埼玉県狭山市の自動車整備工場、FTECコーポレーションが、主に特殊整備にカテゴライズされる業務内容を紹介するブログです。

カマロのシャシーリフレッシュ4/5・組付

1973年型 シボレー カマロ。GM F-body 第2世代のモデルです。
前回に引き続き、フロントサスペンションの組み立て作業を紹介します。


ブッシュとボールジョイントを交換してリフレッシュされたアッパーアームとロアアームを、再び車体に組付けます。装着の際は、部品交換によって生じた影響をよく理解し、新車時の性能に近づけるよう心を砕くことが肝要です。

再使用を検討するボルトナットは、ステンレスワイヤーのブラシで磨き上げて腐食や摩耗がないかを点検します。改めて言うまでもなく、大事なのは雄ねじと雌ねじの状態であって、ナット表面やボルトの頭ではないのですが、重要なボルトナットのトルクフィールは条件をそろえて管理したいので、都合全体を清掃することになります。

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アッパーアーム( = コントロールアーム)のシム。
混同や紛失を防止するために、今回はジップロックを使用しました。


シムを元通りに差してシャフトを締め付けます。
ストリートユースでは、タイヤの偏摩耗を避けるためにキャンバーを立てる方向にセットします。


ロアアームの取り付け。

ゴムブッシュと違いウレタンブッシュは形状的になじむことがないので、長年の走行負荷で生じた僅かな寸法の狂いが組付けの段階で明らかになることがあります。

このカマロの場合は、左前方の取り付け部に修正が必要でした。


サスペンションのコイルスプリングを比較。
左が元のスプリングで、右が新たに装着するもの。
新しいスプリングは自由長がさらに長く、線形が若干細くなる仕様です。


大幅に圧縮しないと組付け作業ができないので、スプリングコンプレッサーの健全性にも十分な配慮が必要です。怪我を未然に防ぐための時間は惜しみなく使う。それによって生じる作業者の心のゆとりは、整備をしているクルマに対する観察力や注意力を高めるために利用する。それがFTECの作業方針です。


ボールジョイントのダストブーツや新たに組んだラバーブッシュ、ウレタンブッシュがそれぞれの結合部に接触する箇所は、例外なくシリコングリスを塗布します。




スピンドルまでの準備が整ったフロントサスペンション。
ビルシュタインの黄色いシェルケースがなかなか精悍です。


続いて、ブレーキディスクローターにハブベアリングを装着してスピンドルに組付けます。




インナーベアリングのレース組付け前に、鋳肌の荒れを修繕して入念に清掃しました。
紙ウエスにグリスをつけて拭きあげると、針状の鉄片がいくつも見つかります。



心ゆくまで清掃したら、気泡が残らないようにグリスを詰めます。
オイルシールを打ち込んだら、リップとその摺動面にもグリスを薄塗りします。




アウターベアリングもインナーと同様に、空洞ができないようにグリスを充填します。
ハブナットを調整して割ピンを入れたら、キャップにもグリスを詰めて装着。

インナー側のオイルシールからハブキャップまでの空間の、九割以上はグリスで満たされることになります。ハブベアリングのグリスは潤滑のほかに冷却にも寄与するので、ブレーキが発する熱の影響を直接受ける旧式のクルマを整備する際は、ブレーキローター単体がハブにかぶせられる構造になったその後のクルマとの違いを、よく理解しておく必要があります。



ディスクローターの傷を拾って偏摩耗していたブレーキディスクパッド。
パッド残量は十分なので、定盤に敷いた#80~120のペーパーで修正して再使用。



ブレーキキャリパーのリテーニングピン。
ボルトナット同様に磨いて点検し、給脂のうえ再使用。




ブレーキキャリパーを装着。

綺麗になった外観だけを見て、これでブレーキも完璧と勘違いしがちですが、これはサスペンション整備の付帯作業として最低限の整備を施した状態にすぎません。ブレーキホースやキャリパーのシールキット交換をともなうオーバーホールを行えば、制動時のペダルフィールが一層向上することは間違いありません。



ボールジョイント、ブッシュ類が刷新されて、新たに組みあがったフロントサスペンション。
各部の締め付けを確認し、キャッスルナットに割ピンを入れたらグリスニップルを点検。
すべての稼働箇所を改めてグリスアップして、組立完了です。





シボレー カマロの、フロントサスペンションをリフレッシュする記事は以上です。

ちょっと冗長すぎたかな?という反省もあるのですが、アメ車のサスペンションの修理方法をきちんと説いた日本語の資料はネット上にも見当たらなかったので、実際の作業手順通りに紹介しました。

ろくなメンテナンスもせずに、アメ車のハンドリングはダルいだとかルーズだとか決めつけるのは、もうやめにしましょう。国籍が違っても、人がクルマに求めるフィーリングに大差はありませんから。

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おまけの動画は、1976年にワーナーが製作したZ級映画、Gumball Rally

二度のオイルショックの狭間にあって、年々弱っていくエンジンパワー、史上最低の時速55マイル規制などが、いかにクルマ好きの人々のストレスを高めていたかが窺い知れます。




ちなみに、1974年に施行されたアメリカのフリーウェイにおける時速55マイル規制は、80年代には見直されて現在は完全に撤廃されています。

やってダメならどんどん変えて突き進む。
彼の地に息づいている精神にも学ぶべき点が多いと思うのは、謙り過ぎでしょうかね。

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■ 73カマロのシャシーリフレッシュ

1・概要 → http://goo.gl/GgrTOA
2・分解 → http://goo.gl/3fnKP3
3・再生 → http://goo.gl/bY5uUl

5・調整 → http://goo.gl/Vn1YYD