2013-08-31

文章系専門学校で学んだこと

http://anond.hatelabo.jp/20130830202223

小説を書くための学校に、2年間通った。

特定を恐れずに、その経験談を書いておこうと思う。

最初教科書本多勝一木下是雄だった。

400文字詰原稿用紙のレポートを何度も書かされた。学校までの道案内や入学式の報告といった、無味乾燥としたレポートだ。

その400文字は、先生の厳しい添削で真っ赤になるのが常だった。

まともな文章をたった400文字すら書けない。その現実の中で僕らはもがいた。

本を読んだ。

プラトンから神々の指紋」まである推薦図書のリストがあって、半分は読んだと思う。(神々の指紋は残念ながら読んでいない)

村上春樹吉本ばなな江國香織好きな人が仲間内では多かった。一方で、ラノベばかり読むグループもいた。

僕自身は、SF古典人文学系の新書を読んでいたと思う。

その時期いちばん読んで良かったと思うのは、佐藤信夫の「レトリック感覚」「レトリック認識」だった。

ただ、読んで良かった、という気持ちだけが残っていて、内容は詳しく覚えていない。

50枚の短編小説を書くのが、1年目の目標だった。

50枚書くことは難しくなかった。

夏にはもう初稿が提出できて、先生にはそれなりに褒めてもらえた。

しかし、自作何となく気に入らなくて、勝手最初から書き直してしまった。

それから、文章を先生に褒められることは一度もなかった。

書き直した作品は、生徒みんなの前で罵倒された。(トラウマだ)

合計で7回は書き直したと思うけれど、何度やっても評価はされなかった。

2年目の卒業制作100枚の中編だった。

そちらも同じように失敗した。

レポートなども合計すると、2年間で2000枚は書いたと思う。

授業では色々な人から話を聴いた。

某有名ゲームプランニングをしていた人・女性雑誌編集長とある古参ハッカーラノベ大御所・今ではずいぶん有名になってしまった当時の新人作家……。

映画演劇もたくさん見せてもらった。レポート宿題が必ず付いていたけれど。

民俗学古事記を読んだり、美術学で有名絵画から聖書シンボルを読み解いたり、構造主義を応用して物語プロットを組み立てる授業もあった。

教えてくれる人はみんな(出来る範囲で)熱心で、青臭い自分言葉もちゃんと聞いてくれた。

ちなみに、小説先生は往年の一太郎ユーザーで、ESCから始めるショートカットばかり使っていた。

キーシーケンスの組み合わせを暗記していたようで、VimEmacsに通じるところがある。

日本語IMEについて、ATOKは使い物になるが一番良いのはWnnだ、と言っていた。その真意は定かではない。

提出ファイルにはShift-JISのプレーン・テキストを指定し、タイトル名前の入れ方も詳しく指示していた。おそらくマクロで処理したのだろう。

ただ、提出メディアフロッピーディスクだった。もう10年以上前の話で、テレホーダイ記憶が鮮やかだった頃だ。

僕が通っていた学校に限れば、環境としてそんなに悪いところだとは思わない。

当初は周囲を見回して傲慢になっていたけれど、その鼻柱は見事に折られてしまった。

客観的に言って、使おうと思えばいくらでも使える環境だったと思う。

ただ、進路が難しい。学校を出た後でどう生活を立てていくかが難しい。

日本社会の標準的ルートからはやはり外れているのだ。

卒業生の進路はそれぞれだった。

僕はPGSEの道に突き進んでしまった。

定職に就いていない人間もきっと多いだろう。

頭の良い同期は大学に転入した。

プロとして活動していると言えるのは、50人の同期の中で3〜5人だと思う。

(これはきっと、専門学校の中ではかなり良い割合に入る)

おそらく最良の選択は、大学に転入し、標準ルートに戻ることだ。

標準ルートを知ることも大事だし、それから生活を安定させてデビューを目指せば良いと思う。

(ただし金が掛かりそうだが……)

