このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

こち亀BLが大流行!? アニメ化&単行本200巻超えの快挙の裏でイケナイ妄想が…… 【B級ニュース】

2016/06/28


複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。

今回は、「『こち亀』40周年のにぎわいのなかで新たな妄想が展開!?」について。


kochirakatsushikaku_108sh

『こちら葛飾区亀有公園前派出所』第108巻
秋本治  集英社 ¥390+税
(1998年6月発売)

『こち亀』復活ッ!!

フジテレビ系アニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が2008年以来、8年ぶりに復活することが発表された。
今年『こち亀』は原作マンガが40周年を迎え、コミックスは前人未踏の200巻がリリースされる予定。再アニメ化のニュースは、メモリアル・イヤーに華を添える格好となった。

もちろん、このニュースにはネット界隈も敏感に反応した。声優は誰がやるのかといった話題で盛りあがっているかと思いきや……、さにあらず。
なんと中川と両津のBL妄想で盛りあがっていたのであるッ!

BL。そう、ボーイズ・ラブである。

男性同士の恋愛感情を主題とする女性向け作品のことだ。BLの特徴としては、シチュエーションに応じてジャンル分けされている点が挙げられる。
代表的なBLジャンルを見てみよう。
【学園もの(先輩/後輩)】【主従関係】【サラリーマン】【メガネ】【オヤジ】【ヤクザ】……。
キャラクターの置かれている状況やキャラクターの属性が、登場キャラクター同士の関係性をそのまま示すものでもある。つまりBLとは、直接的な性描写の有無にかかわらず、男性同士の関係性のなかにロマンスの可能性をみとめ、その萌芽を愛でるという側面がある。

そしてBLの人気ジャンルのなかには【ドナドナ(借金奴隷)】と呼ばれるものもある。
大富豪が借金の肩代わりをする代償として関係性を迫る……という一類型だ。
『こち亀』の中川と両津は、一部BL愛好者にとって、この【ドナドナ】を想起させる関係性として映るようだ。両さんはしょっちゅう大借金を負っているし、中川財閥に多大な不利益をもたらしているので、そういった妄想をふくらませやすいのだろう。

昨今は、作品をリメイクする際に現代性を反映させるのがトレンドだ。ハリウッド映画に目を移せば、『スタートレック』や『スパイダーマン』のように、新解釈で往年のヒット作品をイチからスタートさせる「リブート」の手法が大流行である。
日本でリブートを行うなら、その現代的な“新解釈”の部分にBLテイストが入ってくるのも、自然な流れといえるかもしれない。

そこで今回は、過去にアニメ化および実写化されたマンガのなかから、「リブート×BL」の法則によって生まれ変わる可能性のある作品をピックアップしていこう。


buchouSHIMAKOUSAKU_s01

『部長 島耕作』第1巻
弘兼憲史 講談社 ¥505+税
(1995年9月19日発売)

まずは人気ジャンル【サラリーマン】。スーツ姿は萌えポイントとして大きいところだろう。
日本のマンガでリーマンといえば金太郎か耕作がド定番だが、ここでは後者の『部長 島耕作』を推したい。

もともと島耕作シリーズには、『課長』時代にゲイの同僚・樫村健三から島が告白されるシーンがあったり、現在「モーニング」で連載中の『会長』では島の専任秘書である三代稔彦がゲイであったりと、同性愛者がときどき作中に登場している。

『専務』以降に島の宿敵として登場した中国マフィア――肛門に携帯電話を隠し持つ男こと曽烈生(現在は奚錦梅を名乗る)とのライバル関係に焦点を当てるのもおもしろいが、やはり島が不遇をかこった時代のほうが望ましい。
九州に左遷され、かつての部下(今野輝常)の下につけられた『部長』時代なら、周囲との関係性から妄想をいろいろと膨らませやすそうだ。

島耕作というと、女性遍歴によって出世したイメージが広く流布しているが、それはもちろん間違いではないが、じつは島が出世するたびに会社の業績は不振に陥っていくところもポイント。
まあ、バブル時代に大手家電メーカー(モデルは松下電器産業・現在のパナソニック)を舞台にスタートした作品なので、それから日本経済が衰退をたどる30年史を描き続けているわけだから、それもやむなし。
島耕作シリーズには、日本経済の敗戦記としての通奏低音が流れている。島がプラズマテレビをノリノリで推していたのもご愛敬だ。

