輸入業者がアベノミクスの円安誘導を批判するのはポジショントークか?

安倍政権と黒田日銀の円安誘導を批判すると、お前は輸入業者だから、自分に不利だからだろうとか、ポジショントークだろうという批判がきます。

 ですが、それっておかしな話ですよね。
 
 安倍政権と黒田日銀は、円安誘導によってコストプッシュ・インフレになれば景気が良くなる、物が良く売れると主張しているわけです。

 そうであれば我々輸入業者や小売業者は万々歳で文句を言うはずがありません。物が良く売れるようになるわけですから。

 ですが、実態は賃金が上がらず、消費も増えず、景気は一向に良くなりません。これは現場で商売をしている人間からば肌で感じられるし、また毎月の売上高からもわかることでしょう。

 ポジショントークだと批判なさる人たちは、換言すれば「円安で輸入専門業者や小売業者の利益が減っている。ざまあみろ。」と主張なさっておられるようなものです。それは円安誘導したアベノミスは失敗だたと言っているのと同じです。

 我が国では、製造業は企業の約2割程度に過ぎません。後はサービス産業、一次産業です。しかも、製造業でもすべての企業が輸出を主体に商売しているわけではありません。それに輸出をしているにしても、輸出比率が1割とか2割程度であれば、円安による原材料のコストの上昇による損害の方が多いわけです。また輸出企業の下請けも、発注元から値上げが許されていないことが多々あります。別に輸入業者だけが被害を被っているわけではありません。

 また、株などで儲けているごく一部の人たちを除いて、消費者は円安によって不利益を被っています。消費者が円安を批判するとポジショントークなのでしょうか。

 また、お前は経済の専門家でも無いくせに、と仰るコメントもよく来ますが、「経済の専門家」ってなんですかね?相手を素人呼ばわりするならば、ご自身は ひとかどの見識と専門教育を受けたプロフェッショナルということになりますが、匿名なのでわかりません。また具体的な指摘もしません。

 ぼくは20代は広告の世界におり、軍事ジャーナリストして経済、ビジネスの視点で20年以上取材してきました。同時に自分の会社で出版プロデュース、フ ランスのマンガの専門店の経営、輸出・輸入も行い、欧州、イスラエル、南ア、北米、アジアとの取引先と商売しており、リアル店舗、ネット通販、卸売まで 行っております。

 小なりといえども、一線で国際的なビジネスの現場にいる人間です。

 因みに弊社はアベノミスの逆風を受けながらもここ数年2桁成長、今期は3桁成長に近い業績を上げております。ですが、輸入業者で前年比並みの売り上げのところは本当に大変です。

 そして面白いのが、経済の素人呼ばわりする人がウィキペディアあたりで仕入れた情報で、軍事に関してぼくの主張を批判したりします。「素人が専門家を批判するな」と言うのであれば、ご自分が軍事に関してぼくを批判できないと思うのですが、違うようです。こういうのを世間では二重基準といいます。

 率直に申し上げて、こういう人たちはいわゆる権威主義者です。「偉いセンセイの言うことは、まちげえねえだ」と盲信するタイプです。

 恐らく「経済の専門家」とは、マクロ経済学を勉強した学歴満艦飾の人たちのことを仰っているのでしょうが、メディアで出ている●●証券主席アナリストとかなんちゃらチーフストラテジストとかいう人達は所詮株屋です。実体経済がどうなることよりも、相場が大きく上下するようになることががいい人達です。それこそポジショントークを疑うべきでしょう。

 また学者の多くは社会に出たこともなく、自分の才覚でカネを稼いだこともありません。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0J108H20141117

