半島核問題を解決するプロセスに影響している、と述べている。これに対するコメント如何。
(答)アメリカ側の言い分は基本的事実に背馳するもので、無責任だ。我々はこのことに対して深刻に懸念するものであり、すでにアメリカ側に対して厳重な申し入れを行った。
 朝鮮半島核問題に関する中国の立場は一貫しており、明確なものだ。我々は、朝鮮半島の非核化実現を堅持し、朝鮮半島の平和と安定を守ることを堅持し、対話と協議を通じて問題を解決することを堅持している。長年にわたり、中国は半島核問題の適切な解決を推進するためにたゆまぬ努力を払ってきたし、重要で建設的な役割を発揮してきた。中国はまた一貫して、安保理の朝鮮関連決議を全面的かつ厳格に執行してきた。以上については、国際社会が一致して認めていることだ。
 我々は、朝米双方が両国指導者のシンガポール・サミットにおける共通認識に基づき、半島問題の政治的解決プロセスを積極的に推進することを支持している。現在における問題は、関係諸国が政治的解決の方向性を堅持し、積極的に接触、協議し、彼我の合理的関心に配慮し、更なる誠意と弾力性を示すことであって、コロコロ気持ちを変え、責任を相手になすりつけるようなことをしないことだ。そのようにしてのみ、半島問題の政治解決プロセスが不断に進展を得ることができるようになる。
 中国は引き続き、関係国と緊密な疎通を保ち、半島非核化の目標及び東北アジアの恒久的な安定の実現のために積極的な役割を発揮していく。
<環球時報社説>
 ポンペイオ国務長官は23日に次の週に朝鮮を訪問すると発表した。次の日、トランプ大統領はこの訪問を取り消した。すなわちトランプは24日のツイッターで、この訪問を取り消すのは朝鮮半島非核化について十分な進展が得られないと考えたからだとした。彼はさらに、「このほか、我々が中国に対してさらに強硬な貿易上の立場を取っているため、中国は非核化プロセスに関してかつてのように手助けしないだろうと、私は考えている」と述べた。
 これは典型的な責任逃れの言い草だ。
 現在、米朝交渉が停滞している責任は主にアメリカにある。朝米サミット後、朝鮮は豊渓里核実験場を爆破し、ミサイル発射場施設を取り壊し、米軍兵士遺骨を返還するなどの具体的行動で誠意を示してきた。しかるにアメリカは、これまで見合った行動をとらないばかりでなく、一方的に朝鮮を制裁するという威嚇をひっきりなしに行っている。このような状況下では、双方の対話を進めることが可能なわけがない。
 見たところ、ホワイトハウスは格好の口実を探し出したようだ。つまり、半島非核化と中国が貿易戦争で断固反撃していることとを関係づけることにより、アメリカ国内にある朝米サミットの成果を疑問視する雰囲気を緩和すると同時に、高まり続けるホワイトハウスの貿易政策を批判する声にも応えることができ、かくて中間選挙を前にしてさらに多くの支持を取り付けるというわけだ。しかし、このことは反面、ホワイトハウスが半島非核化問題に誠意の一かけらも持っていないことを暴露している。
 半島非核化にはタイム・テーブルを必要としているが、その速度についてはアメリカが勝手に操作することは不可能である。アメリカが本気で問題解決を願っているのであれば、朝鮮との間で政治的に「時間合わせ」をするべきであり、朝鮮のタイム・テーブルをアメリカのそれに合わせさせるだけということではダメだ。半島非核化を前に進めるためには、アメリカは朝鮮の安全保障上の要求を顧みなければならない。
 これまでの半島核問題のカギとなるポイントをふり返るとき、突破口の一歩手前というときに後退するというのが常だった。その原因は、常にアメリカが自分の政治的タイム・テーブルに基づいて事を行ったからだ。表面的にいささかの誠意を示す必要があるときは、ホワイトハウスは直ちに積極的姿勢を示す。ところが、実質的な政策上の変化を行う必要に直面すると、ホワイトハウスは対朝政策の出発点に舞い戻り、朝鮮が最重視する安全保障問題で強大な圧力を維持し続けるのだ。今回についていえば、(事態後退・停滞の)責任を中国におっかぶせようとしているだけのことだ。
 アメリカは北東アジアの国家ではない。アメリカのこの地域における利益は主として政治的なものだ。すなわち、アメリカは安全保障上の利益を有しているが、この利益は同盟国に対する軍事的コミットメントに出発点があり、したがってその政治的利益に資するものでなければならないということになる。アメリカはこの地域に強力な軍事的プレゼンスを有しているが、これはアメリカの指揮権を守るためのものだ。したがって、アメリカの半島非核化問題に対する考慮の出発点は、その政治的必要性に応えるということにある。ワシントンにとってもっとも関心があるのは、ホワイトハウスが政治的な利益を獲得できるかどうかだ。
 中国は一貫して米朝対話に積極的立場をとり、そのために少なからぬ努力を行ってきた。中国の支持なくしては、米朝が今日の段階にまで歩んでくることは不可能だった。中国は引き続き、米朝が対話を通じて双方の利益に関する関心において一定の共通点を見いだすことを支持したいと思っており、非核化の起動のために基礎を据えたいと思っている。しかしワシントンが当然に思い当たらなければならないのは、アメリカが貿易問題で筋が通らないむちゃくちゃにしがみついておきながら、中国が従前のようにアメリカの意向に配慮して行動することを期待するとしても、それはあまり可能性がないということだ。中国が半島非核化問題をカードにすることはあり得ない。しかし、中米間の相互信頼が弱まれば、そのことは必然的に多くの分野における中米協力に影響を及ぼす。
 中国にはアメリカが引き起こした貿易戦争に対して対抗し、反撃する十分な能力があり、半島非核化というカードを使う必要性はまったくない。アメリカによる貿易戦争の圧力のもと、中国がいっそう願うのは、非核化プロセスが推進されることにより、この地域の国々にもたらされている政治的な制約と制裁が緩和され、北東アジア地域の経済的発展の潜在力を解き放つことに役立つことだ。この地域の他の国々も同じ願いを抱いている。
 今見る限り、ホワイトハウスには半島非核化問題を解決する誠意に欠けており、ましてや半島における最終的かつ持続的な平和のために何らかの準備を行う気持ちはさらさらない。この問題についてのホワイトハウスの「パフォーマンス」はそのグローバルな政策がぶつかっている境遇を映し出している。すなわち、(トランプ政権は)政治、経済、貿易及び安全保障等多くの問題で「ガラガラポン」しようとしているが、そのことによってアメリカが「再び強大になる」ということにはなっていない。事態は反対で、アメリカは様々な形における阻止、反撃及び拒否の組み合わせに遭遇することにより、事態攪乱者になってしまっている。アメリカの指導者たちがこのような拙劣な演技を一体いつまで続けられるのか、まったくもって分からない。