森の長城づくり
瓦礫ゴミを積んで緑の森を

Add Headings and they will appear in your table of contents.

森の長城で大津波に備える
市民プロジェクトが動き出した

伊達美徳

●どんぐり拾いに東北へ

熊五郎 こんちわ、ご隠居、この裏長屋も寒くなってきましたね。

ご隠居 おや熊さん、いらっしゃい。季節だけは貧乏人にも金持ちにも平等にやってくるね。

ちょっと見なかったけど、どちらか旅だったんですか。

ああ、ちょっと仙台から塩竈、石巻あたりに行って徘徊老人をやってたんだよ。

それって、もしかして大震災被災地見物ですか。

そうともいえるが、実は震災復興ボランティア活動に行ったんだよ。わたしはどうも東北にはこれまで縁がなくて、どこで何をすればよいかわからないままに、1年と8か月も過ぎたんだね。

去年3月11日から、もうそんなに経ったんですね。

そんな時、どんぐり拾いボランティア募集ってのを、インタネットで見つけてね、これなら徘徊老人のわたしに向いていると、被災地見物もかねて行ってきたんだよ。実は震災以来初めてなんだよ。(図1、図2)

(図1)ツアー企画

えッ、どんぐり拾いなんて子どもの遊びでしょ。なんで震災復興ボランティアなんですか。

それはね、どんぐりは冬も緑のシイの木から落ちた実だろ、これをたくさん拾ってきて、芽を出させて苗木をつくるんだな(図14)。その苗木を津波が来た海岸にずらーっと植えようってんだよ。

へーっ、そんな苗木で津波を防ごうってんですか、そんなの無理無理。

(図14)輪王寺で作っている苗木

●震災瓦礫廃材で海岸線に土塁

まあ、お聴きよ、津波の来た海岸に沿ってね、中国の万里の長城のように長い長い土手というか、土塁をつくるんだよ。その土塁は地震と津波で大量に発生した瓦礫や廃材を砕いて土と混ぜて埋めて盛りあげて造る。そのうえに土をかぶせて苗木をたくさん植えると、そのうちに育って大木の森になれば、津波を防ぐ役をするってんだよ。どうだい。

な~るほど、そうすりゃ問題になってる瓦礫やゴミの処理もできるし、津波除けにもなるって、一石二鳥ってわけですね。

そうだよ、そのどんぐりを拾いに行ったのだよ。日本全国からやってきた人たち100人が、毎日5組に分かれてあちこちの森に拾いに行って、3日で10万粒を拾ったよ。

10万粒ッ!? そんなに拾ってどうするんです。そんなにたくさんの苗木がいるんですか。

だって東北被災4県の海岸300kmに及ぶ森の長城をつくるんだよ、まだまだ足りないよ、なにせ9000万本も植えるんだから。

ウワッ、9000万本ッ!? へえ~っ、でも苗木が森になるには100年以上かかるでしょ、次の津波に間に合わないかも。

●宮脇方式で9000万本の苗木を

いやいや、それがこの「森の長城プロジェクト」を提唱した宮脇昭先生のやり方だと、植えてから10~20年もするとそれなりの立派な森になるんだよ。(図3、図4)

(図3)宮脇方式の森の長城造り

(図4) 宮脇方式の森の長城造り

誰です、その宮脇先生って、花咲爺さんじゃなくて森作爺さんですかね。苗木よりも初めから大きな木を植えりゃよさそうなものを、。

いやいや、それじゃあ莫大な金はかかるし、どこかの山から持ってくるとそっちがはげ山になるし、大きな木は根づくまでの何年も手入れに人手がかかるんだ。

なるほど。

苗木を密に植えると、初めの2年を雑草をとる手入れをすれば、あとはほったらかしでも森になっていくんだな。

でも、本当に森になるんですか。そやった実例はあるんですか。

実際に宮脇先生がいらした横浜国大のキャンパスは、その宮脇方式で作った森が茂っていて、知らない人が見たら、森を切り開いて大学校舎を建てたと間違うような風景になっているよ(図15)。宮脇先生はここで植物社会学の研究をなさっていて、その地域に適した自然の森を、できるだけ早く造る方法を編み出されたんだな。大学や学校の周りの緑化ばかりじゃなくて、排気ガスや騒音を出す高速道路や工場の周りに森を実際に造ってきておられるんだな。で、その方法で津波を防ぐ森の長城を造ろうとの提唱なんだよ。

