首相は被災地に行くな

池田 信夫

菅首相が震災の被災地の視察を取りやめた。「悪天候のため」と発表しているが、枝野官房長官も記者会見で認めたように、政府内でも「賛否両論」あるからだろう。きのうの官邸の発表に私が「被災地の迷惑」とコメントしたら、被災地から「やめてほしい」とか「救助活動のじゃまになる」といった多くの声が寄せられた。インフラも復旧していない状態で、首相のアテンドに自衛隊の貴重な労力をさくべきではない。


これまでも首相の「現場主義」は百害あって一利なしだった。最大の失敗は、原発事故が起こった直後の12日朝に、ヘリコプターで福島原発に乗り込んだことだ。一刻を争うときに現地スタッフの時間を浪費した結果、冷却水の注入が遅れ、建屋を吹っ飛ばすという致命的な失敗の原因になった。

15日朝に東電に乗り込んで「このままでは東電は100%つぶれる」などと3時間にわたってどなり散らしたことも、貴重な時間の浪費だった。この段階では、もう危機管理の責任は東電ではなく政府にあったのだから、首相のやるべきことは官邸で指揮を取ることであって、むやみに前線に乗り込んで騒ぎ立てることではない。

首相はリーダーシップの弱さを派手なパフォーマンスで補おうとしているのだろうが、「政治主導」の意味を取り違えている。彼はしきりに「決死の覚悟」とか「命がけでやっている」とかいうが、総指揮官の仕事は命をかけることではない。物理的な作業は官僚機構にまかせ、首相は落ち着いて全体の指揮に専念してほしい。

戦争や災害のときは、総指揮官となる大統領や首相への支持が高まるものだが、今回は首相の見当はずれのドタバタに国民は白けている。彼が現地に乗り込んで騒いでも、人気は回復しない。被災地へ行くのは、状況が落ち着いて現地から招待されてからでいい。彼にはまともな判断能力がないようなので、官邸スタッフがしっかりして危機管理にあたってほしい。

コメント

  1. sobata2005 より:

    いつもながら、いやいつも以上に120%同意です。

  2. greetree より:

    > 彼にはまともな判断能力がないようなので

     判断能力がないというより、現場班長と経営者との区別ができていないんです。
     誰かが「経営とは何か」を教えてあげるといいんですけどね。

     自分では何もやらずに、利口な部下にすべて任せたレーガンを見習うといいのですが。

  3. sudoku_smith より:

    非常に同意です。私の会社も被災しましたが、援助物資優先中に中間トマネージャーが東京から視察に行くとか言い出して現地全員あっけにとられました。本人は結局、原発が怖くていかないとか。
    それも「topがくる前に現地に行っておかないと」というメンツの問題だというからお笑いです。
     ともあれ、こんな政治につきあわされる東電も大変でしょうねぇ。
    東電も被害者じゃないでしょうか。

  4. chuarai より:

    菅首相の暴走や迷走を止められるのは、もはや伸子夫人しかいないと思います。

    伸子夫人から「あなた、首相を辞めなさい」と箴言してもらうことを切に祈っています。

  5. yamaguchiiwao より:

    全くご指摘の通りです。保身を図ったり、小賢しいパフォーマンスに走ったりすると現場が混乱するだけで一つも良い事はありません。海外メディアの評価も急降下して、明日の東京株式市場も折角先週末若干戻したのに又急落するかも知れません。江戸時代ですらバカ殿を幽閉する座敷牢があったと聞きますが、首相官邸にはそういった設備はないのでしょうか?見捨てられたに等しい、点在する小さな避難所で震えている避難民を早く安全な所に連れてきて、温かい風呂に入れ、温かい食事を取らすべきです。低温症で多くの避難民が無く成るのではと危惧してます。これは首相官邸の無能に起因するもので人災だと思います。
    山口 巌

  6. みねちゃん より:

    東電も緊急時なんだから普段通りの対応をしなくてもいいんじゃないですか?首相が来た位で現場を止めるような状況じゃないんだから、東京にいる企業のトップが対応するとか、鍵だけ渡しておけばいいんですよ。東電のヘリや車を使う訳じゃないんでしょ?
    首相も首相ですが、そんなネズミみたいなのが出てきただけで現場に無意味な指示を与える東電も東電です。

  7. clashcity より:

    これは正しい。
    菅首相の責任は重大。

  8. enagoya より:

    阪神大震災の際に、当時の村山首相が通常国会への対応に忙殺される中、片手間で災害に当たったというイメージを持たれて支持を失ったのを見ていますから、菅さんはそれが怖いんでしょう。

    あの時は村山さんの現地視察もおざなりな印象を与えました。当初は自治体や警察、消防、自衛隊などの組織が細かい法令でがんじがらめの縦割りになって十分に動けず、私も首相が現地入りして全責任をかぶってくれれば何とかなるのに、と歯がゆい思いをしていました。緊急措置で法律運用の枠を越えるとしたら、最高司令官からの鶴の一声が何より有効ですから。

    だから村山さんに比べれば、菅さんはまだましだと思います。これが自民党の首相でも現地に乗り込んで、同じように全力で対応する姿勢を見せたはずです。ただしその姿勢だけで十分。仰るように現地を混乱させるだけの素人指揮は迷惑だし、現地の士気を挫く海江田発言などスタッフの質も大いに問題です。