GDPショックで株高シナリオ狂う、アベノミクスを問う選挙に
2014年 11月 17日 ロイター

(上記記事からの抜粋)
ロイターがまとめた民間調査機関の7―9月期実質GDP予想の下限は前期比プラス0.2%、年率プラス1.0%であり、マイナス予測は1社もなかった。予測中央値は前期比プラス0.5%、年率プラス2.1%。前期比マイナス0.4%、年率マイナス1.6%の結果は、まさに「ショック」だった。
「想定を大きく下回る弱い結果」(大和総研の熊谷亮丸氏)、「2四半期続けてのマイナス成 長は衝撃的」(農林中金総合研究所の南武志氏)。GDP公表後、民間エコノミストは一様に驚きの表情を隠せなかった。
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS17H4X_X11C14A1EA2000/
以前のエントリーでご案内したNHKの討論番組でアベノミクスを絶賛していた熊谷氏の弁です。

 「経済の専門家」の予測なんてこんなものです。

 ところが同じような与太な予測を繰り返しても、恥じ入ることもなく、高給を食んでいることができるのが「経済の専門家」という商売です。

 対してぼくのような中小零細企業の経営者が判断や分析をしょっちゅう誤ると、倒産という形で責任を取らされます。「経済の専門家」は気楽な稼業に思えます。

 あえて誤解を恐れずに言えば、マクロ経済学は一種のカルトです。

 少なくとも科学ではありません。科学は再現可能な実験ができますが(それで「STAP細胞」は問題になりました)、経済では同じ条件下での実験は不可能 です。それをあたかも科学のように信じるのは不毛です。例えば化学のアボガドロ数とか、PV=P'V'などの定理は、多くの実験結果から導かれたもので す。つまり再現が可能です。

 
しかしマクロ経済学では、数式のモデルにしても、統計にしても、いかようにも自分の都合のいいようなデータを元に作れます。また消費者の心理とか、数値化できない要素を切り捨てます。

 
総務省の家計調査にしても、実態はかなり怪しいものです。

 この調査は極めて精緻で、今日はブリに切り身何グラムを買ったとか、事細かく家計簿を付ける必要がるので普通の人はあまり協力してくれません。ですから身内、あるいは近い人達に頼むことが少なくないそうです。その点ですでに公平な調査とは言えません。

 また調査は二人以上の世帯だけです。これだけ「お一人様」世帯が増えているのに、それは調査には反映されておりません。

 人間には心があり、消費やビジネスにもそれが作用してきます。これは数値化できません。ですから一般的なマクロ経済学では切り捨てられます。
 
 そしてマクロ経済の仮説は、検証もできません。つまり実験室の中の仮定の話ばかりやっているわけです。

 例えばの話、化学でも、「理学」と「工学」では全く違います。

 実験室で行う硫酸の合成と、工場で行うそれは材料も反応式も全く違います。実験室のものではコスト的に工業では使い物になりません。

 また工場を作るにしても、配管設計などが必要になります。これは理学だけ勉強した人には無理です。工学的な素養が必要です。

 
マクロ経済学だけを学んだ人が、実体経済で何かしようというのは、理論物理学者が原子力発電所の設計をするようなものです。

 無論、経済の仕組みを説明したり、理解するためにマクロ経済学は必要です。ですが、だからといって、すべてをマクロ経済で解決するわけでも、万能でも無いわけです。

 過去「経済の専門家」である日銀がバブルを放置し、そして意図的に潰しました。また石油ショックやプラザ合意では、日本でも「「経済の専門家」たちは見当違いのコメントばかりしていました。

 長銀も日本の最高レベルの「経済の専門家」ばかりいたのに潰れてしまいました。

 また、米国の金融工学を駆使した金融商品は「経済の専門家」によって作られましたが、リーマンショックを起こしました。「グリーンスパン・マジック」と 呼ばれた、グリーンスパンFRB議長(当時)も、実施した金融政策では、リーマンショックを回避するとはできませんでした。