そうですかあ、いいなあ、じゃあ、その森の長城をぜんぶ桜の木にしましょうよ、そうだ、白樺林も素敵だなあ、ヤシの木もいいなあ、観光にもなりますよ。あ、日本中から、いや世界中からいろんな木の種を送ってもらえば、すぐに何千万粒でも集まりますよ、それを苗木にして植えたらどうです。へへへ、あっしもなかなかいい考えが出るね。

(図15)宮脇方式で作った横浜国大の森

●その土地に適した樹木で森を造る

おまえね、それが下手な考え休むに似たりなんだよ。それじゃあダメなんだよ。木なら何でもいいってわけにはいかないんだよ。

なんでです、いいじゃありませんか。

あのな、木ってのは生きてる植物なんだよ、どこでも同じ木が生えるもんじゃないんだよ。その土地その土地ごとに適した植物があるんだよ。その地に適した樹木を植えなさいと、宮脇先生はおっしゃる。だから見た目できれいな樹木が、その地に適しているとは限らないんだよ。適していない樹木は育ちにくいし枯れやすいし、津波が来たら倒れやすいんだよ。庭木なら適していなくても持ち主が一生懸命手入れするから生えているんだな。

あっ、そういや、仙台空港近くの海岸沿いの松の林が、津波で根こそぎ倒れてしまった写真を見ましたよ。そうか、あれは適していなかったのですかね。(図16)

海岸に松が生えるのはそれなりに理由があるんだけどね、松は根が浅いんだ。だから横から来た津波に耐えられなかった。でもね、松と一緒にこの地に適した樹種のシイ、タブ、カシの木の類が生えていたら、これらは根が深いから津波に耐えたかもしれないんだな。(図13)

わかった、それでシイやタブのどんぐりを拾ったってわけですね。

おお、わかってきたね。現実に津波をかぶった海岸部で、ほかの木が倒れてもシイやタブの木は津波に耐えて残ったところがあるそうだよ。こんど実を集めた場所は、神社やお寺の森や海岸の崖地の林のなかなどで、これらは昔から森林があるところなんだ。ウラジロガシ(図6)、シラカシ、アカガシ、スダジイ(図7)、シロダモ(図10)、ヤブツバキ(図11)、ムラサキシキブなどだったよ。これら高くなる木や低く育つ木などを混ぜて植えて、冬も葉が付いた密な森をつくろうってんだよ。

じゃあ、全国からその種類の木の実を送ってもらったらどうです。

そうもいかないよ、やっぱりその地に昔から生えているシイやタブのドングリは、その地に育つに適した性質を持っているんだな。東北に南国のドングリを植えても育ちにくいそうだよ。

(図5)ドングリ拾いイベント本部の輪王寺では、
道路のトンネル工事で失った参道の緑を宮脇方式で森を創造

(図6)多賀城の高崎遺跡でウラジロガシの実を拾う

(図7)塩竈神社の森でスダジイの実を拾う

(図8)塩釜神社の森の中の実生のスダジイの根はこんなに深い

(図9)塩竈神社は深い常緑樹林の中に包まれる

(図10)七ヶ浜の海岸段丘崖上のシロダモから赤い実を採集

(図11)七ヶ浜海岸段丘崖下のヤブツバキの実を拾う

(図12)七ヶ浜津波被災地の空撮(2012年と2002年)

(図13)七ヶ浜町長須賀の松林は津波に襲われてまばらになり枯れかけている

(図16)津波がすべて横倒しにした仙台若林区の海岸防潮林の松林

●これは公共事業でできるのか

だからみんなで東北でドングリ拾いボランティアってわけですか。えらいもんだねえ、でもね、それをどこでだれが苗にして、どこに誰が造る土塁に、だれが植えるんですかね。そのプロジェクトってはどうみても国土的な規模だから、当然に国の復興予算がついていて公共事業の資金が出てるんでしょ。なのにボランティアって、ご隠居だって自腹で行ってきたんでしょ。

