住人と色 | 森のブログ

住人と色

商店街の向こう側、閑静な郊外にカラフルなマンションがありました。
赤人緑人紫人灰人、そこに暮らす人は色々でした。
皆それぞれ手袋をしてました。
なぜならば、手袋はこのマンションの「鍵」のようなものなのでした。

住人のひとりは、手袋に手をかけていいました。
「もう、ここから引っ越しますので、外しますね」
そういって、みんなの前で手袋を外しました。
すると、青く染まっていた身体が透明になっていきました。

マンションは、住人の色によって彩られていたのでした。
住人がひとりひとり消えていくに従って、ぽつりぽつりと単色になり、
最後には誰もいない、透明になっていくのでした。

マンションを離れ、時代の変化を背中に浴びつづけていると、
身体の透明度はしだいに濁っていくのでした。
属性に束縛されない一軒家は自由でしたが、少し孤独をともないました。
濁ったり孤独を感じていると、何だか辛くなるのでした。
そういうときは、卒業写真を開くように、密室で手袋をするのでした。

下の公園で、こどもたちがカラフルなパレードをしていて、
親たちの井戸端会議を囲んでいる景色が浮かぶのでした。
それは万華鏡のような動きをするのでした。

その美しい風景が過ぎ去ると、遥か彼方で確かな桃色をみつけるのでした。
「おーい」
誰かが同じように手袋をして、桃人がこちらに手をふっているのでした。
「お元気ですか?ごきげんよう」
そして、すぐにその色は透明になって、周りに溶け込んで見えなくなるのでした。

(桃人もマンションで一緒に過ごしたひとりなのかな)
そう思うと、濁っていた透明度も少し晴れたような気がするのでした。

最後に、不思議なことがひとつありました。
それは自分の身体が何色なのか、自分で知ることができないのでした。

おしまい

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お題【これで最後】【商店街】【手袋】