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12月の猫ニュース

 2015年12月の猫に関するニュースをまとめました。一番上が最新で、下にスクロールするほど記事が古くなります。記事内にリンクが貼られていることもありますが、古い記事の場合はリンク切れの時がありますのでご了承下さい。

12月25日

 悪性黒色腫(メラノーマ)を発症した猫を対象とし、犬用に開発されたメラノーマワクチンを投与したときの副作用が検証されました。
 悪性黒色腫(メラノーマ)は、皮膚の中に含まれる色素細胞(メラノサイト)が腫瘍化してしまった病態。高頻度で近くのリンパ節、肝臓、肺、腎臓などに転移することが知られており、化学療法が効きにくいという難点を持っています。従来は外科的な切除か放射線療法が主たる治療法でしたが、2009年に登場したメリアル社のワクチン「Oncept」により、当症に対する治療法に新たな選択肢が加わりました。
 今回の調査を行ったのは、アメリカ・獣医腫瘍学センターを中心としたチーム。目的は、これまで犬でしか行われていなかった「Oncept」の副作用調査を、猫を対象として行うというものです。チームは医療データを参照し、悪性黒色種と診断され、なおかつワクチンを投与された猫24頭に関する副作用の統計調査を行いました。その結果、ワクチントータル114回中7回(11.4%)において「グレード1」(※VCOG基準)の副作用が現れたといいます。具体的な症状は痛み、筋肉の短い線維束性収縮、一過性の食欲不振、抑うつ状態、吐き気、注射した場所の色素沈着などです。また死亡した19頭を追跡調査したところ、その内14頭の死因が悪性黒色腫と推定されたとのこと。さらに死亡例の内6頭では血液生化学的な変化が観察され、うち5頭に関しては併存症や並行治療の影響、そして残りの1頭に関しては一時的な低アルブミン血症が認められたものの、原因は不明だったそうです。
 こうした結果から研究チームは、犬用メラノーマワクチンが猫に及ぼす副作用は最小限であるとの結論に至りました。なおこのワクチンが生存日数の延長に寄与したかどうかの検証は行われていません。 Safety of administering the canine melanoma DNA vaccine (Oncept) to cats with malignant melanoma - a retrospective study
 犬用メラノーマワクチン「Oncept」は、メラニンの合成に関与しているチロシナーゼと呼ばれる酵素の一種を外敵として攻撃するよう免疫系を調整するワクチンです。結果として、チロシナーゼを多く含むメラノーマ細胞を標的として攻撃するようになり、腫瘍の拡大が抑えられます。開発元であるメリアル社の効能書きは、以下に示すように自信満々です。
 WHO基準でステージ2~3とされるメラノーマに対し、外科手術だけを施した場合の生存期間は5~6ヶ月。一方、58頭の犬にワクチンを投与したところ、6ヶ月後の生存率が50%を超え、25%生存率は464日だった(→ONCEPT™)
 一見すると夢のようなワクチンですが、第三者の意見(PDF)は必ずしも開発元のそれとは一致しないようです。
オンセプトに関する調査報告
  • 2013年の報告 ステージ1と2の犬30例を含む45例のカルテの調査を行ったところ、ワクチンを投与された犬とされなかった犬との間の無増悪生存期間や無病期間、平均生存期間に差は認められなかった。
  • 2014年の報告 98例が外科手術後、なんの補助療法も受けなかったが、ワクチンや化学療法といった補助療法を受けた犬(335 日)と受けなかった犬(352日)との間に生存期間の差は認められなかった。
 このように、犬におけるワクチンの効果に関しては、いまだ相反するデータがあるのが現状です。当ワクチンが猫に対して及ぼす副作用は最小限であることが示されましたが、実際に効果を発揮するかどうかの検証は、まだまだ先の話になるでしょう。 猫の口腔ガン
犬の口腔メラノーマとONCEPTのツールキット

