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完成間近「上野東京ライン」 新幹線直上の鉄路を歩く

2014/5/4 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版
 東京都心に建設中のJRの新路線「上野東京ライン(東北縦貫線)」が完成間近だ。上野駅と東京駅の間の約3.8キロを結び、東北(宇都宮)・高崎・常磐線と東海道線の直通運転を実現する。一部区間は東北新幹線の真上を走り、高さはビル7階に相当する。大詰めを迎えた新路線の工事現場を歩いた。

■レール敷設は完了

都心に建設中のJRの新路線「上野東京ライン」は完成間近。軌陸ダンプが往来する工事現場を訪ねた 【2014年4月撮影の動画】

都心に建設中のJRの新路線「上野東京ライン」は完成間近。軌陸ダンプが往来する工事現場を訪ねた 【2014年4月撮影の動画】

「ガガガガガァー」。4月中旬、上野東京ラインの建設現場にはレールの上も走行できる作業車「軌陸ダンプ」が行き来し、列車の走行音を抑えるためのバラスト(砕石)をまく音が響いていた。新路線は、すでに全区間でレールの敷設が完了。残すはバラストや架線の敷設などで、工事は最終段階となっている。

新路線が建設されたのは上野―東京間という都心部。とりわけ神田駅周辺は狭いエリアにビルが立ち並び、新たに鉄道を敷く用地がない。このため東日本旅客鉄道(JR東日本)は、神田駅付近の東北新幹線の高架橋上にもう一段新しい高架橋を建て、そこに上野東京ラインを走らせるルートを選んだ。

新路線約3.8キロのうち、高架橋を新たに建設したのは神田駅付近の約1.3キロ区間。うち約0.6キロが東北新幹線の真上を走る「重層部」となる。空中を利用した重層部の最高地点は地上22メートル。ビル7階相当の現場に立って防音壁の下をのぞき込むと、神田駅の京浜東北線や山手線のホームがはるか下にあった。

上野から東京に乗り入れる「上野東京ライン」の一部区間は東北新幹線の真上を走る(JR秋葉原駅-神田駅付近)

上野から東京に乗り入れる「上野東京ライン」の一部区間は東北新幹線の真上を走る(JR秋葉原駅-神田駅付近)

建設中の新路線を上野駅から東京駅方面に向かうと、秋葉原駅を過ぎた辺りで線路は右にカーブを描きながら上り坂となる。新設した高架橋のアプローチ部分だ。すぐ右隣を走る京浜東北線が高架の陰で見えなくなり、左側の東北新幹線が右に曲がりながら新路線の下に潜り込んでくる。

秋葉原から神田までの上り坂を歩く。両サイドに立つ防音壁が外の視界を遮り、高さや勾配の大きさはあまり感じない。ところが神田駅付近の最高地点を過ぎると、前方の視界が開け、東京駅方面へ続く長い下り坂の鉄路を実感できる。

■国内有数の急勾配路線に

上野東京ラインの高架橋の勾配は最大35パーミル(1000分の35)。約2度の角度の坂になる。国土交通省によると、現在の普通鉄道の技術基準で35パーミルは事実上の最大勾配。新幹線上空を走る新路線は、神田駅付近を頂点に電車が上って下る急坂のルートといえる。

ただ、この35パーミル勾配は決して珍しいわけではない。都心にも同じ勾配のJR線がほかにもある。東京駅のホームが高い位置にある中央線だ。東京駅近くの35パーミルの急勾配を日々、電車が往来している。JR東日本は「規定内の勾配であり、運行上、十分な余裕をもった値」と説明する。

東北新幹線の真上に「上野東京ライン」の巨大な桁を架設。深夜の作業に密着した 【2012年3月撮影の動画】

東北新幹線の真上に「上野東京ライン」の巨大な桁を架設。深夜の作業に密着した 【2012年3月撮影の動画】

上野東京ラインの着工は2008年。都心部で営業中の東北新幹線の真上に高架を建設するのは「難工事の連続だった」とJR東日本・東京工事事務所の柳沢則雄東京工事区長は振り返る。東日本大震災の影響で1年遅れとなったが、今夏までに工事は完成。運転士が新路線に慣れるために半年ほどの運転訓練期間を経て、いよいよ2014年度末に開業する予定だ。

新路線は混雑緩和や目的地までの所要時間短縮をもたらす。ラッシュ時の混雑が激しい京浜東北線の上野―御徒町間は、2012年度の混雑率が194%(国交省調べ)。着工当時の209%(08年度)から緩和はしたが、新路線の開業によって「180%以下まで大幅に改善する」とJR東日本は見込む。折りたたんだ新聞を車内で読める程度になる。

さらに上野駅止まりの東北(宇都宮)・常磐・高崎線が東京駅まで乗り入れ、東海道線と直通運転する影響は大きい。北関東と横浜方面の往来がしやすくなり、2001年に運行を始めた「湘南新宿ライン」と同じような効果が見込める。JR東日本は休止中の「東海道貨物線」を活用することで、北関東からの電車を上野東京ライン経由で羽田空港まで運行する構想も描く。

総工費約400億円。約3.8キロの新路線は、首都圏の鉄道ネットワークに一段の進化をもたらすと期待されている。

(映像報道部 松永高幸)


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