DMC book
□VD
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ごぽり、ごぽりと
海の中を沈んでいく。
自らの息が吐き出され、気泡となって自分から離れていく。
なんだかそれがとても惜しいように感じるが、自分の身体は沈んでいくだけでもがく事も手を伸ばす事も許してくれない。水中にたゆたうアミュレットがやけに綺麗で笑みがこぼれた。
不思議と苦しさは無くただゆっくりと沈んでいくだけの状態、どれほどそうしていたのかも分からないダンテは飽きたとばかりに、水面を見つめるのをやめた。
「沈みきったそこには何がある」
脈略の無い長の言葉に驚くでもなく、バージルは長の髪の毛を弄んでいた指の動きを少し止めて笑みを浮かべる。
沈みきった先にあるものは底しか無い。そこには答えがあるのかもしれないし、安心や求めてやまないものがあるのかもしれない。
母なる海はその身の内に息子をかえらせんと手招いているのか。
答えを待っているのかのように、海のようだと例えられることもある自分とまったく同じ形をしたダンテの目がバージルを見つめている。
「何も無い。しかし沈むことはこの上なく心地いい」
まったくもって忌々しい。
かえしてなどやるものか、やっと手に入れた愛しくて愛しくてたまらない存在なのだ。
母からもらったアミュレットなど比べ物にならないほど大切な、大切な弟。
たとえ広大な海がその全てを掛けたとしても奪い取ることなどさせない。
引き上げられたその瞬間、苦しみが鮮明になろうとも。
「そこには何も無い、何も」
すくってちょうだい
(救って)(巣食って)(溺れてしまいそう)
心の奥で、胎児からやり直せたらと思うダンテと後悔されるのが嫌でたまらないバージル
2012.04.10 加筆修正