業界屈指のグルマン放送作家・すずきB氏に、グルメ番組に関する「素朴なギモン」をぶつけてみた

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動物や子ども同様、テレビで最も視聴者を引きつけると言われるものが“グルメ”。画面に映る誰かが料理を作ったり、お店の料理に舌鼓を打つ姿は、もはや見なれた景色だと言ってもいいくらい。そう、もはや「グルメはテレビのお約束」なのです。

 

そんな中、数多くのグルメ系番組の企画・構成に携わっており「業界屈指のグルメな放送作家」とも呼び声が高い人物がいるのをご存知でしょうか?

 

それがこちらの「すずきB」さんです!

 

話す人:すずきB

すずきB

1970年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中、雑誌『HotDogPRESS』(講談社)のライターをするかたわら『さんまのナンでもダービー』で放送作家デビュー。その後『学校へ行こう』など多くのバラエティ番組を担当し、2004 年『魂のワンスプーン』を企画。『業界人がススめる魂のレストラン』の出版を機に『龍虎飯店』『嗚呼! 花の料理人』など、食にまつわる番組を次々と企画。『元祖でぶや』『新どっちの料理のショー』『ウチゴハン』等にも参加。2016年7月現在『秘密のケンミンSHOW』『ぷっすま』『ヒルナンデス』等を担当する他、数多くの料理・食にまつわるプロジェクトや執筆活動も行なっている。オフィシャルウェブサイトはこちら

 

そんなすずきBさんお気に入りのお店にて、グルメ系番組に関する「素朴なギモン」をぶつけてみました!

 

美食家もうなる! 恵比寿横丁「浜椿」

待ち合わせに向かった場所は意外にも、ほどよいカジュアルさが若者にもウケている恵比寿横町。にぎわうサラリーマンやOLたちの中にすずきBさんの姿が。

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訪れたのは、横丁内にある中華料理店「浜椿」。

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──恵比寿横丁にもいらっしゃるんですね(驚)。てっきり西麻布や目黒の隠れ家的なお店かと……。

 

恵比寿横丁ってよく「そこまでグルメな場所ではない」と言われがちなんですが、この「浜椿」ではかつて『料理の鉄人』にも出演していた方が亭主を務めており、本格的な中華の味が楽しめます。実はここの奥の席が穴場でして……。横丁の中でもゆっくり落ち着いて料理を食べることが出来ますよ。

 

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▲「まずはぜひこれを!」ということで、すずきBさんおすすめの「レモンサワー (600円)」を注文。レモンシャーベットが中に入っており、溶けても味が薄くならないのだとか

 

──放送作家といいますと“バラエティ番組”のイメージがありますが、なぜこれほどまでに“グルメ番組”を?

 

もともとバラエティ番組を担当していたのですが、20代のある時に、先輩作家のおちまさとさんに「お前が“これだけは”誰にも負けないってものは何だ?」「これからは何か得意ジャンルを作っておいた方が良いぞ!」とアドバイスをいただきまして。そこで、自分の場合は何だろう? と考えた際に「食べ歩きをするの好きだから、グルメに関する知識ならそう簡単に負けない」という結論に至りました。

 

──そこから、徐々にグルメ番組をやるように?

 

そうですね。まだブログがなかった時代にホームページで食日記をつけたり、バラエティ番組の会議でも積極的にグルメ系企画を提案するようになりました。そうしているうちに、自分が企画した『魂のワンスプーン』(2004年〜)という番組が始まったこともあり、徐々に「すずきはグルメ番組の作家」というイメージを持たれるようになっていった気がしますね。

 

──ご自身の担当番組でもかなりの飲食店や料理人をご紹介されていますが、そうしたお店の情報は、どのように入手・調査されているのでしょう。

 

若手のころに担当した番組『学校へ行こう!』の演出だった合田さんという方が僕の食の師匠でして、当時は色々なお店に連れて行っていただいたり、教えてもらった美味しいお店のリストを作って自らの足で通ったりしていました。もともと自分が好きなことだったので、番組の為に調査するというよりは、楽しく食べ歩きをしていくうちに自ずと色々なお店に詳しくなっていったと言った方が良いかもしれませんね。今では仕事の縁で色々な食通の方とも交流を持たせていただいていることもあり、SNSを開くだけでも「◯◯のお店に行った!」なんて投稿でタイムラインが埋まっていて、ちょっとしたグルメ雑誌代わりに使っていますよ(笑)。

