吉田たかよし『元素周期表で世界はすべて読み解ける』

吉田たかよし『元素周期表で世界はすべて読み解ける』


 福島原発事故以後、放射線障害の元素としてセシウムストロンチウムヨウ素などが問題になった。『元素図鑑』(PHP研究所や講談社刊)などを読んで見た。元素に興味が出て、アイザック・アシモフ『化学の歴史』や高木仁三郎『元素の小事典』なども読んだ。この吉田氏の本は、元素周期表で、宇宙・地球・人体まで量子化学の成果を数式に頼らず現したものとして、読み解こうとしていて面白い。吉田氏は、周期表は化学が到達した曼荼羅だという。曼荼羅では仏の位置が横方向と縦方向の両面で均整がとれ、宇宙の調和が描かれている。吉田氏の本でも横方向(典型元素と遷移元素)と縦方向(アルカリ金属元素やアルカリ土類金属、ハロゲン元素、希ガスなど)から世界を読み解こうとしている。とくにこの本は人体を元素から考えていることに特色がある。
元素の性質は「残り物の電子」とし、周期表の縦一列は、原子核の外側の電子が似た状態にあり、その電子数で性格が決まるという。例えばセシウム原子番号は55で、原子核の中に55個の陽子があり、55個の電子が決まった軌道を廻る。そのうち1個の電子があふれ、それが他の元素と化学反応を起す。セシウムは同じ列の二つ下のカリウムと同じアルカリ金属であり、カリウムは人体に不可欠元素で、神経や筋肉の細胞の機能に必要だが、構造が近いため放射性セシウムカリウムと間違えられ人体に吸収され、内部被爆をおこし、ガンを作り出す。ストロンチウムの場合ももっとも外側の電子の状態が上段にあるカルシウムに似ているため勘違いされ体内に入り込み、白血病や骨肉種を起す。
レアアースもいま「希土類磁石」としてハイテク産業に欠かせず、輸入元の中国との貿易摩擦になっているが、レアアース17元素も周期表の横方向(57番号ランタンから71番ルテチウムまで)の説明も、同じような性格構造から何故中国が主生産地なのかの説明までわかりやすい。吉田氏は地球では元素は生まれないとし、1000万度の趙高温でうまれるとし、宇宙生誕ビックバンと太陽のような恒星の核融合、寿命が尽きた恒星の趙新星爆発の3つしか生まれないとしている。日本の理化学研究所で2012年9月に113番目の元素が30番亜鉛と83番ビスマス原子核を高速で衝突させ発見し、認定されそうだと報道された。高木氏の本では、自然にないスーパーヘビ級元素は、短寿命で合成するだけのために、国の威信で巨額資金をかける発見先陣争いに疑問を呈している。(光文社新書