 クルーグマン教授の日銀批判を引用して、日銀を批判していた人たちがかつて少なくありませんでしたが、クルーグマン教授はその後自分は誤っていたと述べています。ですが、「虎の威を借りた狐」さんたちも「虎」さんに倣って自己批判したのでしょうか。

http://www.yomiuri.co.jp/economy/20141101-OYT1T50096.html

ノーベル賞経済学者の「日本への謝罪」
2014年11月01日 読売新聞

 米国のノーベル賞経済学者ポール・クルーグマン博士は10月31日付の米紙ニューヨーク・タイムズに「日本への謝罪」と題する手記を寄稿した。

 日本政府と日本銀行が1990年代以降にとってきた経済政策を批判してきたが、欧米の政策に関しても「2008年以降は、日本がかすむほどの失敗だった」と指摘。「我々は、日本に謝らなければならない」と現在の心境を吐露した。
 そして現在の経済学の主流は米英中心で人気のある、あるいは声の大きい学説が力を持っています。その他は、例えばヴェルナー・ゾンバルトのような考え方は「異端」と切り捨てられます。

 これはマルクス主義と同じです。人間は卑怯でズルくて、欲深く、楽をしたい生き物であることを無視して、「社会的な実験」な実験を行ったソビエト連邦とその衛星国は崩壊しました。20世紀のほぼ丸々の時間を使った、壮大な社会実験でしたが。

 権威を盲信するのはリテラシーの欠除です。他人の意見を批判するならば、自分の頭で考えて、相手を説得できるような説を組み立て、エビデンスを出して行うべきです。
 単に「お前は経済学を分かっていない」と偉そうにコメントするのは、ご本人は気持ちがいいのかもしれませんが自分は馬鹿だと告白しているに等しく、滑稽であります。


http://blogos.com/article/99036/

円安・ドル高:「1円円安で営業利益70億円減」ケースも

円安・ドル高で何が変わる?

28日のニューヨーク外国為替市場で円相場は一段と下落、一時、1ドル=124円40銭前後まで円安・ドル高が進んだ。12年5カ月ぶりの円安は、 製品を輸出する企業にとってはプラスだが、輸入原料の値上がりなどで多くの企業にはコストアップ要因。輸入食材の値上がりで家計にも負担がかかりそうだ。

 円は対ドルで4日続けて下落し、この1カ月で約5円の円安になった。急ピッチで進む円安は、米国が金融緩和で進めてきた事実上のゼロ金利を、年内にも解除して利上げするという見方が背景にある。低金利の円を売って、金利が上がるドルを買う動きが強まっている。

 「我々製造業にとって間違いなく追い風」(日本自動車工業会の池史彦会長)。日本から輸出する製品の海外でのドル建て価格は円安で下落するので、競争力は高まる。ドル建ての価格を変更しなければ、円換算した場合の金額が増えるため、企業の業績をかさ上げする。

 また、外貨を持って日本を訪れる外国人観光客にとって、円安は日本での買い物や宿泊費を割安にする。プリンスホテルなどを展開する西武ホールディ ングスは「客室単価を1000円以上引き上げても、宿泊客数は増加した」(広報担当)といい、4月の外国人宿泊客は前年同期比で3割増えた。日本への外国 人旅行客は4月、初めて170万人を突破した。中国観光客の「爆買い」が大手百貨店などの収益を底上げするなど、観光関連ビジネスは上り調子だ。

 しかし、円安による逆風も吹いている。過去の円高で海外に生産拠点を移転しているメーカーは、円安のメリットを生かせない。携帯電話やテレビを海 外で生産しているソニーは、ドル建てで購入している部品価格が円換算で割高になる。「1円の円安で営業利益が70億円減る」(広報部)と頭を悩ませてい る。

 輸出に関わらない中小企業などへの影響も大きい。輸入に頼る原材料などの価格が上がるためだ。従業員13人の機械部品「柳沢精機」(横浜市都筑 区)の柳沢芳信社長(58)は「アルミなどの材料費や電気代も上がっている。輸出をしている大企業はぬれ手であわかもしれないが、下請けは厳しい」とため 息をついた。