 

──もはや、生活するだけでグルメ情報が舞い込んでくる、と。

 

大げさにいうとそう言えるかもしれません。そこで気になったお店にも、やはり仕事に関係なく足を運んでしまいますね。おかげで平日は外食ばかりの上、土日も家族と外食に行ったりしているせいで、自宅では自分用の茶碗はいつの間にかどこかに仕舞われてしまっているようで……。先日たまたま自宅でご飯を食べる際に、自分の茶碗が探し出せなくて、息子の小さい茶碗を借りて食べるハメになりました(笑)。

 

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▲「ピータンとトマト冷製 (700円)」。ゴマ油たっぷりの玉ねぎのすりおろしが余計に箸を進ませます

 

「本当にグルメかどうか」は見て分かる

──たくさんのグルメ仲間がいらっしゃるようですが「この人はグルメだなぁ!」と思う著名人は?

 

やはりアンジャッシュの渡部さんなどはグルメだなと思いますね。食通や料理人との交友関係が広いですし、番組の食レポを見ていても、料理の良いところを見つけるのが上手い。それを伝える語彙のセンスも卓越しているなと感心してしまいます。それと、世間ではグルメのイメージはまだないんですが……フェンシング日本代表の太田雄貴選手はかなりグルメだと思います。

 

──意外な一面ですね!

 

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▲グツグツと煮えるアンのとろみと、サクサクな感のあるオコゲとのコンビネーションがたまらない「海鮮おこげ (700円)」。芳ばしい香りも食欲をそそります

 

──逆に、プロの目からいろんな食レポの場面を見て「この人って本当はグルメじゃないんだよなぁ」と思う芸能人もいたりして。

 

意地悪な質問ですね(笑)。例えば番組の食レポを見ていて、食べ物の「香り」を「におい」と表現する方には、あまり美食家な印象を持てないかもしれませんね。「本当にグルメな人はワインの楽しみ方にも詳しい」という自負がありまして、そういう方ってワインを必ず「香り」という言葉で表現するんですよ。間違っても「におい」とは言わない。

 

──なんとなく、おっしゃることは分かります。

 

あとは、たとえば上質な肉を食べたときのリアクション。これはあくまで個人的な見解ですけど、肉には「噛みごたえ」という美味しさの要素もあるんですが、なんでもかんでも「柔らかい」「とろける」の一点ばりでほめる人にはあまりグルメでない印象を持ってしまいますね。

 

──食レポしてて、つい言いがちになっちゃう、おきまりのフレーズってありますよね。

 

麺類ですと、途中で噛み砕いて食べる方にはあまりグルメでない印象を持ってしまいますね。反対に一気にすすりながら上手に食べる方は、その都度一口に対する分量をちゃんと計算していて、常に量や味を考えながら料理を楽しめているんだなと思います。

 

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▲麵を食べる際の動きを実演中のすずきBさん

 

──美味しそうに食べているシーンを見せるのにも技術が要るんですね。

 

これ業界内では有名なんですが、芸人であり、グルメリポーターとしても昔から活躍されている某タレントさんが、何でも食べそうに見えて実は長ネギが大の苦手なんです。だから、もし食レポで長ネギが入った料理が出てきたら、視聴者には分からないようにこっそり箸で器の奥側に隠すって言ってましたね。長年の食レポ仕事で得た、立派なテクニックですよね。

 

街歩き系グルメ番組はガチでなく台本?

──最近のテレビを見ていて思うのですが、なぜ芸能人が街に出ていろんなお店を食べ歩く番組が多いのでしょう。

 

実はスタジオでの収録って、セットを組んだりするのに想像以上にお金(美術費など)がかかるんですよ。それこそシェフが料理をスタジオで作るとなると、キッチンや火気の設備も整えなければなりませんし。近年、街歩き系番組が多いのは、その影響も少なからずあると思います。

 

──街で「偶然すごく美味しいお店入っちゃた!」みたいな流れ、 あれも今はやっぱり台本通りなんですかね……?

