東京電力福島第一原発事故で拡散した放射性物質の除染作業が県内全域で本格化する中、NPO法人放射線安全フォーラム副理事長で県除染アドバイザーなどを務める田中俊一氏に放射線量低減に向けた今後の課題や放射線防護の考え方などを聞いた。
−県内の放射性物質の除染の進捗状況をどう見るか。
「県民が感じているように進み具合は、かなり遅れていると感じる。やはり国の対応が良くない。基準策定や計画づくりなどに時間をかけすぎて進んでいないのが現状だ。モデル事業や実証試験も結果が出るまでが遅い。自治体への除染の補助についても対象となる施設や作業内容などの条件が多く、地元の実情に合っていない部分も多い。国や県はより使いやすい要項を決めて交付し、市町村に使い道を任せるべきではないか」
−避難区域の住民の帰還に向け、国が直轄で行う除染はどのように進めるべきか。
「国の除染工程表には7月ごろから本格的に除染作業を始めるとあるが、もっと早くすべきだ。夏になれば雑草が生い茂り、作業がしづらくなるので春のうちにすぐに作業に乗り出さなくてはならない。作業の効率を上げるために常磐自動車道などインフラの除染が優先事項になる。道路などの除染は既に手法が確立されている。参加企業によるモデル事業で確かめず、すぐさま除染に取り掛かった方がいいのではないか」
−避難区域外の「汚染状況重点調査地域」などでも仮置き場の確保が進まず、除染が難航している。
「仮置き場の設置については、行政、住民の両方に環境の回復に向けた『覚悟』が必要になってくる。行政が設置場所を判断したことを踏まえ、専門的な知見から技術的な安全性と除染をする上での必要性をしっかり住民に説明しなくてはいけない。伊達市は梁川町の街中にある庁舎の近くに仮置き場を設置し、安全性を説明している。住民としても自分たちの生活の場を守るために必要との理解を深めるべきだ」
−除染を進める上で県、市町村はどういった役割を果たすべきか。
「福島の深刻な状況を国にしっかりと説明しないといけない。県はこれまで国に具体的な提案が少なかったように思う。中間貯蔵施設の設置についてもっとリーダーシップを発揮すべきではないか」
−作業が本格化する中、除染ボランティアの協力も不可欠では。
「国の放射線防護面はあやふやな点が多い。県民は年間の被ばく線量が20ミリシーベルトを超えないように管理しているが、除染ボランティアのガイドラインで基準は年間一ミリシーベルトとしている。今は平常時ではない。スピード感と効率を考えて進めていく必要がある」
−地域の除染体制づくりはどのように進めたらいいのか。
「住民自らが行う除染の仕組みづくりが必要となってくる。伊達市には住民組織の中で、除染に取り組むチームを複数つくって環境回復に取り組んでいる。私が関わった除染作業では、住民が自分たちの手で作業を行った。放射線量低減の効果を実感することで、作業がより進むという効果が見られた。地域のまとまりをつくることが大切だ」
−放射線防護の基準について国に求めることは。
「除染もそうだが、健康管理について国は科学的な根拠に基づかない基準を設定している。食品の基準を一キロ当たり500ベクレルから100ベクレルに下げ、水は100ベクレルから10ベクレルまでに下げることとなったが、数字だけが一人歩きしている。基準を超えたものは有害にとらえられ、住民を混乱させている。風評被害や将来の不安を拡大しているように思う。専門的な知見から言えば、厳格化するばかりでは理にかなっていないことを国にしっかり認識してほしい」
■たなか・しゅんいち
福島市出身。会津高、東北大工学部原子核工学科卒。日本原子力研究所に勤務し、日本原子力学会長、内閣府原子力委員長代理などを歴任。昨年7月から県と伊達市の除染アドバイザー。67歳。
(カテゴリー:震災から1年)