 食品メーカーも原材料価格の値上がりで、価格の引き上げや、内容量を減らす実質値上げで対応せざるをえない。「山崎製パン」は7月から、168品 目の価格を平均2.6%値上げする。「小麦だけでなくあずきやレーズンなど、輸入原料全体の価格が上がっている」(広報)。原材料費は年間で30億円増加 するといい、円安が経営を直撃している。

 牛丼チェーン「すき家」を運営するゼンショーホールディングスは、輸入牛肉の価格高騰を受けて、291円の牛丼並盛りを4月15日から350円に 値上げした。東京都世田谷区のスーパーで買い物をしていた主婦(40)は「乳製品など生活に欠かせない食料品の値上げは痛い。給料も上がらず、子供にもお 金がかかるので、無駄な買い物はしないようにしている」と語った。円安は食料品の値上げなど家計に悪影響を及ぼし、持ち直しつつある国内消費を冷え込ませ る懸念もある。【岡大介、片平知宏】

2015年05月29日

http://sp.mainichi.jp/select/news/20150529k0000m020106000c.html

そんな中での中国国家主席の習近平の日本人訪中団の歓迎ぶりは目を引きますね。
恐らくは、北京など首都の公害問題などあるいはAIIB参加招致なども含めて日本の力を借りなければならないことが山積されているのでしょう。
しかしながら、権力の根幹は、ロスチャイルドが握っているのでこれからの進行については、しっかりと注視していく必要があります。

約3000人の日本人訪中団を歓迎

習近平の演説に隠された意図

先日、習首席が日本人訪中団を前に行った演説は、日本との外交関係を高度に重視している内容だった。演説の背景には、どんな意思があったのだろうか Photo:REUTERS/AFLO

 5月24日、朝7時、北京時間――。

中国共産党中央で外交政策の立案に携わる幹部から、ショートメールが送られてきた。そこには前日の夜、習近平国家主席が、訪中した自民党の二階俊博総務会長に同行した約3000人の日本人訪中団を前に、演説を行ったことを受けたコメントが記されていた。

 「故郷と歴史を大切にする習主席が、地元の陝西省を引き合いに出しながら、西安が中日交流史の窓口になった歴史、しかも日本の使節を代表する阿倍仲麻呂と唐代詩人を代表する李白や王維らが深い友情を築いた歴史を、自らの言葉で振り返った。日本との外交関係を高度に重視している証拠だ。現に習主席は 演説の内容や文言にとことんこだわっていた」

 共産党機関紙である『人民日報』は、5月24日付の一面トップで、習主席が日本の3000人訪中団の前で演説をしたことを報じた。写真には、紅字で記された「中日友好交流大会」という壁をバックに、青いネクタイを着用した習主席が比較的穏やかな表情で映っていた。

 「中国は中日関係の発展を高度に重視している。中日関係は困難な時期を経てきているが、この基本方針は終始変わらないし、これからも変わらない。我々は日本側と手を携えて、4つの政治文書の基礎の上、両国間の善隣、友好、協力関係を推進していきたいと願っている」

 このように、対日関係重視という基本方針がこれまでもこれからも変わらない政治的立場を自ら主張した習主席の「中日友好交流大会」への出席と演説 を大々的に報じたのは、前述の『人民日報』だけではなかった。共産党のマウスピースと称される国営新華社通信は5月24日、“習近平:中日友好的根基在民間”と名づけた記事をヘッドラインで配信した。習主席が演説のなかで最後の主張として口にした「中日友好の根幹と基礎は民間にある」という一節である。

党中央でプロパガンダを担当する宣伝部の知人に確認してみると、「習主席があそこまで対日関係を重視されている。我々の立場も、中日友好の重要性を全面的に宣伝する方向で一致した」とのことであった。