 

うーん、まぁ番組によって多少事情は違ってくると思いますけど、今の街歩き系番組は基本的にガチンコですよ。意外かもしれませんが、むしろ昔の方がきっちりと台本を決めていたと思います。今の視聴者がそういった作り込みがあからさまに分かる番組を嫌う傾向もありますよね。台本ですべて段取りを決めてしまうと、どうしても臨場感とか緊張感のなさが画面から伝わってしまうので。例えばある番組での「アポなし訪問企画」などでは、事前にある程度コースとかお店の候補はこちらで想定しますが、実際にお店を決めたりアポを取る内容は台本に書かれていません。だから、本当にアポが取れず、交渉しているシーンすら放送させてもらえないなんてことも多々あります。やはり取材NGのお店も結構ありますからね。

 

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▲パリッとしていて香ばしい「横丁餃子 (800円)」。餃子王国・静岡県出身のすずきBさんも、ここの餃子は大好物なのだとか

 

──ご自身が放送作家としてグルメ番組に携わる上で、心がけていることは?

 

われわれ放送作家の仕事のひとつに、ナレーターが読む「ナレーション原稿」を書く作業があるんですが、その際の言葉のチョイスには気をつけています。文字で見せて分かる表現だからといって、声だけで聞かせて伝わるとは限らない。たとえば「燻香」(くんこう)とか「燻味」(くんみ)という言葉って、字面で見るとなんとなく分かるけど、耳で聞くといまいち分からなかったりするじゃないですか。

 

──なるほどー!

 

それと「絶品!」「激ウマ!」といった、ありきたりな言葉ではなく、もっと具体的に美味しさが伝わる言葉の表現を常に考えていますね。

 

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▲「黄ニラ炒め (700円)」。中華ならではの一品

 

今後のグルメ番組はどう進化していく?

──グルメ系番組に関していう限り、かつては「スタジオでの料理人対決もの」が話題になり、最近は「街歩き・食べ歩きもの」が流行っていますよね。今後は、どのようなトレンドになると思いますか?

 

僕は、どの料理でも種類が細分化され、マニアックな情報を紹介する流れがきていると見ています。

 

──といいますと?

 

ラーメンなどではすでに「つけ麺」「家系」「鶏そば」など、たくさんのジャンルに分かれていますよね。それが例えばチャーハンでも「パラパラ系」「シットリ系」「ふわパラ系」と、当たり前のようにジャンルが細分化されていき、それだけに特化して詳しいタレントさんが人気者になったりするのではないかと思うんです。今こうして飲んでいるレモンサワーだって、レモンサワーだけにに異常に詳しいタレントさんや評論家がいたりしても、面白いですね。

 

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──今後、注目している食べ物はありますか?

 

今は「ポテトサラダ」に注目していますね。あと「鶏の丸揚げ」なども、最近食べ歩いていますよ。

 

──ありがとうございました!

 

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ちなみに、すずきBさんの知人の中には、若かりし頃にご自身の担当番組への出演を夢見て料理人になった方もいるのだとか。実は、自分もそのような過去の伝説の番組を学生時代に拝見し、いま同じ放送作家になった身でございます。

近い将来に同じ番組でご一緒し、いつしか美味しいお店に連れて行っていただけるよう精進致します!

 

お店情報

浜椿

住所:東京渋谷恵比寿1-7-2 恵比寿横丁内
電話番号:03-3447-5923
営業時間:17:00〜翌4:00
定休日:不定休

※金額はすべて消費税込です。
※本記事の情報は取材時点のものであり、情報の正確性を保証するものではございません。最新情報はお電話等で直接取材先へご確認ください。

 

書いた人:石田ケント

石田ケント

1988年生の放送作家。法政大学卒業後、独学・フリーで活動開始。考案した番組に日本テレビ「言わせろ!リアクションワード」「超年の差バトル! 神童 VS 老神」「衝動に負けましたSP」「なれそめザペアレンツ」など。日本テレビやTOKYO MXの番組の企画・構成、コント脚本を中心に活動中。担当レギュラー番組等はTwitterをご覧下さい。

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