prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
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「白鯨との闘い」

2016年01月30日 | 映画
舞台になっているナンタケットというと、エドガー・アラン・ポーの唯一の長編小説「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」で知った。世界有数の捕鯨港だったのだが、この小説は遭難した船員たちのうちくじ引きして選ばれたリチャード・パーカーという若い船員が食べられてしまう、という内容で、しかもこの小説の46年後にミニョネット号事件というやはり似たような人肉食事件があって被害者の名が偶然にもリチャード・パーカー、という奇怪なシンクロニシティがあった。それをまたモチーフにした小説が「パイの物語」(映画化「ライフ・オブ・パイ」)ということになる。
その遭難とサバイバルのモチーフがこの「白鯨との闘い」でも見られる。

こういう怪談じみたシンクロが出てくるのもそれだけ遭難事故が多かったということだろうし、それを後押ししているのが鯨油が膨大な利潤を生んでいてかなりの無茶が通る構造や出自の差別であることがこのドラマの根幹に置かれているのが強み。アメリカという国は歴史がないくせに、というかないからか案外と名家意識が強い。

鯨から油をとる手順が「白鯨」の小説だと脂肪の層が一メートルもあることがあるといった記述を含めてまるまる一章を費やしていたりするが、そこまでいかなくてもかなり汚らしい描写を含めて丹念にやっている。終盤の石油がとれるようになって鯨油の需要が激減するであろう産業構造の変化の暗示もおもしろい。

「ジョーズ」はかなり「白鯨」を参考にしていたわけだが、「白鯨」の元ネタだという事実を描くこの物語はぐるっと巡って「ジョーズ」に近くなったみたいな感じがある。
つまり巨大な海の怪物に襲われることで海からの富で成り立っている共同体の存立基盤が脅かされ、それを隠蔽しようとする支配層との葛藤が生まれるというドラマという点で共通している。
ただドラマの組み立てとすると白鯨との闘いよりあとにとってつけたみたいで白鯨そのものの神秘的な魅力は後退した感は否めない。というか、それは「白鯨」の方でどうぞということだろう。

捕鯨の描写の迫力は前代未聞といってよく、CGではどんな映像でも作れると頭でわかっていてもどうやって作ったのかと呆然となるレベル。
(☆☆☆★★)


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白鯨との闘い@ぴあ映画生活

映画『白鯨との闘い』 - シネマトゥデイ


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