 確かに、私が本稿を執筆している2015年5月25日4時(北京時間)の時点で、新華網(新華社通信ウェブ版)、人民網(人民日報ウェブ版)、央 視網(中国中央電視台ウェブ版)、鳳凰網(香港フェニックスグループのウェブメディア)、そして中国の4大ポータルサイトと称されることもある新浪、網 易、捜狐、騰迅すべてのサイトにおいて、習近平国家主席が中日友好交流大会に出席し、演説をした旨がヘッドライン(トップ記事)として報じられていた。

習近平国家主席の対日関係重視を象徴するケースを扱ってきたが、本稿の目的は“日中友好”をプロパガンダすることにはない。標的はあくまで、本連載 の核心的テーマである中国民主化研究である。そして、中国民主化研究とは相当程度において中国共産党研究であり、とりわけ昨今の政治情勢に基づいて見れ ば、中国共産党研究とは相当程度において習近平研究である。

習近平研究という視角に考えを及ぼした場合、習近平国家主席が、日本の主要新聞に“異例”とまで言わせるほど(『日中、進む対話…二階氏訪中、異 例の歓迎』:読売新聞5月24日、『習主席の訪中団への演説、異例の1面トップ 人民日報』朝日新聞5月24日)約3000人の訪中団を熱烈に歓迎し、対 日関係重視を鮮明に打ち出したという現実は、重要な参考材料となるはずだ。

習首席と対日関係を
解き明かすケーススタディ

 習近平研究を対日関係というケーススタディを通じて掘り下げることを主旨とする本稿では、1つの結論と3つの留意点を提起し、検証する。

 結論を述べる。

 国内の反対勢力、タカ派、そして排外的なナショナリズムに満ちた一部の大衆世論から“日本に弱腰過ぎる”と非難されかねないような“異例” の対日重視と友好ムードを大胆不敵に打ち出した事実から判断して、習近平の共産党内外、および中国政治社会における権力基盤と威信は相当程度強固になって いると言える。

 この現状は、習氏自身の意図や信条に基づいて、周りに無駄な遠慮をすることなく政策や対策を打ち出しやすいという文脈において、対日関係に とってだけでなく、政治・経済・社会レベルなどにおける改革事業にとって有利に働くと言える。そして、現状から判断する限り、具体的なアプローチや優先順 位はさておき、習主席が対日関係の改善だけでなく、改革事業の促進に後ろ向きだと断定する根拠を見出すことは難しい。

 党内で権力基盤を固め、社会で威信を築いてきた源泉は、本連載でも度々扱ってきた“反腐敗闘争”にあるだろう。闘争を通じて党内における政敵や政 権運営にとって邪魔な勢力を打倒し、と同時に、お上の腐敗に対して極めて敏感、かつ憤慨的な反応を示してきた大衆に対して「習近平は人民に味方する素晴ら しい指導者だ」という印象を抱かせた。大衆のあいだでニックネーム化して久しい“習大大”(習おじさん)という呼称が、その印象を可視化している。

私は個人的に、都市部の道端で暇そうに雑談をしている住民や(拙書『われ日本海の橋とならん』(ダイヤモンド社)/ 第四章“「暇人」のエレガントな生活”ご参照)、就職先が見つからず、日々ネット上で不満をぶちまける大学生たちだけでなく、北京大学の教授や市民派 ジャーナリストといった知識層までもが“習大大”という呼称を口にしながら習主席の存在と業績を絶賛していたことに、驚きを隠せなかった。

 中国共産党の最近の対日外交を振り返ってみよう。昨年11月、北京で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)に際して行われた安倍晋三- 習近平会談を皮切りに、4月下旬にはインドネシアで開催されたバンドン会議に際して、安倍—習体制となって2回目となる日中首脳間の会談が行われた。習主席に笑顔がなかった1回目に比べて、2回目の会談では、習主席もわりと和やかな表情で、ソファに座り込んで安倍首相と語り合った。この間、3月には日中安 保対話が4年ぶりに、日中韓外相会談が3年ぶりに再開されている。日中間のハイレベル対話は、多角的に機能しつつある。