12月23日

 猫におけるてんかんの一種で、体の一部分が意思とは関係なく収縮してしまう「ミオクロニー発作」に対する、2種類の投薬治療の効果が検証されました。
 調査を行ったのは、イギリスの「Davies Veterinary Specialists」を中心とするチーム。体の一部分に起こる焦点性発作の一種「ミオクロニー発作」に対し、「レベチラセタム」と「フェノバルビタール」という2種類の抗てんかん薬を投与したとき、一体どちらの薬が高い効果を示すかを検証するため、 57頭の猫を対象とした比較調査を行いました。具体的な投与計画は以下です。
ミオクロニー発作の投薬計画
  • L群 28頭に対し、「レベチラセタム」を8時間ごとに1日3回、20~25mg/kg投与。
  • P群 29頭に対し、「フェノバルビタール」を12時間ごとに1日2回、3~5mg/kg投与。
 12週間の投薬治療を行った結果、発作の発現日数が50%以上減少した割合が、L群では100%だったのに対し、P群ではわずか3%にとどまったといいます。また主な副作用は2つの薬に共通で、無気力、食欲不振、運動失調など。ただしL群の方が軽度で持続時間も短かったとのこと。
 こうした事実から研究チームは、猫のミオクロニー発作に対してはフェノバルビタールよりもレベチラセタムの方が効果が高く、また副作用も少ないとの結論に至りました。ミオクロニー発作は、近年報告されて話題になった高齢猫の「ネコ聴源反射性発作」(FARS)において、90%以上の割合で観察されるタイプの発作。基本的には日常生活の中から発作のきっかけになるような高い音を可能な限り排除することで対処しますが、家の外で油圧ブレーカーを用いた解体工事しているなど、音源をどうしてもコントロールできないような場合は、上記したような投薬治療が奏功してくれるかもしれません。 猫のてんかん Levetiracetam in the management of feline audiogenic reflex seizures: a randomised, controlled, open-label study

12月21日

 猫の誤飲物に関する調査を行ったところ、特に植物性の異物は気管をすり抜け、右の気管支まで落ち込みやすいという傾向が明らかになりました。
 調査を行ったのは、フランス各地にある複数の動物病院から成る共同チーム。2009年5月から2014年11月の間、2つの動物病院で収集された気管気管支異物の症例12件(オス猫6頭+メス猫6頭)を気管支鏡で調査したところ、平均年齢は3.75(±2.5)歳で、9頭(75%)では「咳き込み」が主症状だったといいます。その他のデータは以下です。
猫の気管気管支異物
  • 植物性異物が7頭(58%)
  • 鉱物性異物が6頭(25%)
  • 不明が2頭(17%)
  • 6頭(50%)の異物は気管内
  • 6頭(50%)では異物が気管支まで到達
  • 気管支異物は右側が66%
  • 10頭(83%)は非外科的に除去
  • 2頭(17%)は外科的に除去
 こうしたデータから研究チームは、気管気管支異物の大部分は気管支鏡を用いて非外科的に取り出すことができるものの、気管支の奥まで入り込んでしまった場合は手術が必要になることもあると注意を呼びかけています。 Tracheobronchial foreign bodies in cats: a retrospective study of 12 cases
 鉱物性異物は100%が気管内にとどまっており、非外科的に取り出すことができた一方、植物性異物は7頭中5頭(71%)が気管支まで到達し、うち2頭(17%)では外科的な手術が要求されたといいます。ですから特に、水分を含んでドロドロの状態になりやすい植物性の異物に関しては、誤飲に注意した方がよさそうです。飼い主としては、「猫草」以外の植物を室内に置かないとか、咬みちぎりやすい紙系のおもちゃを使って遊ばないなどの配慮が必要となるでしょう。 猫が異物を飲み込んだ

