世界の食料問題、そしてエネルギー問題を解決する可能性を秘める「ミドリムシ」の人工培養に、世界で初めて成功したバイオベンチャー・ユーグレナ。そのユーグレナの代表取締役社長、出雲充がそのIPOの祝杯を上げたレストランに、ひとりの料理人がいた。その男の名前は松久信幸。彼が世界で展開するレストラン「NOBU」には、その味を求めて各国のセレブが足繁く通う。ロバート・デ・ニーロとニューヨーク、トライベッカに「NOBUニューヨーク」、ジョルジオ・アルマーニとイタリア・ミラノに「NOBUミラノ」を経営する、まさに“世界のノブ”だ。
世界の「ノブ」と、世界初のミドリムシベンチャー「ユーグレナ」。松久信幸による新著『お客さんの笑顔が、僕のすべて!――世界でもっとも有名な日本人オーナーシェフ、NOBUの情熱と哲学』の発売を機に、包丁一本の料理人と、試験管一本の研究者が語り合った。(取材・構成:森旭彦)

何があっても諦めずに追いかけていれば……

出雲 今日はお会いできて大変嬉しく思っています。著書を拝読していまして、前半は波乱万丈の自伝として、後半はまるでビジネススクールのケースのような生きたマネジメント論として、感銘を受けました。先生はミドリムシ、

包丁一本の料理人と、試験管一本の研究者が語る情熱と哲学<前半>出雲充(いずも・みつる)[株式会社ユーグレナ代表取締役社長]1980年、広島県呉市生まれ。東京大学農学部卒業。東京大学在学中の1998年、バングラデシュを訪れ、世界に存在する本当の貧困に衝撃を受ける。2年後の2000年、「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」のことを知り、世界の「食料問題」と「環境問題」を同時に解決できるそのポテンシャルに魅せられるも、培養技術が確立していないという壁の前に、一旦は事業化を断念。2002年、東京三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行。2005年8月、株式会社ユーグレナを設立し、社長就任。東大発のバイオベンチャーとして注目を集める。同年12月には、世界で初めてユーグレナ(ミドリムシ)の屋外大量培養に成功。食品、機能性食品、化粧品、飼料、そして燃料と、数多くの分野で事業化を目指している。2012年、2012年世界経済フォーラム(ダボス会議)Young Global Leader 2012 選出。著書に、『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』がある。

そして私たちユーグレナのことをどのようにしてお知りになったんですか?

松久 僕は時差のある出張が多いので、体調管理のためにサプリメントを三種ほど、10年来愛用しています。ミドリムシは、箱根の「強羅花壇」という旧知の旅館を訪ねた時、女将の藤本さんに勧められたのが出会いでした。もう飲み始めて約3年です。おかげで胃腸の調子がずいぶんよくなりました。
 今回こうして本を書かせていただいたことがきっかけで、出雲さんにお会いできて嬉しいです。

出雲 私も先生にはお会いしたかったんです。2013年の3月、ユーグレナのIPOのお祝い会をここ、NOBU TOKYOで開いていただいて、数々の料理に感動しました。それが縁で今回は著書を拝読し、こうして「世界のノブ」にお会いする機会をいただきました。

松久 僕も出雲さんの著書を拝読しています。
 僕は好きで料理の世界に入って、料理ばかりをずっと追いかけてきました。出雲さんも、人生で何があってもずっとミドリムシを追いかけてきた。そこに強い接点を感じて、感動しました。
 僕は、追いかけるものに対して決して諦めないタイプです。いろんな壁にぶち当たり、途方に暮れたこともありましたが、その時は必ず周りの人が助けてくれた。出雲さんの本を読んで、そんなことを思い出していました。出雲さんも、本当にミドリムシ一本ですよね? 

出雲 そうですね、もう変われないですね。

松久 もし自分と似たところを見つけるのならば、そういうところが僕と出雲さんの共通点なのかな。