 中国国内には、「安倍首相はバンドン会議での演説で“植民地支配”や“侵略”という言葉を使わず、“お詫び”もしなかったのに、習主席はなぜ安倍晋三に会ったのだ?そこまで日本側の面子を立てる必要はどこにあるのか?」といった猜疑的な見方も存在した。実際に、中国の知識人たちからも、私の元にそのようなコメントが飛んできた。

「親日的」という雑音を浴びても
跳ね返すだけの権力基盤がある

 しかしながら、である。

 周永康・元政治局常務委員や徐才厚・元中央軍事委員会主席といった大物を政治的失脚に追い込み、何より無産階級の政党である中国共産党にとって、 どんな勢力よりも味方につけておきたい“群衆”という勢力が習近平を“全体的”に支持している状況下において、習近平のやり方に公然とノーを叩きつけたり、習近平の政策を公の場で名指しで批判したりする知識人は、一部の“異見分子”を除いて限りなくゼロに近いという状況である。

 冒頭の党中央幹部は言う。

 「確かに、ここ半年における習主席の対日政策は“親日的”に映る。実際にそうかもしれない。しかし、仮にそのようなレッテルを誰かに貼られたとしても、そんな雑音を平然と無視し、跳ね返すだけの権力基盤がいまの習主席にはある」

 実際、習主席は“反腐敗闘争”でモノにした権力基盤と威信を武器に、トップダウンで改革を推し進めるための“改革小組”といったワーキンググルー プなどを活用しつつ、経済・社会レベルの構造改革を中心にダイナミックな政策を打ち出している。政策がどこまで果実となるかはいまだ定かではないが、少な くとも「習近平政権=改革派政権」というイメージは先行している。

結論部分を簡単にまとめると、習近平の対日重視→権力基盤が強固な根拠→改革事業に有利、という構造になるであろう。これは、以前【全3回短期集中考察:“民主化”と“反日”の関係(3):中国の民主化を促すために日本が持つべき3つの視座】で指摘した「中国共産党のガバナンス力が強化・健全化することが、トップダウン型の民主化政策につながり、その過程でこそ健全な対日世論・政策環境が生まれる」というロジックともつながっている。

もちろん、本連載でも度々検証してきたように、習近平は「改革重視=政治改革に意欲的」とは必ずしもならないし、「政治改革に意欲的=民主化への 布石」という具合に方程式が成り立つほど、中国共産党を取り巻く政治的・歴史的情勢は単純ではない。習主席は西側発の自由民主主義を“輸入”することには 否定的な態度を示してきており、西側の政治制度を“真似る”類の政治改革に突っ込む可能性は極めて小さいと言わざるをえない。

 ただ、それでも改革事業を重視し、物事を変えていくこと自体に大胆かつ意欲的な習近平政権には、引き続き政治レベルの改革という世紀ミッションが 現実味を帯びるであろうし、本連載で度々主張してきたように、私自身は、仮に中国共産党が民主化も視野に入れた政治改革を実行するのであれば、習近平政権 が最大、そして最後のチャンスだと見ている。

習近平の権力が強大化することは
重大な政治&統治リスクにもなり得る

 ここからは3つの留意点である。これは、前述の結論に対する、あるいは結論を受けた上で、それでも留意すべきポイントという意味である。

 1つ目。習近平国家主席の権力基盤と威信が強固になるプロセスは、対日政策にとっても改革事業にとっても、相当程度有利に働く局面が増えていくこ とを意味するが、と同時に、習主席の権力や威信そのものが強大化、肥大化し過ぎることは、それ自体が、中国共産党体制にとって重大な政治&統治リスクにな る点に留意したい。

