変化するカナダ、先住民族迫害を正式に認め調査開始へ

世界中で右傾化が進む中、10年ぶりに保守党から政権交代したカナダでは、中道左派政党である自由党党首ジャスティン・トルドー首相(43)が変革が進めている。

世界中で右傾化が進む中、10年ぶりに保守党からの政権交代となったカナダでは、中道左派政党である若き自由党党首ジャスティン・トルドー首相(43)によって変革が進められている。

多様性を重視する新閣僚

総選挙後の勝利宣言演説のなかで「真の変化をもたらす」と約束した通り、11月4日に発表された新閣僚は、首相を除く30人が男女半数ずつ、年齢もバランス良く入閣。さらに、障害を持つケント・ヘ氏、先住民の血を引くジョディ・ウィルソン・レイブルド氏、アフガニスタンから難民としてカナダに移住したマリアム・モンセフ氏(30)など様々なバックグラウンドを持つ議員が入閣した。

先住民族迫害を正式に認める

そして、ついに長年の問題となっていた先住民族の迫害をトルドー首相が認め、先住民族の女性約1200人が殺害・誘拐等で行方不明になっている事件の調査を開始すると発表した。調査は来年春に始まる予定で、2年間で4000万ドル拠出するとしている。

連邦警察によると、1980年から2012年までの間に殺人事件の被害者となった先住民女性は1017人で、先住民女性がカナダの女性全体に占める割合は約4%だが、カナダで殺害された女性の約16%を占める。男性に関しても、先住民の男性が殺害事件の被害者となる確率はそれ以外の男性の7倍にもなる。こうした現状に対し、先住民族や活動家が調査を開始するよう何度も政府に求めてきたが、ハーパー前首相は調査を拒否してきた。

さらに、6月に発表された「真実と和解の委員会」の報告書では、1874年に始まったカナダ政府の同化政策によって先住民の子供が差別や虐待をされた事実が明らかになっている。

それによると、120年以上にわたって先住民の子供 約15万人が同化政策によって、「インディアン寄宿学校」に親元から引き離されて強制的に入れられ、差別や虐待を受けてきた。この寄宿学校は1883年から1998年までの間に、カナダ各地に約130校存在し、政府の補助金を受けキリスト教教会が運営してきた。1940年代には先住民の学齢期の子供約3分の1がこれらの施設に入れられ、6000人が虐待によって死亡したとされている。この報告書ではこれらの実態を「文化的ジェノサイド」と激しく非難している。

この政府の同化政策に対しては、ハーパー前首相が2008年に公式に謝罪し、政府の資金でインディアン寄宿学校で起こったことを調査し記録するために「真実と和解の委員会」を設立。さらに約4400億円を補償金として支払っている。

一方、今でも約140万人の先住民が存在しているが、一般カナダ人と比べて収入は低く、失業率も高い。新政権はまずは殺害事件の全国調査を開始することを発表したが、先住民の環境改善のためには、教育予算の大幅増額や先住民法の見直しなど課題が多く残っている。

変革するカナダ

カナダでは景気後退、格差拡大で不満が高まる中、中間層の所得税減税、富裕層の増税、インフラ整備などの経済政策への期待から政権交代が実現した。米国でも中間層が過半数を割り、世界中で格差が拡大している。

トルドー首相は多様なバックグラウンドを持つ議員を入閣させた理由を「2015年だから」としたが、他の国では右傾化が進み移民排斥など世界中でグローバル化に反する動きも出つつある。男女平等も程遠い。2015年になった今でも20世紀と変わらず戦争は起こり、テロの恐怖に怯えている。

世界各国がシリア難民受入の縮小や空爆参加を決める中、トルドー新政権は2万5000人のシリア難民受入を発表し、ISISへの空爆参加を中止するなど独自の道を進もうとしている。また、イノベーション、サイエンス、経済発展省も新たに発足、環境省を環境・気候変動省と名前を変え、先進国の中で最も対策が遅れている気候変動にも取り組む。さらには、ハーパー前政権時に定められた「着用禁止法」によって禁止されていたニカーブ(イスラム教徒の衣装)の着用も許可されることになった。

衰退する日本のリベラル勢力

一方、日本に関していえば、政党もメディアも中道左派勢力は衰退し、中道右派である自民党の対抗馬がいない状況下にある。先日、夫婦別姓を認めない規定が最高裁で合憲と判決が出たが、3人の女性裁判官は全員違憲とした。15人の裁判官のうち3人しか女性がいない、そのアンバランスさに違和感を覚える。

選挙対策のために約3600億円を使って高齢者に給付金を支給し、この人口減少社会において子育て給付金は来年から廃止する。日本の相対的貧困率(2012年の場合 所得が122万円未満の人の割合)は16.1%で、OECD加盟国34カ国の中で4番目だ。ひとり親家庭の相対的貧困率は54.6%でOECD加盟国中最も高い。本来であれば、再分配の強化、つまり富裕層に増税し、中間層は減税する、といった政策を大きく打ち出す政党が出てくるところだが日本では存在しない。

ただ正確に言うと、民主党、維新の党が軽減税率の代わりに「給付付き税額控除」を打ち出しており、軽減税率より効果が高いのは間違いないだろう。しかし、メディアも新聞への増税を避けるために軽減税率の議論を避け、民主党、維新の党は党内抗争により、政策に対して話題を集めることはできていない。

自民党に対する不満が高まっても他政党には期待できない不健全な状態にあり、一刻も早く対抗馬となる政党が出てくることを期待したい。

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