12月18日

 肝臓に脂肪が蓄積する「肝リピドーシス」は、女性ホルモンの影響で発症が抑えられると考えられていますが、この公式は猫には当てはまらないことが明らかになりました。
 肝臓における脂質代謝異常である「肝リピドーシス」(脂肪肝)は、ヒト、マウス、ラットを対象とした調査では、コリンの欠乏とホスファチジルエタノールアミン-N-メチル基転移酵素(PEMT)の低下が原因で発症するとされています。またメス(女性)の体内で豊富に放出される女性ホルモンの一種「エストロゲン」がPEMTの活性を高めることで、発症予防に寄与していることが知られています。
 今回、オランダ・ユトレヒト大学の獣医学部チームが行ったのは、肝リピドーシスを発症しやすいことで知られる猫において、性別や不妊手術の有無が発症率に影響を及ぼすかどうかという検証調査です。チームは、同じ食事を摂取するメス猫6頭とオス猫6頭を対象とし、不妊手術を受ける前後で肝リピドーシスを示唆する様々な指標がどのように変化するかをモニタリングしました。その結果、オス猫とメス猫の間、及び手術の前後で、「肝細胞のPEMTレベル」、「血漿中のコリンレベル」、「ホスファチジルコリン」、「多価不飽和ホスファチジルコリン」の全てにおいて違いが見られなかったといいます。
 こうした知見から研究チームは、猫においては肝臓におけるコリンの調整がPEMTの影響を受けにくく、ヒトなどで言われている「エストロゲンの減少に伴って肝リピドーシスを発症しやすくなる」といったアドバイスは当てはまらないとの結論に至りました。要するに、メス猫に不妊手術を施しても脂肪肝を発症しやすくなるということはないということです。 No up-regulation of the phosphatidylethanolamine N-methyltransferase pathway and choline production by sex hormones in cats
 不妊手術の有無が肝リピドーシスの発症に影響を及ぼすことはなさそうですが、コリン不足が発症を招く危険性は相変わらず否定できません。AAFCO(米国飼料検査官協会)が2014年に公表したデータによると、猫のフード100kcal中に含まれるべきコリンの最低量は「60mg」とされています。「AAFCOの基準を満たしています」とか「ペットフード公正取引協議会の定める給与試験の結果、総合栄養食であることが証明されています」といった表記のあるペットフードを用いている場合、基本的に不足することはありません。猫が食欲不振に陥って、なかなかフードを食べてくれないときは、以下のページもご参照ください。 猫の食欲不振と増進 猫に必要なビタミン一覧

12月16日

 ペルシアに多いとされる遺伝病の一種「多発性嚢胞腎」(PKD)に関し、通常の遺伝子変異とは違う発症パターンが報告されました。
 ブラジルサンパウロ大学が中心となったチームがこのたび報告したのは、ペルシア(1歳/オス)の症例。この猫は慢性的な体重減少、食欲不振、嘔吐、倦怠感、流涎、腹水といった様々な症状を示し、著しく生活の質が落ちていたため、最終的には安楽死させられました。その後、チームが死後解剖を行ったところ、遺伝性とみられる肝線維症のほか、ペルシアでよく見られる多発性嚢胞腎(PKD)が観察されたといいます。しかしこの猫の場合、通常なら見られるはずの「PKD1」と呼ばれる遺伝子中の「エクソン29」区画において、「C >A」(アデニンとシトシンが置き換わっている状態)という変異が見られなかったとのこと。 Congenital hepatic fibrosis and polycystic kidney disease not linked to C >A mutation in exon 29 of PKD1 in a Persian cat
 ペルシアのPKDは常染色体優性遺伝することが判明しており、関連遺伝子を両親のどちらか一方から受け継いだだけで発症してしまうため、近年では繁殖ラインから除外するための事前検査が行われるようになってきました。しかし今回の報告によると、まれではあるものの、遺伝子検査で「陰性」と出たにもかかわらず当症を発症してしまう可能性は否定できないようです。以下では念のため、日本国内で検査を実施している機関をご紹介します。商売だろうが趣味だろうが、猫の繁殖に関わる人は遺伝病を撲滅するために可能な限りの努力をする必要があります。
PKD検査機関
  • Orivet Genetic Pet Care→公式
  • 岩手大学動物病院→公式
多発性嚢胞腎(PKD)
 腎実質の大部分が、複数の嚢胞によって置き換わり、正常な腎機能が徐々に失われていく疾患。発症要因については遺伝のほか、環境要因、副甲状腺ホルモン、バソプレシン、cAMP、腸内細菌の内毒素などが想定されています。嚢胞が自然消滅することはなく、大部分は時間とともに大きさと数を増し、腎臓の実質を圧迫することで機能不全を引き起こします。 正常な腎臓と多発性嚢胞腎(PKD)を発症した腎臓の比較模式図