 私から見て、習近平に権力が集中する状況下での共産党という組織形態は、内政も外交も、政治も経済も、軍事も社会も、すべての分野で習近平が自ら 決定し、実行しなければ物事が進められない。誰も習近平に代わって、あるいは習近平を凌駕する形で物事を決定し、実行することができない一種の“恐怖政 治”が党内外の構造と空気を覆っている。このような状況下において、仮に習近平国家主席の身に何か不測の事態が起きたとしたら……。

 私は共産党という組織は、機能不全に陥るリスクに見舞われると予測する。また、私がワシントンDCで話をうかがった複数の中国問題専門家や対中政策立案者が、「習近平に権力が集まりすぎるのはリスキー」という観点から、太平洋の向こう側の政治情勢を眺めている。日本でも、朝日新聞国際報道部の峯村 健司・機動特派員が著書『十三億分の一の男:中国皇帝を巡る人類最大の権力闘争』(小学館)のなかで、“頂層設計(トップダウンによる政策設計)の弱点” として、「私が想定する最大のリスクは“強大になり過ぎる習近平”だ」と主張している(第九章:紅二代、303頁)。

2つ目。【全3回短期集中考察:“民主化”と“反日”の関係(2):中国共産党の正当性としての“反日”は弱まっている】の なかで“反日→反党・反政府→中国共産党一党独裁体制の崩壊→民主化”というシナリオを、具体的事例を挙げながら検証したが、習近平主席も“行き過ぎた反 日感情は人民のナショナリズムを狭隘・排他的なものへと膨らませ、社会不安とガバナンスリスクを煽る”という懸念を念頭に、対日関係をマネージしようとし ているように見える点に留意したい。

2005年と2012年に中国各地で大規模かつ連鎖的に勃発したような反日デモ運動が再来し、それらを制御できなくなり、共産党の統治力や正統性 そのものに疑問が投げかけられるリスクを懸念しているのだろう。私自身は、習主席は、前述のシナリオにあるように、“反日”は結果的に“中国共産党一党独 裁体制の崩壊”をももたらし得る破壊力をもったファクターだと認識している、と考えている。

 ちなみに、対日政策が“親日的”になりすぎることによって、党内の保守派やタカ派、一部の一般大衆から叩かれる可能性については、前述したように、現時点での権力基盤をもってすれば抑え込めると踏んでいるだろう。

“懐柔政策”は中共にとっての十八番
対中慎重派を取り込むための抑止構造か?

 3つ目。これは日本の対中政策にも直結してくるポイントであるが、日本政府・社会・国民としては、習近平国家主席が、日中関係が“友好的”だった とされる1980年代の胡耀邦時代を想起させるような約3000人の訪中団を熱烈に歓迎し、異例の待遇を施したことに鼻の下を伸ばしている場合では決して ない現実を、心に留めたい。二階俊博・自民党総務会長を含めた対中友好派を戦略的に取り込むという“懐柔政策”は、中国共産党にとっての十八番だ。内政、 外交を問わず、である。

 習主席を含めた党指導部の脳裏には、友好派を取り込むことによって、対中慎重派、あるいは強硬派を牽制するという抑止構造が描かれているだろう (本来、日本の対中的な立場や見方は“友好派・慎重派・強硬派”のように単純にカテゴライズできるものでも、されるべきものでもないが、現実問題として、 中国共産党が自らの政治的立場に端を発し、日本の対中勢力を分裂的に捉える傾向があるため、あえてこのように記したー筆者注)。そして、その構造のなかの 中心人物が安倍晋三首相であり、中心アジェンダが9月3日に予定されている“中国人民抗日戦争勝利70周年式典”であることは、言うまでもない。

 習主席は中日友好交流協会での演説で、次のように述べている。

 「当時、日本軍国主義が犯した侵略の罪を覆い隠すことは許さない。歴史の真相を歪曲することも許さない。日本軍国主義による侵略の歴史を歪曲・美 化しようと企む如何なる言動を中国人民とアジアの被害国は受け入れない。そして、正義と良心を持った日本国民もそれを受け入れないと信じている」

http://diamond.jp/articles/-/72094