先日、「エキレビ!」に投稿した、声優あるある4コマ同人誌『それが声優!』レビュー記事。その記事を見つけた原作者のあさのますみさんが、Twitterで「な、なんだかエキサイトレビューっていうところで、わたくし原作の同人誌『それが声優!』がとりあげられている・・・・! こんなことってあるのね。
ありがたびっくり!!!」とコメントしてくれたのです。以前からあさのさんのフォロワーだった僕。大喜びでお礼のリプライを送ったところ、とんとん拍子に話が進み、気がつけば、あさのさんにインタビューできることに! その間、わずか1時間半。光の速さで企画が決まった、“声優・浅野真澄”ではなく、“作家・あさのますみ”のロングインタビュー。全3回でお届けします!

●「元々、本を読むのが好きだった」

――『それが声優!』のレビュー、Twitterで紹介していただいて、ありがとうございました。ファンの人には、ニヤリとしてもらえるかなと思いながら書いたのですが。
ご本人が見たら、怒られるかもと思ってました……。
あさの そんなこと無いです、無いです(笑)。すごく愛のあるレビューで。素敵に書いて下さっていて、嬉しかったです。
――安心しました(笑)。『それが声優!』は、あさのさんが初めて手がけた同人誌ですよね。
今回は、同人誌より前に執筆されたエッセイ、絵本、児童小説から順番に、お話を伺いたいと思っています。最初に書かれたのは、2005年に“浅野真澄”の名義で出された、エッセイ集『ひだまりゼリー』ですよね。この本は、どういった経緯で出す事になったのですか?
あさの 声優としてデビューをしたばかりの頃に、ブログを……当時はブログって言わなかったのかな? ネットで日記を書いてたんですね。それを見た脚本家の伊藤和典さんが、「ますみんは、話し言葉じゃない文章で、自分が考えていることとかを書いてみたら、案外面白い文章が書けるかもしれないよ」と言って下さって。それまでは、「やっほー! みんな元気?」みたいな日記だったんですけど(笑)。もうちょっとちゃんとした日本語で、自分の子供の頃の思い出話とかを書いたりするようになったんですね。

――僕が、あさのさんの文章を初めて読んだのも、きっとその頃です。本当にエッセイのような、優しくて素敵な文章を書く方だな、と思って読んでいました。
あさの ありがとうございます。その日記を読んで下さった方から、その文章をまとめてエッセイにしませんかというお話を頂いたんです。でも、無料で公開していた文章だから、それを本にした途端、お金を取るってことにちょっと抵抗があって。「本にしてもらえるのなら、書き直したいです」と言って書いたのが『ひだまりゼリー』なんです。
ただ、原稿を書いた後に色々とあって。1回、お蔵入りになっちゃったんですよ。
――え、そうなんですか!
あさの その時、声優の仕事を通して知り合いだった角川書店の(現社長の)井上伸一郎さんから、JIVEという出版社さんを紹介してもらって。JIVEの編集者さんに原稿を読んでもらったら、本にしましょうと言ってくれたんです。実は、JIVE以外にも、いくつか本にしても良いと言ってくれた出版社はあったんですね。でも、そういう所はどこも、「ラジオパーソナリティの時のキャラクターっぽく、毒舌な感じで書きましょう」とか、「声優ぶっちゃけ話にしましょう」って話で(笑)。

――ありそうな話ですね。
あさの でも、元々、本を読むのが好きだったし、せっかく自分の子供の頃の大事な思い出を書いたのだから、そういう本にするのは嫌だなと思って。JIVEの編集者さんだけが、「今ある形を大事にして、そのまま本にしましょう」と言って下さって。じゃあ、お願いします、と。