専門学校は、僕にとっては良い場所だった。

何も知らない自分に大きなトラウマを与えてくれたのは、本当にありがたい事だ。

ただ、自我の捨て方は教えてもらえなかった。

こればかりは、学校の外で年齢を重ねてから、知るほかなかった。

文章を書くには、どうしても、自我を捨てた部分が必要だ。

そう悟りながら、僕はいまだ書けないでいる。

純文学系の新人賞に一度だけ送って落選した実績しかまだない。

そして、日本語よりJavaを書く時間の方が長く、それよりもD言語を書きたいと思う毎日を、無為に過ごしているのだ。

追記

トラバでも言われてしまったけど、「学んだこと」と言いながら、学んだ技術的な内容をあまり書いていなかった。

多少参考になる部分があるかもしれないので、追記してみたい。

ストーリー構成の教科書としては、シドフィールドが使われていたようだ。

ただ、当時はろくな翻訳が無かったらしく、教師オリジナルテキストを使っていた。

ハリウッド流の伝統的な4分割構成が基本で、自分アイディアをとにかくそれに落とし込み、内的整合性を保って読者に提示する技術を教えられた。

たとえば下記のような点をチェックするよう繰り返し言われた。



他にも色々と細かいテクニックについて教えられた。書くときの気構えであったり、推敲添削方法であったり。

今はストーリー構成の良書も多いだろうし、自分教科書を集めて勉強できる環境も整っているかもしれない。

から自分で体系的な資料を集め、先生になってくれる人や切磋琢磨できる仲間を見つけ、継続的に書く環境を整えられれば、わざわざ専門学校に行く必要は無いだろう。

専門学校などという人生を浪費する施設より、週末の教室Webでの作品発表・添削という形の方が適しているかもしれない。今の時代はきっとそうだろう。

レベルの高い卒業生の作品を見ると、内的整合性の点では下手なラノベよりしっかりしているものが多かった。

しかし、

「全体的に整合性が取れていて、ちゃんとした盛り上がりがあり、伝統的な構成に従って無駄なく構成できているか?」

という問題と、

「それが商業的に売れるか?」

というのはまったく別の問題だ。

商業的消費はたぶん非体系的な世界で、体系的技術がそれにどこまで寄与できるかは分からない。

とあるデビューした卒業生処女作は、内的整合性など何も考えていない、次々と新しい要素がひたすら出現する怪作だった。

その一方で、しっかりした技術のある人が、なかなかデビューの糸口を見つけられないでいる。

ちゃんとした構成や一貫性よりも、変に魅力的な脇役が愛されたりするのが商業世界だ。

特に日本おいて、消費者は全体よりも部分を好む傾向が強いと思う。

そして、部分で受けることを狙うのはかなり難しい。

部分を愛する文化というのはきわめてハイコンテクスト文化で、普遍的一般的技術原理的に存在できない気がする。

それは様式美に満ちた世界で、日本の文化はそういった様式美の継ぎ足し・連続で出来上がっているようにも思う。

こういった事は加藤修一の「日本文学史序説」に素晴らしくまとまっていて、とても面白かったので、創作に関わる人は序章だけでも全員読んだ方が良いと思う。

マンガゲームアニメラノベも全部これで説明できるし、将来的にどんなもの日本流行するか判別する目安にもできそう。

これは学校では教えてもらえなかったテキストだ。

以上を要約すると、ちくま学芸文庫から上下巻で出ている加藤修一日本文学史序説」を3000円で思い切って買おう、それを読めば専門学校に行かなくても大丈夫場合によってはラノベを書かないで済ませられるかもしれない、ということだ。

記事への反応 -
  •  文芸系(多くがラノベ)の専門学校の体験入学やオープンキャンパスに行ってきた。「専門学校 ラノベ」でググると上位に表示されるような有名な学校に3つほど。  特に理由はない。...

    • http://anond.hatelabo.jp/20130830202223 小説を書くための学校に、2年間通った。 特定を恐れずに、その経験談を書いておこうと思う。 最初の教科書は本多勝一と木下是雄だった。 400文字詰原...

      • えーと、つまり専門学校なのに専門的なことは何一つ教えてもらえず、罵倒されただけってことでしょ。 その学校には体系的に物事を教えられる教師は存在せず、世の中で評判の良いテ...

      • http://anond.hatelabo.jp/20130830202223(最初のトラバ先) http://anond.hatelabo.jp/20130831142238(自分の記事) 元増田の人が2nd Seasonを書いてくれたので、こういった若い人たちに役立ちそうな知識を...

    • 横レスで済まないがWordは便利だぞ。章にスタイル1、段落の最初の一文にスタイル2あたり指定しておけばあとでアウトライン確認できるし、各段落に飛ぶのもナビゲーションウィンドウ...

