DMC book
□ND
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窓に当たる水滴の音だけが事務所に響く。
無いはずの古傷が痛むのだと、やつれた様子のおっさんが笑って言った。
笑ったといっても、見ているこっちが苦しくなってしまうような自嘲の笑みで。
明らかにいつもと違うおっさんにどうしていいか分からず、かと言って放っておく事も出来ないで、オレはただおっさんの横にいるしか無かった。
悪魔も泣き出すあの飄々としたデビルハンターの姿が、なんだか酷く恋しく思えてしまって自分はおっさんの何を愛してるのだと、悔しさに唇を噛んだ。
「坊や」
掠れた声にハッと横を見れば、俺の胸におっさんが顔を埋めていた。抱き枕よろしくぎゅうぎゅうと抱きつかれ、普段なら確実に舞い上がってしまうであろう状況に少しホッとし恐る恐るおっさんの背中に手を回す。自分が追いかけ見つめていた背中はこんなに小さかっただろうか。
時おり嗚咽で揺れる背中を、昔キリエにしてもらったようにゆっくりとさすった。
「坊や」
「何」
「…もう少しこのままでいてもいいか」
「構わないぜ、オレは大歓迎だ」
その古傷が一体なんなのかなんて話してくれなくても構わない。その憂いが晴れるまで、それまでいくらでもこうしていよう。子供のように泣き虫で甘えたなアンタも嫌いじゃ無いが、やっぱりいつものあのいけすかないアンタじゃなきゃ調子が出ないんだよ。
しばらく、ちゃっかりと頭も撫でつつ背中をさすっていたネロは眠りの世界に落ちていったダンテのつむじにキスを落とし囁いた。
「おやすみ、ハニー」
えぐえぐ泣くおっさんとどうして良いか分からない坊やが書きたかったのに。