●「共感をもってもらえるのは、子供の頃の思い出かな」

――『ひだまりゼリー』、非常に暖かみのある文章で書かれていて、大好きなエッセイなのですが。日記に「やっほー!」と書いてた状況から、意識を変えただけで、このような文章を書けるようになったのですか?
あさの 徐々にという感じです。
それまでは、大学の卒論くらいしか、まとまった文章を書いたことがなくて。ただ、子供の頃に作文が好きだったので、そういうことを思い出したりしながら書いていました。そうやって、丁寧に文章を書いていくと、自分のなかでもやもやしていたことが、くっきり形になっていくというか……。自分の中身が整頓される感覚もあったんです。文章を書くって、こういう効果もあるんだな、と。そんな発見もありました。
――収録されているエッセイの多くは、子供の頃の家族との思い出について書かれた作品ですね。そこにはどんな狙いが?
あさの 私、向田邦子さんの『父の詫び状』というエッセイがすごく好きで、そういう本を書きたいというのがあって。それと、小学生くらいまでの思い出って、自分とは違う年代の人と話していても、わりと似ていることが多いんですよ。例えば、中学生や高校生になると、生まれた時からパソコンがあるか、携帯があるかとかで、かなり違いがありますけど。幼稚園や小学生くらいまでだと、どの年代の人とも、ぶつかる壁や思い出が似ているんです。だから、私がエッセイを書く……。しかも、声優の仕事について以外のものを書くとなった時、みんなに共感をもってもらえるのは、子供の頃の思い出かなと。
――本が好きな上に、ご自身の子供の頃の思い出も詰まった初めて本。出版された時は、かなり嬉しかったのでは?
あさの はい。すごく嬉しかったです。でも同時に、自分の書いたものに関してナイーブになる感覚を初めて味わいました。それまでは、例えば、「ますみんが主役をしてたあのアニメ、あんまり面白くなかったね」とか言われても、自分だけで作ったものではないので、そこまでショックを受けることはなかったんですね。
――声優の立場では、作品に携われる範囲も限られてきますしね。
あさの はい。でも、自分が一から作ったものは、面白いって言われるとすごく嬉しい分、面白くないって言われるとすごく傷つくんです。自分で何かを作ると、こんなにナイーブになるんだって、すごく新鮮でした。あと、本って案外売れないんだなって(笑)。
――ああ……(笑)。
あさの 何も知らないから、本って、書いて出したら売れるものだと思ってたんですけど、そんな事もなくて。編集さんも、すごく頑張ってくれたのに、なんだか申し訳ないし。いっぱい売れたら良いのに、売れないなあって思いました(笑)。

●「私なんかにできる仕事じゃないんだな」

――僕は、当時『ひだまりゼリー』を読んで、あさのさんが声優かどうかとか無関係に、純粋に非常に素敵なエッセイ集だと感動したんですね。だから、なぜ第2弾が出ないのか不思議に思っていたのですが……。
あさの 『ひだまりゼリー』で、子供の頃の思い出は全部書いちゃったという気持ちもあったんですよね。それと、やっぱり、あまり売れないということは、こういう方向で書いてもニーズが無いのかなって……。そんな中でも、例えば、入試の問題に『ひだまりゼリー』の文章を使ってもらえて、嬉しかったりもしたんです。
――すごいですね!
あさの でも、後から、「入試の問題って、あんまり有名じゃない文章から選ばれるんだよ」と教わって。
――え? そうなんですか?
あさの 試験の前に読んだ事あるか無いかで、差ができるじゃないですか。だから、「誰も読んだことのない文章を探して、入試に使うんだよ」と言われて。ああ、なるほど、と。
――そんな情報、知りたく無かったですよね(笑)。
あさの ホント、そうですよね!(笑)。あと、入試の問題になるときは、先に連絡があるわけじゃないんです。情報漏洩の問題とかあるので。だから、その問題が過去問集に載る時に、「実はあなたの文章が何年の試験に……」って連絡が来ました。1000円と一緒に(笑)。
――掲載料1000円ですか……。それは微妙な気分になりそうですね(笑)。では、その当時は、初めてのエッセイ集を出した後、「次に何を書こうかな?」と思うような状況ではなかったのですね。
あさの はい。自分も本を出してみて、世の中の文章を書く仕事をしている人たちは、本当にすごいなと思って。声優って、誰かが描いた物に色を塗っていくような、例えるなら1を2にするような仕事なんですね。でも、作家さんのように完全にゼロの状態からものを作るのは、想像以上に難しくて。私なんかにできる仕事じゃないんだな、と。逆に書くことから遠ざかっていく感じでした(笑)。

●「1日か2日くらいですぐに書けた」

――ところが、2007年に、「第13回おひさま絵本童話大賞」の「童話部門最優秀賞」を受賞することになります。応募までの経緯は、文庫版『ひだまりゼリー』のあとがきに、かなり詳しく書かれていますが。絵本作家を目指して、勉強や研究をしてから応募をしたわけでは無いんですよね?
あさの 全然、勉強をしたこともなかったので、その後が大変というか。今も身についてないものがいっぱいあります。
――応募作の『ちいさなボタン、プッチ』は、どのくらいかけて書いた作品だったのですか?
あさの たぶん、1日か2日くらいですぐに書けたと思います。原稿用紙5枚くらいのお話なので。頭に浮かんだ時、結末まで浮かんでた感じで。それで書いたのは良いけど、このお話をどうしようかな……て。
――元々、誰かに読ませたりするつもりで書いたわけではないんですよね。
あさの はい。声優の仕事をしていただけに、逆に色々とハードルが高くて。例えば、出版社の編集者さんが知り合いだったりするんですけど。そういう人に見せて、「あ〜、面白くないわ……。でも、浅野さんとは仕事してるし。つまらないとも言えないよ。困ったな……」ってなるかも、と思ったら誰にも見せられなくて(笑)。見せないまま、もう勘違いするのは止めよう。お話を書くということは、選ばれた人だけができることであって、私なんかがこういうことをするのは失礼だ、って気持ちになって。しばらく、置いておいたんです。
(丸本大輔)

part2へ続く