ああ、そうだがねえ、う~ん、わたしもそこが一番気になっていて、いろいろ聞いたり調べてみたんだが、実はどうも公的資金はないらしいんだなあ。

だって、いくらドングリをご隠居がボランティアが拾ったって、300kmもの土塁をつくるのは、ご隠居ボランティアにはできないでしょ、そんなヨタヨタじゃあ。

ヨタヨタで悪かったね。まあ、元気な若い者だってできることじゃないし、莫大な金だし広大な土地も要るしね、公共事業じゃないとできないよね。

コンクリの防波堤を造るのなら、土塁の防波堤もありそうなもんでしょう。

ところが瓦礫廃材土塁が一向に公共事業にならないのは、瓦礫や廃材を土塁に埋めることが廃棄物処理の法律から問題があるらしいんだな。

そりゃまたどういうわけで。

まあ、毒物のごみは排除するべきはあたりまえだな。瓦礫は文字通りに焼き物と石ころってことだから、これは埋めてもよい。でも木材や布などの腐敗する廃棄ゴミはいけないんだそうだよ。腐ると土塁が陥没して事故になったり、ガスが出て近所迷惑になるってことらしい。だから法律違反になるってことで、公共事業としての土塁作りができない、そんなことのようだよ。

●被災地域から市民運動で盛り上げて

じゃあ宮脇方式はダメなんですか。せっかくドングリを拾ったのに。

宮脇先生はドイツなどの北ヨーロッパでは、都市のごみを埋め立てて普通にやっていることで、むしろ腐敗するものがあれば樹木の栄養になるからよいのだとおっしゃってる。実はわたしも40年ほど前に宮脇先生と一緒にヨーロッパ視察旅行に行ったことがあり、ドイツでその現場を見てきたことがあるよ

日本でダメっていうのは、もしかしてこれまで前例がないからダメって、お役所的発想のような。

隠 そうかもしれないね。瓦礫ごみ処理の問題は既成事実として、現地焼却や全国各地に移送焼却が進んでいて、いまさらそんなこと言われても困るって、発注した行政の事情やら受託した業者の言い分やらも、あるかもしれないなあ。

ふ~ん、理想と現実のギャップかなあ。でも、まだまだ処理できない瓦礫や廃材ゴミがあるんでしょうにねえ。

とにかく良いことなら市民運動として盛り上げて、国が採りあげないなら自治体の首長にとりあげさせる運動をするんだろうなあ。岩沼市では市主催で2000m、岩手県大槌町では町主催で750mの瓦礫土塁を造って苗木を植えたそうだよ。宮城県山元町では神社がその土地に820mを造ったそうだよ。

そうやって短くても前例をたくさん造ると、お役所もうんというようになるんでしょうねえ。それらをどんどんつなげていくといいですね。ここんところは、被災地の住民たちが市民運動として動くことが、いちばん説得力を持つよね。そして知事、市長、町長たちに頑張ってもらいたいですね。

それが地方主権の時代の復興だよね。宮城県では県議会は「森の防潮堤」推進を決議したけど、知事は慎重で予算がついていないらしい。

それじゃあ県民や市民はどうなんでしょうね。

わたしは気になってるんだけど、被災した沿岸地域の人たち、たとえば壊滅した高田の松原とか名取や荒浜の防潮林のあたりのひとたちは、このプロジェクトにどれほど関心を持っておられるのかなあ。

ところでどうです、この裏長屋も周りに土塁を盛って「森の長城」を造りましょうよ。ドングリは鎮守の八幡様から、ガキどもに拾ってこさせて。

おまえねえ、長屋の周りはいきなり路地とドブと隣家だよ、そりゃ“無理の長城”だよ、考えはまことに重畳(長城)しごくだけどね。(2012.11.16)

<参照>

609森の長城が津波災害を防ぐ
http://datey.blogspot.com/2012/04/609.html

583津波に耐えたイオンの森と津波を起こすイオンの店http://datey.blogspot.com/2012/02/583.html

611震災ガレキによる森づくりで思い出すドイツの森http://datey.blogspot.com/2012/04/611.html

001ふるさとの森の横国大学キャンパスhttp://datey.blogspot.com/2008/05/httpwww.html

参照◆地震津波核毒原発おろおろ日録
http://datey.blogspot.jp/p/blog-page_26.html

まちもり通信

伊達の眼鏡

◆◆◆

●森の長城プロジェクト:ガレキを活かす

http://greatforestwall.com/

アクセスカウンター