2010年1月10日
政治家の急所を突くような物まねや、歯にきぬ着せぬ痛烈な風刺で歴史を誇る米国の人気コメディー番組「サタデーナイト・ライブ」(SNL)が今年、日本に進出する。お茶の間への浸透を狙って提携相手に選んだのは、お笑い界の「日本代表」といえる吉本興業。超大国の最高指導者にすらひるまない、米国流のきつい風刺は、はたして日本でも受けるか。
「あのSNLが、ついにオバマをたたく辛口のコントをやった」。SNLは2009年10月、番組冒頭の寸劇で、大統領の公約が何一つ成し遂げられていないと皮肉った。
番組は、08年の大統領選で対抗する共和党の女性副大統領候補だったペイリン前アラスカ州知事の「知性」をちゃかし続け、「オバマ寄り」とみられてきた。大統領の支持率が下降していた矢先でもあり、このコントをCNNなど主要局がこぞってニュース番組で報じ、話題になった。
SNLは、米政界に最も影響力を持つコメディー番組とされる。タイトルの通り、3大ネットの一つNBCで毎週土曜日午後11時半から90分間、ニューヨークのスタジオから生放送される。毎週違うホスト役と、レギュラーのコメディー俳優陣が、十数本のコントを演じる。
ホスト役の常連には大物俳優の名が並び、スポーツ選手や政治家ら著名人が起用されることも多い。ものまねのコントには、ホワイトハウスの面々を頻繁に取り上げる。昨年11月21日の放送では、ゴア元副大統領本人が出演し、コントに参加した。
浮き沈みが激しい米のテレビ業界で、SNLは35周年を迎えようとしている。75年の番組開始時のレギュラー陣だったダン・エイクロイドら、米国を代表するコメディー俳優を生む登竜門になってきた。卒業後、エディ・マーフィーのように映画で活躍する例も。09年、上院議員(民主党)にミネソタ州から当選したアル・フランケンといった異色の存在もいる。
世界130カ国で放映されながら、日本は最後の「未開の地」とされていた。
そんな中、SNLの制作会社と吉本興業は08年夏から協議、提携関係を結んだ。吉本興業は09年9月に関連会社を立ち上げ、過去のコントで日本人に分かりやすいものを選び、試験的に動画サイトで映像を流した。2カ月間で約200万人が閲覧する大ヒットになったという。
こうした手応えを受け、吉本興業は今年から、同社が持つ番組内でSNLのコントを紹介し、春にはベテランタレントを起用して特番をつくる方針だ。同社の中多広志・取締役経営・財務戦略本部長は「将来は、SNLの脚本をアレンジし、日本版をつくりたい」。すでにイタリアやスペインでは、SNLのフォーマットを利用した番組が好視聴率を得ているという。
日本でも、すでに熱狂的なファンがいる。元フジテレビプロデューサーの横澤彪(たけし)さんも影響を受けた一人だ。80年代に「オレたちひょうきん族」を手がけた際、「大いに参考にしたというか、パクりました」。日本進出で「社会に何も影響を与えない今のテレビ界を変えることができるかも」と期待する。
ただ、不安も漏らした。「タレントも作家も、パロディーをできる人材がいるかどうか。視聴者の知的センスも問われる。うまくいくといいけどなあ」(ニューヨーク=田中光)