12月14日

 様々な可能性が想定されている猫の甲状腺機能亢進症の発症要因に、新たな知見が加わりました。
 甲状腺機能亢進症は、10歳を超える高齢猫に多発する内分泌疾患の一種。1970年代後半から突如として報告例が増え始め、現在では極めて一般的な疾病になっていますが、その発症要因に関してはまだよくわかっていません。第一容疑者として疑われていのは、1970年代後半に家庭内に持ち込まれ始めた「ポリ塩化ビフェニール」(PCB)や「ポリ臭化ジフェニルエーテル」(PBDE)といった化学物質です。これらの化学物質は、主に以下の2つのルートを通じて猫の体内に取り込まれると想定されています。
有害化学物質の摂取ルート
  • キャットフード イギリス・ロンドンにある5ヶ所の動物病院で、109頭の甲状腺機能亢進症を患う猫と196頭の健康な猫を対象として比較調査が行われた。その結果、「純血種でない事」、「猫トイレを使うこと」、「食事の50%以上がウェットフードであること」、「魚を原料とした餌を食べていること」がリスクファクターとして浮かび上がった。明確な理由は不明ながらも、缶入りのウェットフードを食べることが発症要因として考えられる(→出典)。
  • ハウスダスト アメリカ国内で、21頭の健常な猫と41頭の甲状腺機能亢進症を患った猫を対象とした比較調査が行われた。その結果、健常猫の家庭におけるハウスダスト中のPBDEレベルが「510~4900ng/g」だったのに対し、罹患猫の家庭におけるそれは「1100~95,000ng/g」という高値を示した。ハウスダストに含まれるPBDE と血清中の甲状腺ホルモン(T4)との間に相関関係が見られたことから、猫の甲状腺バランスを崩す最大の要因はハウスダストであると考えられる(→出典)。
 今回、化学物質の摂取ルートに関して新たな知見を加えたのは、日本の複数の大学と動物病院などから成る共同チーム。猫の血液中に検出される「PCB」や「PBDE」が、一体何に由来しているのかを明らかにするため、市販のペットフード用いた化学検査を行いました。その結果、以下のような事実が明らかになったといいます。
PCBとPBDEの出どころ
  • PCB PCBsとその代謝産物であるOH-PCBsに関しては、フード中の含有量が血中濃度よりやや少ないという結果になった。このことから、血液中の「OH-PCBs」はフード由来であると推察される。
  • PBDE PBDEの代謝産物である「MeO-PBDEs」は海産物由来、そして「OH-PBDEs」は「MeO-PBDE」を肝臓の代謝酵素(CYP)が脱メチルした産物であると推察される。
 こうした結果から研究チームは、猫は魚を原料としたキャットフードを通じて「PCB」や「PBDE」に日常的にさらされているという構図を明らかにしました。しかし残念ながら、これらの化学物質と甲状腺機能亢進症の因果関係を証明するまでには至りませんでした。 Organohalogen compounds in pet dog and cat
 今年の4月、スペインの研究チームが報告したところによると、市販のペットフードに含まれている残留性有機汚染物質(POPs)に関し、犬の方が汚染度の高いフードを食べているにもかかわらず、OCPsとPCBsに関しては、なぜか猫よりも低い値が出たといいます。この事実は、猫の代謝能力が犬よりも弱く、PCBsを含んだPOPsが体内に蓄積しやすいということでもあります。家具やカーテンの難燃剤などに含まれる「PBDE」、魚を原料としたキャットフードに含まれる「PCB」、そして猫の代謝能力の弱さなどが複雑に絡み合い、甲状腺機能亢進症が発症してしまうのかもしれません。 猫の甲状腺機能亢進症

