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第111回「久しぶりに、コレは上手いなァ・・と思ったよ。」

 最近は、別注アイテムと言っても別に何も珍しく無い・・と言うか、海外のメジャーブランドにおいても大概の輸入代理店やショップがあれこれ創意工夫した別注アイテムをシーズン毎に発表するよね。 
 ボクも時々復刻アイテムや仕様変更程度の別注をやらせてもらったりするけれど基本的に当店のレベルでは、大抵の場合数量的なギャランティーが難しいから、何か思い付いてもアイデアだけでボツっちゃう事が多いんだよ。だから大手セレクトさんなんかの別注を見て、ちょっと羨ましいなと思う時も少なからず有るよ。 
 通常別注と言うのは例えば既存のアイテムがプロトタイプ(原型)として有るのだったら、それのどこをどうモデファイするのかというのがバイヤーさんとかデザイナーさんの腕の見せどころなんだよね。上手く行くと雑誌にドーンと取り上げてもらえたりするし・・・

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 だけどボタンだけチョイチョイと変更して別注だと言われても今の業界レベルからすると、ちょっと芸がなさ過ぎると思うし(ボクもヒトの事はあんまり言えないけどね)、かと言っていじくり過ぎて、アイテムが全然別のデザインに化けちゃってコレって元々何だっけ?それとも全く新規のデザインなの?みたいなモノも時に生み出されてしまうから、確かに自由と言えば自由なんだけど、その辺りのサジ加減はものすごく難しいと思うんだよ。当然だけど成功を約束するマニュアルなんか有る訳無いし、感性に頼るだけだからね。 
 ただ一番大切な事として、ブランドタグを付けて市場に出すワケだから、そのブランドが従来培って来た確固たるポリシーやイメージを基本的には損なうワケに行かないし、いじくって所々何か変えれば良いんじゃない?というような安直な発想では、仮に1度くらいマグレ当たりが出たとしても基本的には通用しないと思うんだよね。 
 まして新規のデザインなら尚の事マーケットの評価ハードルも上がるし、ギャンブル性もどんどん高まるからね。勿論、そんなのを生み出す際には担当者との戦いも更に熾烈になるし時間も掛かるようになるんだよ。 
 やってみると分かるけど、まず担当者と同じフィールドに上がれるだけのファッションの様々な基本や流れが分かっていないと、本当はお話しにならないし、(まァ、実際は利害が生じるからお話しはしてくれると思うけど・・・)相当ストレスも生じるから本気でファッションが好きで、自分なりに相当掘り下げていないと出来ないよね。 
 なのに時々、誰も欲しがりそうも無いようなモノを一生懸命に時間と手間とお金を掛けて粗大ゴミをせっせと作り出したりされてもねェ・・などと言うヒトが居てさ。だけどそれは、あくまで結果論なんだよ。 
 バイヤーさんやデザイナーさんが持ち前の感性に加えて知識と情報、そして知恵と経験則に基いてあれこれ考え、そして先方の担当者と戦い?ながらサンプリングをしている最中は、彼らの100人が恐らく100人とも内心は必ず「実現する為に、こんなに苦労しているんだからきっと売れるよね?・・イヤ、絶対に売れるに違いない・・参っちゃったなァ、話題になって大ブレイクしちゃったりして・・そうだ、雑誌に載って商品が足りなくなったら困っちゃうかも・・・追加のタイミングはどうしようかなァ?」などと思っている。 
 そして何ヶ月か後、そのうちの結構な人数のバイヤーさんやデザイナーさんが思い知るんだよ、世の中そんなに甘くは無かった(苦笑)・・・と。勿論ボクも例に漏れずそのお仲間の中に指定席がちゃ~んと用意されていたりする事も有るからねェ。一体何年やってるんだよ・・・自分でそう思いながら、またやらかしちゃうんだけどね。

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 ボクがアメリカのメーカーに自分で初めて別注というのをした80年代に入った頃はMAGICというコンベンション(手品の事じゃ無くって年に2回、現在はラスベガスで開催されているアパレルの大規模な展示会の名称)がまだロスで開催されていて・・だけど、別注と言ってもただ単にムートンのジャケットの袖丈を短くしてもらっただけでね。だからこういうのを今は別注と呼んじゃいけないんだよ・・(苦笑)。 
 でも当時アメリカのメーカーは、日本のバイヤーに対してまだロクに相手にもしていないような時代だったから、何かをちょっと変更して欲しいと思っても首をヨコに振りながら「We can't do that!(嫌だ?)」と言われるか、大量の数字や前金の条件を突き付けられて意思表示をされるような時代だったんだよね。 
 でも、たまたまその時は話の分かってくれるセールスマンが居て、その場でボスに相談してくれ「色を2色に絞って、サイズも2サイズだけにするのなら、この数量で何とか受けて上げるよ。」言ってくれた。トータルの数量は予定よりちょっと増やされちゃったけど、ボクも「Ok Ok!」なんて言って無事発注出来た。現地のスタッフと握手をしながら「やったぜィ・・」なんてね。今、思えば可愛いもんだったよ。 
 「だけど30年も経つと海外ブランドの連中のスタンスも仕事のやり方も、随分変わっちゃうもんだねェ・・考えてみたら、何だかスゴい時代になったよね。」先日、古い友達とそんな話しを電話でしながら、その日入荷した商品の入った段ボールを開けて中を見ていたら目に留まったのがミリタリーパーカの傑作、#M-51モッズコートタイプのダッフルコート。 
 今も一向に人気の衰えないモッズコートの凝ったディテールを何とダッフルコートに上手く落とし込んで有るんだよね。それを、またそこら辺のブランドでは無く、あのコンサバのイメージが強い老舗のGLOVERALLがやったというのが何だかスゴいなと思ってね。

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 だけど、よくこのデザイン(合体案)を思い付いたよね、誰がやった仕事なんだろう?・・意外と思い付きそうで実は誰も手を付けて無かった死角だったかも知れないね。 
 聞く所に依ると、この合体デザインのプロトタイプ(原型)は何年か前に英国現地のGLOVERALLで一度サンプリングされた事が有るらしいんだけれど当時は全くウケなくてあっさりボツになった・・というような事だったらしいんだよね。それを古くからボクと仲良しの、あるベテラン・バイヤーがちゃんと憶えていて「今なら行ける!」と思ったんだろうなァ。既存のサンプリングパターンに何ヶ所か手を加え別注アイテムとしてこの秋、晴れて日本市場に登場する事になったという事だった。 
 あくまでボク個人の私見だけど、久し振りに見たレベルの高い仕事だよねェ・・そう思ったよ。みんな分かるかなァ?このカッコ良さ・・・ドローコードやポケットが違和感無くトッグルとバランス良く巧みに配置され、加えて更にはこういうのが、本来メンズのコートなんだよと言うような、このガバガバのシルエット。(2年前ならこういうシルエットは絶対ウケなかっただろうしね。)そして、今シーズンに仕掛けるというタイミング。 
 「上手だなァ、コレは、かなり本気でカッコいいんじゃ無い・・?」と感心しながら、段ボールに手を突っ込んで、まずは自分のサイズを探して居たんだけどね。



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