コラム:緊迫するロシアとトルコ、「第3次大戦」防ぐ処方箋

コラム:緊迫するロシアとトルコ、「第3次大戦」防ぐ処方箋
 11月25日、加盟国のトルコがロシア軍機を撃墜したことで、北大西洋条約機構(NATO)は未知の領域へと足を踏み入れた。写真はロシアのスホイ24戦闘爆撃機。シリアのラタキア近郊の空軍基地で撮影。ロシア国防省が7日提供(2015年 ロイター)
Joshua W. Walker
[25日 ロイター] - 加盟国のトルコが24日、ロシア軍機を撃墜したことで、北大西洋条約機構(NATO)は未知の領域へと足を踏み入れた。第3次世界大戦を防ぐために、米国政府が双方を和解させることが急務である。
トルコ政府の「ロシア機は、繰り返し警告を与えたにもかかわらず、シリア国境に近いトルコ領空を侵犯した」という主張の裏付けとなる詳細はこれから明らかになるところだ。
はっきりしているのは、この事件には長い前触れがあるということだ。シリア政策をめぐって、トルコとロシア両政府のあいだでは対立が急激に高まっていた。ロシアがアサド政権支援のためにシリア領内での空爆を開始して以来、ロシア軍機は繰り返しトルコ領空を侵犯してきた。
過激派組織「イスラム国」が犯行声明を出したアンカラ、シナイ半島、パリでの爆弾攻撃以降、同組織に対する「大連合」への希望が生まれていたというのに、今や中東にほとんど残されていない平和と安定を救うための緊張緩和が急務になってしまった。
ロシア政府がただちに、同国機撃墜は「背信行為」でありイスラム国への支援になるとしてトルコ政府を非難し、プーチン大統領が「重大な影響」をもたらすと警告したことは、シリア情勢がすべての当事者にとっていかに重要であるかを却って浮き彫りにしている。
シリア情勢の波及を食い止められるかもしれないという希望は霧散してしまった。
ロシア機のパイロットはシリア北部地域に脱出降下した可能性が高いが、トルコが同地に暮らすトルクメン人住民を民族的なつながりゆえに支援していることも、現場での状況をさらに複雑にしている。
シリアのアサド大統領及びロシアやイランの支援を受けた政権側部隊と戦っているクルド人部隊、イスラム主義者、反政府グループのあいだには対立があり、地上での勝利は期待できない。
空におけるこれ以上の衝突を避け、ロシアによる何らかの報復措置を防ぐために、NATOはトルコへの支持を再確認するとともに、ただちにシリア上空での一時飛行停止を呼びかけなければならない。
米国にとってトルコはNATOの同盟国、ロシアはライバルだが、仲裁役として米国の独自の立場がこれほどふさわしい例は過去に見られない。
先日のパリ同時攻撃と、先週トルコで開催されたG20首脳会議での進捗によって、イスラム国打倒に向けた共同アプローチが発展するのではないかと期待していた米政府関係者は多い。トルコは、首都アンカラでの爆弾テロの後でさえ、アサド政権排除につながらない形で中東地域に外国が干渉することを懸念している。地域の混乱の収拾を押しつけられるのは自分たちではないかという恐れがあるからだ。
現時点でさえ、トルコは世界で最も多くの難民を受け入れている。またシリア内戦は、トルコ政府が数十年にわたり続けているクルド人武装勢力との戦いとも絡んできつつある。クルド人武装勢力の一部は現在、米国からの支援を受けている。
望みうる最善の状況は、トルコとロシア両政府が、お互いの依存関係と対立激化がもたらす高い代償を現実的に注視し、シリア情勢を契機として両国が直接戦火を交える事態に至るのを避けることだ。
アサド政権の将来を軸とする幅広い地域的・政治的な妥協の一環として、今、ロシアとトルコを同じテーブルにつかせなければならない。
短期的にはアサド政権の存在を含んではいるが、長期的にはその体制を変革していくことを可能とするような出口戦略を考案することは、困難ではあるが不可能ではなかろう。
そのような解決策があれば、ロシア政府もイラン政府もメンツを保ち、さまざまな同盟国を再結集することが可能になる。トルコが「地域の問題は地域で解決」することを求めていることを踏まえて、NATO諸国はトルコ政府を支え、同国を宗派性のない地域のリーダーにしていくべきである。
その一環として、イラン及びロシアの影響力に対抗すべく、シリア政府にとって必要不可欠な開発援助を提供させるようアラブ諸国及びスンニ派勢力にプレッシャーをかけなければならない。
これと平行して、「アサド後」のシリアがどのようになろうと、シリアの地中海沿岸のラタキアにロシアが持つ拠点は維持されるという安心感をロシアに与えなければならない。
今年前半の激しい選挙戦の影響で、これまでトルコ政府の動きは鈍かった。だが、プーチン氏はトルコのエルドアン大統領を軽視していた可能性がある。エルドアン氏率いる与党・公正発展党の政治課題は今や明確になった。「力による安定」である。
かつてはお互いを友人と認め合っていた双方の首脳の「顔を立てる」ためには、オバマ米大統領とオランド仏大統領から自制を求めることが必要不可欠であり、かつ最も効果が高いだろう。イスラム国掃討を目指す大連合について協議するためにモスクワとワシントンを行き来するのであれば、そこにトルコを加えなければ今や成功は不可能である。
経済力、軍事力、情報力のいずれをとっても中東地域最大であり、同地域唯一のNATO加盟国であるトルコがロシアと対立したままでは、中東の混乱が加速するばかりだ。
さらなる戦いを避けるには、すべての関係国が状況をエスカレートさせないという共通の関心事に集中する必要がある。共通の敵であるイスラム国に集中しなければならない。 シリア、イラクを主権国家として政治的に再編するという戦略を促進するためには、イスラム国を軍事的に打倒することだ。
オバマ氏はイラクにおけるジョージ・W・ブッシュ前大統領の行動を繰り返すことを慎重に避けてきたが、今こそ米国は、さらなる戦いを防ぐために持てる力を尽くさなければならない。
中東の真ん中での「権力の空白」は、ほぼ必ずと言っていいほど、より悪い結果につながってきた。今、地域が主体となる平和を準備することがすべての当事者にとって必須であり、相互の合意を得るべき分野である。
トルコとロシアを含む地域首脳会議の開催をNATOが呼びかければ、両国が今週の事件を意識の隅に追いやることができ、すべての関係者が共通の敵に集中しやすくなるだろう。
*筆者は米ジャーマン・マーシャル基金のトランスアトランティック・フェロー。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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