12月11日

 猫による咬傷事故は犬に比べるとはるかに少ないものの、一度起こってしまうと、重症化する傾向がある危険性が示されました。
 福岡東医療センター整形外科が専門誌「整形外科と災害外科」(Vol.64)に発表したデータによると、2013年1月から2014年8月の間に、犬や猫による咬み傷が原因で受診した人の数は合計46例(男性20+女性26/平均45歳)で、そのうち犬によるものが35例(76%, 飼い犬32+野良犬3)、猫によるものだ11例(24%, 飼い猫10+野良猫1)と、圧倒的に犬の方が多かったといいます。しかし追跡調査を行ったところ、予後に関してはなぜか猫の方が圧倒的に悪いという結果になりました。具体的には以下です。
犬と猫の咬傷比較
  • 受診までのタイムラグ平均日数は0.74日/犬が0.46日(0~7)/猫が1.64日(0~3)
  • 感染徴候犬2例(5.7%)/猫9例(81.8%)
  • 治療期間平均は10.3日/犬4.6日(1~90)/猫28.5日(1~90)
  • 要手術犬5例(14%)/猫7例(64%)
 こうしたデータからセンターは、咬傷事故の頻度は犬の方が多いものの、重症化傾向があるのは猫の方であるとの結論に至りました。また重症化の原因としては以下のような項目を想定しています。
猫の咬傷・重症化の要因
  • 猫による咬み傷は傷口は小さいものの、深くまで貫通する
  • すぐに治るだろうとタカをくくり、なかなか病院を受診しようとしない
  • 傷口が小さいので医師も油断する
  • 受診しようと思い立ったときには傷口がふさがっており、中に膿が溜まってしまう
  • 感染症を起こしやすいパスツレラ菌を口内に高率で保有している
整形外科と災害外科(Vol.64)
 センターが噛まれた部位に関する統計を行ったところ、手19例、指13例、前腕3例と、上肢だけで全体の76%を占めたそうです。噛まれる状況は様々でしょうが、一つ注意を要するのは犬と猫における姿勢の意味の違いです。犬がお腹を見せて仰向けになっている時はおおむね機嫌が良く、「撫でて! 」と催促していることすらあります。一方、猫が同じ姿勢をしていても犬と同じことを考えているわけではありません。猫にとっての仰向け姿勢は、必殺猫キックを繰り出す前の準備体制である可能性があるのです。例えば 2015年5月、アメリカのコロラド州デンバーにある猫カフェで、猫による咬傷事故裁判がありました。この裁判の発端となったのは、客の1人が「仰向けになっている猫のお腹を撫でようとして手首を7~8ヶ所噛まれた」というものです。この事例からもうかがえるように、猫が仰向けになっているのは、必ずしもお腹を撫でて欲しいという意味では無いことは覚えておいたほうがよいでしょう。万が一噛まれてしまった場合は、早急に形成外科や整形外科を受診し、抗生物質によって化膿を防ぐ必要があります。 仰向けになって手招きする 犬にとっての仰向け姿勢と猫にとっての仰向け姿勢は、時として全く逆の意味を持つ

12月9日

 アリゾナ州にあるメイヨークリニックは、ペットと一緒に眠ることが飼い主の睡眠にもたらす影響についての調査を行いました。
 ペットと人間の睡眠に関する研究報告が驚くほど少ないことに気付いたメイヨークリニックは、2014年8月から2015年1月の間に睡眠外来センターを訪れた患者150名(男性82名+女性68名)を対象とし、アンケート調査を行いました。その結果、ペットを飼っている人は74人(49%)で、1人で寝ている人は28名(18%) だったといいます。「ペットを飼っている」と回答した74人に関する調査の概要は以下です。
ペット飼育者と睡眠
  • 複数のペットを飼っている=31人(41%)
  • ペットと一緒に寝ている=41人(56%)
  • ペットに睡眠を邪魔されている=15人(20%)
  • 邪魔にならないor良い睡眠を得られる=31人(41%)
 「ペットに睡眠を邪魔されている」と回答した人の具体的内容としては、「うろつき・いびき・用を足す・クンクン鳴き・発作」などが報告されました。一方、「邪魔にならない」と回答した人の具体的内容は、「リラックスできる・安心感を得られる・一緒にいるという感覚」などです。
 クリニックは、睡眠外来で患者から聞き取り調査をする際は、ペットを飼っているかという点、および一緒に寝ているかどうかという点を確認した方がよいだろうとしています。そして以下に述べるような条件を吟味した上で、場合によってはペットと一緒に寝ることを推奨したり、逆にやめさせたりすることもありうるとしています。ただし鳥に関しては、独特の日内リズムを有しているため、寝室からは遠ざけた方がよいとのこと。
ペットと一緒に寝る前に
  • 本人はぐっすりと眠れているか?
  • 一緒に寝ているパートナーはぐっすりと眠れているか?
  • ペットにノミや汚れが付いていないか?
  • ペットアレルギーはないか?
  • ベッドルームは十分に広いか?
  • ペットはぐっすり眠れているか?
  • ペットは静かか?
  • ペットは何匹いるか?
  • ペットは寝床のどこで眠っているか?
  • ペットを寝室から遠ざけることは可能か?
  • ペットは投薬や排泄など特別な世話が必要か?
  • ペットと一緒に寝て安心感が得られるか?
  • ペットと一緒に寝てリラックスできるか?
Are Pets in the Bedroom a Problem?