      • notepad.exeはそういうのないけど、アウトラインについてはこういう実装あるよ sakuraエディタのアウトライン解析を発見!CSS修正がいい感じ♪ http://es.istgut.jp/web-tools/sakuracss.html とり...

        • 物書きがwordを使わない理由にはならないよ。どうでもいいけど。

        • お、おう。プログラマなのでこれは知ってるんだが、小説書くときにはわざわざ記号入れなきゃいけないわけだよね?原稿清書で消さなきゃいけないわけだよね? あとページ数わからな...

    • 専門学校ってのは、それが好きな人がいく学校だぞ? プロになるための学校ではない。 つまり「ラノベを読むのが好き」な人が行く学校だ。 学ぶとかそういう話は誰もしていない。

    • ラノベ作家になりたいなら法政大学の金原瑞人ゼミに入るのが一番じゃね? 古橋秀之、秋山瑞人を輩出し、芥川賞作家も出してるし。 専門学校よりは実績あるよね。

    • 多分本当にひどいんだろうけど そもそも文章書くのって才能だよね テクニックじゃない

    • >物書きはプレーンテキスト形式で、テキストエディタ使って書くよ Emacs最高!一番好きなバーガーです!

    • 美術に関しては専門学校は言うに及ばず、大学ですら酷い。 どの大学も技術的指導なんて行わない。上手い奴は上手く、下手な奴は4年経っても下手なまま。 美大ってのは、卒論書く代...

      • んじゃその美術予備校が「絵で食う(≒年収300万円x40年)」のなんか足しになるんですか? といわれれば、それは果てしなく疑問。 だいたいのところ、ライトノベルの専門学校と同...

        • そこでまず、どう学ぶか、から学ぶんだろ。 だから、そこですべて学ぶんじゃなくて、まず何をすればいいか、っていう基礎を得られるかどうか、ってことじゃない? それさえできれば...

          • 日本で「絵で食ってる人」のおそらく90%くらいは、地方のチラシの捨てカット描いてたりするわけですが、彼らが美術予備校通ってたりするわけですかね? 彼らが「食べる」技術が、...

            • つまり、日本で「絵で食ってる人」のおそらく90%くらいは糞虫だということか。 別に絵で食うどうこうとかどうでもいいけど、最低限それくらい出来るのが条件でやってると思ったけど...

              • 糞虫と言ってるのはそっちでこっちじゃないっすな。 こちらとしては、美術予備校に通ってたかどうかよりも、社会の中で生産して生きている方がよほど価値があって上等だと思うんだ...

                • カテゴライズしたのはそっちでしょ?そういうレベルの人達が居るんだってのは別に意識してなかったし。 こちらとしては、美術予備校に通ってたかどうかよりも、社会の中で生産し...

    • 冷やかしで専門学校三つもめぐっちゃうの?

    • すげえな…専門学校ってのは… 最近だと京都精華大の「マンガ学部」や東京工科大の「ゲーム学科」にも驚いたけど ところで誰か以前はてブでも話題になったボカロP学科の話知らない...

    •  先回のエントリー( http://anond.hatelabo.jp/20130830202223 )は好評だったみたい。  ブラウザの履歴消して、Google垢からログアウトしてから「専門学校 ラノベ」で検索したら、くだんのエン...

      • ラノベ作家、漫画家、ゲームクリエーターなどを養成する専門学校の体験入学に参加してきました。 入るつもりは全くないのですけど、後学と言いますか社会の闇を見たくなって突撃し...

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    • 前回までのタマスジ https://anond.hatelabo.jp/20130830202223 https://anond.hatelabo.jp/20130901102804 https://anond.hatelabo.jp/20160813154757 ※本エントリーは上記エントリーを読まなくても楽しめるよ★ 交通費と...

      • 5年掛けてひたすらラノベ専門学校をdisってるというのも気持ち悪いな。

      • 積極的に私が他の参加者に話かけようとすると「やめてください」とスタッフに制止される。 「弱い子が多いんです」というのがその理由。何が弱いのか? 頭? 自尊心? あと、...

        • 最初2013年から始まっているから、5年間も粘着しているんだろ。ラノベ専門学校もひどいかも知れないけど、それに執着している筆者も大概じゃないか? 完全に要注意人物として警戒さ...

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