異次元緩和の円安対応「値上げ」が最多

ロイター企業調査:異次元緩和の円安対応「値上げ」が最多
4月19日、ロイター企業調査によると、日銀の異次元緩和に伴う円安への対応策として、値上げを検討している企業が全体の3割程度を占め、最も多かった。2月撮影(2013年 ロイター/Shohei Miyano)
[東京 19日 ロイター] 4月ロイター企業調査によると、日銀の異次元緩和に伴う円安への対応策として、値上げを検討している企業が全体の3割程度を占め、最も多かった。輸入調達コスト上昇を受け、値上げを検討する企業がある程度広がりを見せており、物価上昇に転じる可能性がある。次いで、国内生産拡大との回答が多く、空洞化への歯止めが期待される。
ただ、物価が実際に2%上昇することで業績が好転すると期待する企業は3割程度にとどまった。7割は必ずしも好影響を見通しておらず、かえって景気悪化を招いたり、コスト上昇に見舞われることを不安視している。また異次元緩和に際し、政府・日銀は、金利上昇など市場の急変や財政への信認維持といった点に最も配慮すべきとの意見が多かった。
<国内値上げ・海外値下げで対応、国内回帰の動きも>
異次元緩和の発表以降、為替市場では1ドル100円直前まで円安が進行した。そのメリットは輸出企業の収益改善などに表れつつある一方で、原材料の調達コスト上昇などのデメリットも生じている。
企業が検討している円安対応策として最も多かったのが、輸入コスト上昇を吸収するための製品・サービスの値上げ。製造業で29%、非製造業で34%に上った。コスト上昇分を全て転嫁することが難しくても、何がしかの値上げを実施する企業が広がると、国内物価に影響が出ることが予想される。値上げを回避するためのコストカットの努力も必要となり、「商社に対し外材等の値下げ交渉に入る」(不動産)など、原材料費の値下げに取り組む企業もある。
逆に海外販売では円安メリットを生かして販売価格を引き下げることも検討されており、輸出比率の高い製造業では25%に上った。「為替メリットを生かした海外販売のシェア拡大」(化学)など、値下げで海外競争力を確保し、数量効果を狙う。また、円安に伴い国内生産を拡大する動きも多く、製造業で24%、非製造業では27%に上った。
一方、値上げ検討企業の割合に比べ、賃上げを検討する企業はわずかにとどまっている。製造業では5%、非製造業では10%にとどまり、所得増加が広がりを見せないうちに物価上昇が先行する可能性が濃厚だ。
<2%物価上昇、必ずしも好影響とは見ず>
2%という物価目標を2年で実現すべく、日銀は異次元緩和に踏み切ったが、5割の企業はその実現可能性について「わからない」としている。デフレから脱却し物価が安定して上昇するようになれば、企業活動にとって望ましいとの考え方から設定された目標だ。しかし、物価が上昇しても企業は必ずしも自社の業績を後押しするとはみていない。「業績に好影響がある」との回答は33%となったが、「影響はない」「悪影響」「わからない」など、好影響を見通せない企業が7割近くを占める。
好影響があると回答した企業からは「モノが動くようになれば生産が活性化され、設備投資の増加も期待できる」(電機)、「消費意欲が拡大する」(サービス)、「価格引き下げ圧力が低下する」(輸送用機械)などの期待感が聞かれる。
好影響を見通せない企業の中には、物価上昇に伴い「賃金の上昇が懸念される」(輸送用機械)として、業績に悪影響があると回答する企業もある。また「インフレ見合いの値上げが実施できるか不明」(機械)とするなど、価格転嫁が難しいとの見通しも引き続き根強い。他方、非製造業では「雇用者所得の増加が遅れることから、消費にはマイナスの影響」(サービス)といった声が目立つ。他方、長期にわたるデフレが続いてきたためか、急激に物価上昇に転じることに「想定したことがなく、わからない」(卸売)、「2%のインフレが受注に与える影響を判断できない」(建設)などと、戸惑いの声も上がっている。
<金利上昇や財政信認低下に配慮を>
異次元緩和の副作用について企業が不安を感じているのは、金融市場の安定が崩れて、企業活動にまで支障が及ぶことだ。政府・日銀が最も配慮すべきこととして「金利上昇など市場の急変」を選択した企業は全体の36%と最も多かった。すでに日銀による巨額の国債買い入れの影響で国債金利は乱高下、長期金利は異次元緩和以前よりも高めの水準となっている。「米金利上昇局面による円安の中で、国内金利の調整は難しい」(繊維・紙パルプ)との声や、「あまり急激な変化ではなく、漸進が望ましい」(運輸)との見方がある。また、財政の甘えにつながる危険性もあり、「財政への信認」を選択した企業も26%と多かった。財政への信認が低下すれば、国債金利の上昇につながり、企業にとっては資金調達コストに影響しかねない。
<コスト増より国内需要停滞懸念強く>
円安や株高、大型補正予算の効果で当面景気は上向くと予想されているものの、企業は楽観していない。自社の事業活動にとって当面の最も大きな懸念材料として、「内需の停滞」を挙げた企業が最も多かった。製造業では27%、非製造業では41%にのぼった。マインド指標は大幅に改善しているものの、それが実需に結び付いていくかどうかについて、企業が慎重にみていることがうかがえる。製造業では、「外需の失速」を挙げた企業も21%にのぼり、「欧州危機再燃」を合わせると33%となった。「円高」を挙げる企業は製造業でも8%にとどまり、異次元緩和が継続することから、円高の再来はないとみていることがうかがえる。
一方、「エネルギーコスト上昇」を挙げた企業は非製造業で多く、31%にのぼった。売り上げ面での円安メリットの小さい内需企業にとっては、エネルギー価格の上昇はそのまま収益を圧迫する。内需停滞と相まって異次元緩和の好影響が打ち消される可能性もある。
(ロイターニュース 中川泉 編集:石田仁志)

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