12月7日

 ジャパニーズボブテールや長崎猫のみならず、日本では短い尻尾を持った野良猫を頻繁に見かけることができます。しかし一体いつごろからこうした短尾猫が増え始めたのかに関してはよくわかっていません。以下は、この疑問に対して考察を加えた平岩米吉氏の論文をまとめたものです。昭和の猫博士として名高い同氏の推測は、その後多くの猫関連書籍の中でも散見されるようになりました。
 「鳥獣戯画」(12~13世紀)や釈迦の涅槃図で見られる猫のしっぽが全て長いことから、資料は少ないものの鎌倉時代(1185~1333年)における猫は「長尾」が主流だったと考えられます。その後室町時代に入ると、猫を主題とした絵画がたくさん描かれるようになり、当時の猫がどのような姿をしていたのかを推測しやすくなりました。以下は室町時代から明治初期にかけて活躍した代表的な画家のリストで、描かれているのはすべて「長尾」です。
猫絵師(室町~明治)
  • 小栗宗丹(1397~1464)
  • 狩野山雪(1589~1651)
  • 円山応挙(1733~1795)
  • 田能村竹田(1777~1835)
  • 渡辺崋山(1793~1841)
  • 椿椿山(1801~54)
  • 岸竹堂(1826~97)
  • 橋本雅邦(1835~1908)
  • 菱田春草(1874~1911)
 江戸時代初期の日本においては、長尾の猫が主流だったことは確かなようです。例えば、中国の「本草綱目」(1590年)では「しっぽの長い猫を理想とする」といった旨の記述が見られますし、この本にならった日本の「本朝食鑑」(1695年)でも、「長尾短腰を以て良しとす」と明言されています。また鳥居清信(1664~1729)や磯田湖竜斎(1700年代中ごろ)など、初期の浮世絵師が描いたのも全て長尾の猫です。
 ところが1700年代後半になると、どこからともなく短尾の猫が登場し始めます。具体的には以下です。
浮世絵の中の短尾猫
  • 喜多川歌麿(1753~1806) 「針仕事」(1794?)と呼ばれる作品の右下に、短尾猫が描かれている。
  • 歌川国芳(1797~1861) 「猫飼好五十三匹」(1850?)に描かれた合計73匹の猫の内、71%にあたる52匹が短尾。
  • 安藤広重(1842~1894) 「百猫画譜」(1878)に描かれた100匹(成猫91匹+子猫9匹)のうち、短尾が97匹と圧倒的多数を占める。
浮世絵の中に描かれた短尾の猫たち  こうした事実から平岩氏は、1700年代後半ごろから頻繁に見かけるようになった短尾猫の絵は、庶民の短尾への好みが反映された結果ではないかと推測しています。またこうした好みが生まれた背景としては、「しっぽをくねらせるとヘビのようで気味が悪い」ということや、「猫は歳をとるとしっぽが二股に裂けて猫又になると考えられていた」ことなどがあるのではないかとも。さらに昭和の初期まで残っていた、トラ猫や黒猫のしっぽを切るという風習は、その証拠だとしています。
 「短尾が増えた背景には猫股の存在がある」という説をネットや書籍でよく見かけますが、元ネタは1969年に平岩氏が「哺乳動物学雑誌」に投稿した上記論文だったようです。なお短尾猫に関する考察は、同氏の著書「猫の歴史と奇話」(築地書館)のP13~、P185~、P235~などでも触れることができます。 猫が年を取ると猫股になる 哺乳動物学雑誌