そもそも現在の島は、社長を辞任して会長になったのだが、社長辞任の理由は2期連続で大幅な赤字を計上したから。経営者としての実務能力は、けっして有能ではなかった。
多くの男性上司(中沢、万亀)から寵愛され、多数の派閥から声をかけられ、引きあげてもらい、同業他社の経営者(孫鋭)からはリスペクトされ、部下(国分、三代)からも慕われ、しかし無能にして会社を傾かせてしまう。つまり島耕作こそ、マンガ史に残る「傾国の美女」なのだ。

今『部長』をリブートするなら、従来どおりの「オンナで出世」よりは、「オトコで出世」の要素を強く打ちだしてくるはず。
タイトルは『傾国 島耕作』でどうだ。


shizukanaruDONshinsou_s01

『新装版 静かなるドン』第1巻
新田たつお 実業之日本社 ¥571+税
(2011年10月25日発売)

次に注目したいジャンルは【ヤクザ】だ。ワルい男ってのも、やっぱり魅かれてしまうものである。
ヤクザマンガの金字塔といえば、もちろん『静かなるドン』をおいてほかにない。

主人公の近藤静也は、昼間は下着会社プリティのデザイナーとして働き、夜は1万人の子分を持つ広域暴力団・新鮮組の3代目総長としての顔を持つ。いわば「カタギとヤクザのハーフ&ハーフ」である。
昼間の気弱でヘタレな姿と、ヤクザとしての夜の顔とのギャップがたまらない。

この新鮮組でナンバー2の座を務めるのが、超武闘派の鳴戸竜次だ。
鳴戸は近藤の優しさに気づき、近藤に全幅の信頼を寄せるようになる。近藤と鳴戸の親分子分の盃が熱い。

これまで本作はテレビドラマ、映画、オリジナルビデオ、OVAとメディア化されてきたが、2010年にはドラマCD版もリリースされた。このドラマCD版では、主役の近藤静也は中村悠一が演じた。“ゆうきゃん”こと中村悠一といえば、『おそ松さん』のカラ松役である。 近藤静也もカラ松もトレードマークはサングラスだから、ゆうきゃん主演でリブートすればヒットは間違いナシ!?


bokunoSONGOKUbunkozenshu_s01

『手塚治虫文庫全集 ぼくの孫悟空』第1巻
手塚治虫 講談社 ¥880+税
(2010年11月12日発売)

【主従関係】でオススメしたいのは『ぼくの孫悟空』である。三蔵法師と孫悟空の主従関係は、エバーグリーンの主従関係といえるだろう。

さんざん悪さをして天上界を困らせた孫悟空が、お釈迦様から懲らしめられて、500年の苦行の末に三蔵法師に仕えることになる。
最初はしぶしぶ従っていた悟空が、じょじょに三蔵法師の人柄に惚れて「おししょうさま」と呼ぶようになっていく過程が楽しい。

この『ぼくの孫悟空』(初出時は『ぼくのそんごくう』)は、秋田書店「冒険王」連載時に手塚治虫が失踪する事件が起きた。
その代理原稿を頼まれたのが、藤子・F・不二雄、藤子不二雄A、石ノ森章太郎(当時石森)、赤塚不二夫の4人。いわゆるトキワ荘メンバーであった。トキワ荘メンバーは一晩で『ぼくの孫悟空』の1話分を描きあげるが、結局手塚の原稿が間にあい、トキワ荘版は世に出ることがなかった(1999年に発行されたフュージョンプロダクト『ある日の手塚治虫』に収録)。
この手塚失踪事件は『愛…しりそめし頃に…』の第1集や、『ブラック・ジャック創作秘話 ~手塚治虫の仕事場から~』の第2巻でも描かれている。

三蔵法師と孫悟空、猪八戒、沙悟浄、玉龍(馬)の主従に、手塚治虫とトキワ荘メンバーの関係性をダブらせれば、きっと僕らをマンガ世界のガンダーラに誘ってくれるハズだ。

手塚が好っき好っき好っき、手塚が好っき、好ッきッ!


思い返してみれば、昨年暮れから今年にかけてコンテンツ業界で最大のヒット作品となった『おそ松さん』も、この「リブート×BL」の方程式に則っている。まさか21世紀になってまで、『おそ松くん』が再ブレイクするなんて、誰も思いもよらなかったのではないだろうか?

やはり「リブート×BL」こそが、“ヒットの法則”なのかもしれない。
もしかしたら再アニメ化される『こち亀』は、従来のファンとは違った層に刺さる作品になる!?
……これがヨタ話ではなく「可能性はゼロではない」と思えたら、妄想が自家中毒を起こしている証拠です。
おつかれさまでした。



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

単行本情報

  • 『部長 島耕作』第1巻 Amazonで購入
  • 『新装版 静かなるドン』第1巻 Amazonで購入
  • 『手塚治虫文庫全集 ぼくの孫… Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング