EUと中国、気候変動対策で共同歩調 パリ協定離脱示唆の米政府を尻目に

マット・マグラス、環境担当編集委員

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気候変動対策に国際社会が合意したパリ協定からの離脱を米政府が検討していると言われるなか、中国や欧州連合(EU)の首脳はパリ協定の重要性を強調する共同声明を近く発表することが分かった。BBCが草案を確認した。ブリュッセルで2日に行われる首脳会談で、共同声明を発表する見通し。

中国とEUは、気候変動に関するパリ協定は「今まで以上に重要な絶対的義務だ」と強調する。双方は1年以上前から水面下で、気候変動とクリーン・エネルギーについて共同声明をまとめる作業に取り組んできた。

共同声明では、気温上昇による危険は「国家安全保障の問題で、社会と政治の脆弱性(ぜいじゃくせい)を相乗的に悪化させる要因」だと強調すると共に、環境負荷の低い再生可能エネルギーは雇用創出と経済成長につながると指摘する。

声明ではさらに、「EUと中国はパリ協定を歴史的成果と認識している。温室効果ガスの排出削減や環境に抵抗力のある開発の推進という不可逆な動きを、いっそう加速させるものだ」と述べ、パリ協定を評価する。

双方は、炭素エネルギーを削減する国家計画実行のため「追加政策や対策」を一層強力に推進していくと表明する。とりわけ、長期的な低炭素戦略を2020年までに明示すると合意している。

共同声明はこのほかにも、炭素市場の開発と連結など、EUと中国の協力分野を列挙。省エネ・ラベルリング、エネルギー効率基準の設定、建物の省エネ基準の設定などについても、協力し合う方針。

欧州委員会のミゲル・アリアス・カニェテ気候行動・エネルギー担当委員は、「EUと中国はパリ協定を実施し、クリーンエネルギーへの世界的移行を加速させるため、力を合わせて邁進(まいしん)していく」と表明した。

「誰も置き去りにすべきではないが、EUと中国は前進することにした」

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画像説明, 昨年11月にモロッコ・マラケシュで開かれた国連の気候変動枠組条約締約国会議で、欧州委員会のミゲル・アリアス・カニェテ気候行動・エネルギー担当委員と、中国の解振華・気候変動問題特別代表

EUと中国が気候変動問題で協力関係を拡大するのと裏腹に、米政府はパリ協定離脱を本格的に検討しているといわれる。

複数の米メディアは様々な消息筋の話として、ドナルド・トランプ大統領が離脱方針をほぼ固めたと伝えている。大統領自身、米東部時間1日午後3時(日本時間2日午前4時)に発表するとツイートした

トランプ氏は5月にイタリア・シチリアで開かれた主要7カ国首脳会議で、各国首脳と共通認識を得られないまま終わった。首脳会議の直後、アンゲラ・メルケル独首相は記者団に対して、米国への不満を率直に語った。

「気候に関する協議全体はとても大変だった。とても不満足なものだったとは言わないまでも」とメルケル首相は述べ、「米国がパリ協定に残るのかどうか、分からない」と懸念を示していた。

動画説明, カリフォルニア州知事、トランプ政権をよそに温暖化対策推進へ

米国は世界第2位の二酸化炭素排出国。その米国が、気候変動に対する国際合意から脱退する可能性を大勢が懸念しているだけに、EUと中国の姿勢は環境保護活動家たちに広く歓迎されている。

環境保護団体グリーンピースのリ・シュオ氏は、「米中協力がパリ協定を生んだとするなら、今やEUと中国が協定を守り強化していく時だ」と述べた。

「EUと中国が手を組めば、国際気候変動外交の新しい推進役になれるかもしれない」

パリ協定の合意内容は

気候変動、もしくは地球温暖化とは、産業や農業など人間活動によって大気に排出されるガスがもたらす悪影響を意味する。

2015年12月に採択されたパリ協定では、温室効果ガスが原因とされる地球規模の気温上昇を抑制するため、締約国が取り組みを約束した。

締約国の合意内容の要旨は次の通り――、

• 地球の気温上昇を工業発達以前と比較して2度上昇より「かなり低く」抑え、1.5度未満に抑えるための取り組みを推進する。

• 温室効果ガス排出量が速やかにピークに達して減り始めるようにする。今世紀後半には温室効果ガスの排出源と吸収源の均衡達成。森林・土壌・海洋が自然に吸収できる量にまで、排出量を2050~2100年の間に減らしていく。

• 5年ごとに進展を点検。

• 途上国の気候変動対策に先進国が2020年まで年間1000億ドル支援。2020年以降も資金援助の約束。

協定は気候変動枠組み条約の締約国全197カ国が参加するもので、現在までに146カ国が批准。米国も批准しており、昨年11月に発効させている。