12月4日

 歯肉炎や軽い歯周病を患った猫の口内に生息している細菌を調査したところ、人間や健康な猫との間で大きな差があることが明らかになりました。
 当調査を行ったのは、イギリスに本拠地を置くマーズペットケアの研究チーム。健康な歯茎を持った猫、歯肉炎にかかった猫、そして軽い歯周病を抱えた猫、合計92頭の歯周ポケットから歯垢を採取し、中に生息している細菌叢のDNA解析を行いました。その結果、健康な猫では好気性菌が多く、「Porphyromonas 」、「Moraxella」、「Fusobacteria」などが目立っていたのに対し、不健康組の猫では嫌気性菌が多く、「Peptostreptococcaceae」が目立っていたとのこと。さらに細菌叢全体で見ると、人間のものとは構成が大きく異なり、どちらかといえば犬のものに近いことが明らかになったといいます。
 こうした結果から研究チームは、猫の口内細菌叢を改善する目的で、人間に対するのと同じデンタル用品を与えても、同じ効果が得られるとは限らないと注意を促しています。
 犬や猫用のデンタルケア用品では「口内環境を整える」、「ペットの口腔内を安全に清浄・除菌する」、「歯周病の原因菌の繁殖を抑える」、「善玉菌を育んで口臭や歯周病の原因となる悪玉菌を抑える」といった宣伝文句をよく目にします。しかしデンタルケア用品は医薬品ではないため、臨床データを提出する必要がありません。つまり上記したような宣伝文句は「言ったもの勝ち」という側面があるのです。ペット用のデンタル製品が、一体何を根拠に「口内衛生を保つ」と謳(うた)っているのかは、一度よく調べた方がよいでしょう。例えば今回の調査結果を信じると「人間で効果が見られたのと同じ成分を用いていますから大丈夫です!」といった回答しかないようなら、ちょっと説得力に欠ける印象を受けてしまいますね。 猫の歯周病 歯に良いフードとは? A Pyrosequencing Investigation of Differences in the Feline Subgingival Microbiota in Health, Gingivitis and Mild Periodontitis

12月2日

 臨床徴候から猫カリシウイルス感染症(FCV)の疑いがあるとされた猫200頭を調査したところ、実際の感染率は50%にも満たないことが明らかになりました。
 当調査を行ったのは、スイス・チューリヒ大学の獣医学部。スイス国内19の州にある24の動物病院において、猫カリシウイルスの臨床徴候を示した200頭と、臨床上健康な100頭をサンプリングし、さまざまな感染症に対する実際の感染率を調査しました。結果は以下です。
疑わしい猫の感染率
  • 猫カリシウイルス→45%
  • 猫ヘルペス→20%
  • 猫クラミジア→8%
  • ボルデテラ→4%
  • マイコプラズマ→47%
  • 複合感染なし→40%
臨床上健康な猫の感染率
  • 猫カリシウイルス→8%
  • 猫ヘルペス→9%
  • 猫クラミジア→1%
  • ボルデテラ→2%
  • マイコプラズマ→31%
  • 複合感染なし→14%
 さまざまな調査の結果、FCVの感染を示す臨床徴候として真に重要なのは歯肉炎、口内炎、流涎(よだれ)、口内潰瘍、舌潰瘍だけであり、その他の症状(くしゃみ・鼻や目からの分泌物・結膜炎・肺炎・一時的な跛行・顔や四肢にできる皮膚の浮腫や潰瘍)は、どちらかと言えばヘルペス、マイコプラズマ、クラミジアとの関連が強いことが明らかになったといいます。
 こうしたデータから調査チームは、「ABCD」(猫の疾病諮問会議)などによってカリシウイルスの臨床徴候とされている項目に頼っていると、非感染猫を陽性と誤認したり、逆に感染猫を陰性と誤認するケースが多くなるのではないかとの懸念を示しています。また臨床上健康であるにもかかわらず、8%の猫がウイルスにかかっていたことから、不顕性感染した猫によるウイルスのばらまきがあるかぎり、FCVの感染率はなかなか減らないだろうとも。 FCVの臨床徴候として有名な鼻水と眼炎  当調査では、FCVのかかりやすさには、以下のような要素が影響を及ぼしていると報告されています。数値は、標準を「1」としたときのかかりやすさ(オッズ比)で、値が大きいほど「ウイルスに感染しやすい」ことを意味しています。
疑わしい猫
  • マイコプラズマとの複合感染→1.75
  • 多頭飼い→2.11
  • 不妊手術をしていない→1.80
  • ワクチン接種→0.48
臨床上健康な猫
  • 不妊手術をしていない→22.2
  • 多頭飼い→46.4
 多頭飼いによってかかりやすさが「2~46倍」に跳ね上がることと、ワクチン接種によってかかりやすさが半減することから考えると、特に多頭飼いしている家庭においては、しっかりとワクチン接種をすることが感染予防につながってくれそうです。スイスのデータを日本に直輸入することはできませんが、たとえ臨床徴候を示していなくても8%の猫ではFCVを保有していたという事実は覚えておいた方がよいでしょう。あとは、北米やヨーロッパの一部で確認されている致死性のカリシウイルスが日本に入ってこないことを祈るだけです。 猫カリシウイルス感染症 Feline calicivirus and other respiratory pathogens in cats with Feline calicivirus-related symptoms and in clinically healthy cats in Switzerland