規制 岩盤を崩す 薬ネット販売、抵抗は誰のため
第2回
3月下旬、友人の代わりに解熱鎮痛薬を買いに行った。第一三共ヘルスケアの「ロキソニンS」。効き目の強い薬のようだ。
医療機関が処方する医療用医薬品と同じ成分を一般用医薬品(大衆薬)に転用した。副作用のおそれもあり、薬剤師に説明を聞かないと買えないという。
代理でも買えた
東京都千代田の神保町駅付近のドラッグストアに薬剤師がいた。
薬剤師「初めてですか」
記者「そうですが、代わりに買いに来ました」
薬剤師「では、この注意書きをお渡しください」
「これでいいの」。あっけなさに拍子抜けした。
この薬は副作用リスクが高い第1類。厚生労働省は2009年、第1類とそれに準じた第2類のインターネットで売ることを禁じた。省令での一律禁止を違法とした1月の最高裁判決で企業は販売再開に動いたが、禁止論も強い。
都内や大阪市の薬局やドラッグストアで色々な薬を買ってみた。第1類は胃腸薬や鼻炎薬など7つ。ほぼロキソニンSのときと同じ対応だった。「以前に買ったことがある」と言えば、何事もなく入手できた。
第2類の薬は風邪薬や漢方薬など3つ。薬剤師らの説明が努力義務になっている。大阪の店では風邪薬がすぐ手に取れる棚にあり、アルバイト風の店員に渡すとそのまま買えた。別の店で漢方薬を持って店員に「副作用で怖いことは」と聞くと「心配しなくて大丈夫ですよ」との答えだった。
ネットはどうだろうか。ケンコーコムのサイトで第1類の胃腸薬「ガスター10」の購入を試した。体調など30のチェック項目をみるよう求められ、欄にしるしをつけると副作用などの説明書きが表示された。
メールで薬剤師が相談に乗ってくれる。福岡県の倉庫兼店舗では7人ほどの薬剤師が対応。大量の注文などは自動で検知し、販売を止めることもあるそうだ。
ネットでも企業が確かな対応策をとれば大丈夫そうだし、対面販売の現状が絶対に安全とも言いにくい。販売手段の違いを基準に禁止かどうかを決めるのには違和感を覚えた。薬の副作用被害は厳然としてある。知人の母親は歯の痛み止め薬の副作用がきっかけで、ずっと寝たきりだ。安全は大切。だがネットを目の敵にすれば済む話だろうか。
広がりを恐れて
「国民の安全も考えられない会議なんてつぶしたっていい」。3月中旬、自民党の議員連盟の集まりで、ある議員が叫んだ。ネット販売の全面解禁を求める政府の規制改革会議への反発は強い。厚労省幹部が明かす。「『対面イコール安全』の論理が崩れると、もっと大きな規制緩和の波をかぶる恐怖がある」
医師が直接診る。薬剤師が店頭で説明する。そんな対面の世界が崩れると、医師や薬剤師に頼らない風潮や、医療機関に投資や技術を強いる遠隔医療が広がりかねない。ドラッグストア業界はコンビニエンスストアへの波及を恐れる。
問題なのは「対面かネットか」の違いではなく、販売経路にかかわらず「安全と便利さ」の折り合いをどうつけるかではないのか。ネット販売でもめていては肝心な話が前に進まない。
先行きを思うと、少し頭が痛くなってきた。頭痛薬はないな。ネットで買って届くのに2日待つか。いますぐドラッグストアに行こうか――。
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